【課題別研修】SDGsに配慮した包括的な畜産振興の取り組み/70日間の訪日研修で持続可能な畜産振興をすすめる
2024.01.29
世界の人口増加に伴い、畜産物の安全と安定供給の重要度は増しています。一方で、天候不順や国際穀物価格の高騰など畜産農家が直面するリスクは増しており、畜産農家のレジリエンス(強靭性)を向上させることは一刻を争う課題です。さらに、畜産業における環境負荷への配慮を求める声が年々高まっている背景もあり、安定生産と両立できる持続可能な畜産振興が求められています。
ソマリアのアフメドさんが紹介した干ばつによる被害
悪天候や自然災害、外的要因における畜産農家を取り巻くリスクが増加する中、特に開発途上国では、レジリエンスを向上し、より効率的で収益性の高い家畜生産を行うための知識と実用的な技術が必要とされています。
さらに現代の畜産業においては、温室効果ガス排出や過放牧などを含めた環境負荷を最小限に抑えることが求められています※。2022年度まで実施されてきた開発途上国の畜産行政官向けの研修をリニューアルし、環境負荷にも配慮した畜産技術の開発や農家の収益向上について包括的に学べる研修が2023年度からスタートしました。
※温室効果ガスの農業活動自体からの排出割合は全体の1割ほどで、そのうち反すう家畜からのメタン排出と家畜排せつ物からの排出は農業活動排出の約6.5割に達するとの指摘があります。
来日研修は、2023年9月8日〜11月14日までの70日間の日程で行われ、フィリピン、ベトナム、フィジー、サモア、ジャマイカ、ナイジェリア、ソマリア、ブルンジ、モザンビークの9カ国から1名ずつ研修員が参加。行政官や研究者、獣医師、畜産技術者などが集まりました。
研修開始当初のNLBC研修所での集合写真
NLBCでの開講式の様子
JICA東京でのオリエンテーションを皮切りに始まった本研修は、委託先である独立行政法人家畜改良センター(NLBC)が本所を構える福島県西郷村に移動し、本所を拠点に行われました。NLBCは、畜産の新技術や知見を普及する畜産の専門機関。研修では、同センターの人材と資源を活用した、現場での視察や実習、座学講義といった、技術研修に力を入れたカリキュラムを組み、本所以外では奥羽牧場(青森県十和田市)や岩手牧場(岩手県盛岡市)まで足を伸ばし、JGAPやHACCPの基準を満たした衛生管理や飼養管理などの実用的な技術を学びました。作業着に着替えて実際に草地に入り、日本の家畜や飼料に触れ、飼養環境に身を置きながら多様な実習を経験したことは、技術的な学びにとどまらない多くの気づきや発見をもたらしたようです。
さらに公的機関や教育機関、民間企業や一般の家畜生産者の協力を得ながら、育種改良や飼料資源、繁殖、生産管理、家畜衛生、食肉処理、食品衛生検査など、家畜が畜産物として出荷されるまでの工程におけるそれぞれの専門機関から講義を受けることで、収益性の高い家畜生産を実現するための項目を体系的に理解することができました。
牧場での研修:牛の体格を測定しています
生産者との会話の様子や食肉工場などの見学の様子
家畜市場の中
JICA東北で本研修を担当した川村誠輝職員は「畜産振興は、食糧安定供給、環境問題、貧困対策、医療保健課題の解決にも寄与する地球課題。なかでも畜産業における環境負荷の軽減は現在では主流の取り組みとなっており、開発途上国の担当者にとってもSDGsの認識を持ち対策を講じることが必要です。一方で、開発途上国では地域によっていまだに家畜が成体になる前に約2割が死んでしまうという現状も。この研修は、成体まで健康に育成するための基本的な飼養管理技術から将来必要になる高度技術まで実践的に学べます。日本では当たり前の飼養方法も、研修員にとっては目から鱗だったようです」と振り返ります。「また、防疫措置には細心の注意を払いました。研修員が現場で直接家畜に触れる研修があるため、あらゆる対応を徹底して行いました」と、家畜の生体を扱う研修を海外の研修員が実施するために繊細な対応があることを理解できたようです。
フィリピンから参加した研修員のジェシカさんは、「研修内容はとても有益で、畜産業の発展に重要な事柄を多く学ぶことができました。初めて知ることも多く、農場での実践的な管理方法を学べたので、自国の農家にさっそく活用したいと思います。飼料と繁殖に関する講義は特に有用と感じました」とコメントしています。
研修員による終了時のアンケートでは、「講師の専門性について」の問いに研修員8名が最高評価をつけ、さらに「講師の発表・説明は理解しやすかったか」の問いに4名が最高評価をつけるなど、講師陣が対面での質疑応答に丁寧に対応したこともあり、4年ぶりに来日した研修員の満足度は高いものとなりました。
防疫対策の様子(消毒や作業着など):研修初日に持参した靴やスマホなどを消毒しました
防疫対策は現地実習の一環として繰り返し実施しました
熱心に学ぶ研修員の様子:牛を使った繁殖技術実習 -奥羽牧場と岩手牧場に分かれて行いました
岩手牧場グループ
研修員は協力して様々な現地実習を行いました
帰国後、研修員は6ヶ月の進捗を報告する予定です。70日間の日本での学びや、日本で新たに得られたコミュニティを維持、また情報共有しながら、ぜひ親日家のリーダーとして自国の将来の畜産振興に貢献することが期待されています。
JICA経済開発部で本研修を担当するプンツァグスレン アルタンスフさんは「本研修はJICAが畜産分野で実施している研修の中でも人気が高く、途上国の獣医・畜産技術者からも高く評価されています。その理由は、研修計画からGI作成、研修員の来日前からのフォロー、日本での研修実施と帰国までの一連のプログラムをJICAとNLBCが密に連携し丁寧に対応しているからに他なりません。研修員が作成したアクションプランの実施に当たっては、JICA現地事務所の協力を得ながら帰国研修員フォローアップ活動に対する支援を積極的に行い、それぞれの国の課題解決への貢献を目指します。」と、帰国後の参加者の活躍を期待しています。
アクションプラン発表の様子(フィリピンのジェシカさん)
閉講式の様子 研修員代表からの挨拶(モザンビークのアビリオさん)
修了証書と記念品を授与されました
親日家のリーダーとして活躍を期待しています:白河小峰城
南湖公園
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