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【青年研修】再生可能エネルギーA/島国フィリピンの資源を活かした地産地消の発電事業を推進するために

2024.10.23

フィリピンでは、「国家再生可能エネルギー計画(National Renewable Energy Plan)2020-2040」を策定し、2030年までに再生可能エネルギーの国内供給率を35%、また2040年までに50%まで引き上げることを目標に掲げています。日本と同様にフィリピンはさまざまな島から成る島国であるがゆえ、離島電力インフラ整備が大きな課題となる一方、海洋資源を生かした洋上風力発電への投資機運が高まっています。そこで、推進が期待される再生可能エネルギーの振興政策に携わるフィリピンの若手行政官等を対象に、日本の先進地域である秋田に学ぶ本青年研修をこのほど開催しました。

送電線未整備のフィリピンにも導入可能な再エネ事業を知る

国民の所得に対して電気料金の高さが話題になることも多いフィリピン。エネルギー資源を輸入に頼るのではなく、フィリピン国内の地域資源を活かした再生可能エネルギーの開発と振興に向けて、現在、国をあげて力を注いでいます。そうした中で、2024年7月9日から25日までのおよそ2週間の日程でフィリピンの若手行政官や金融機関、公営企業の関係者13名が来日。彼らを対象に日本でも先駆的取り組みを数多く実施している秋田において青年研修『再生可能エネルギーA』を開催しました。

フィリピンを対象国として本研修を行うのは今回が初めて。日進月歩の再生可能エネルギー事業は、技術開発のみならず、運用面の制度設計や実施組織を含む仕組みづくりが重要で、継続するための資金面においても課題が多いとされています。

秋田県沖の洋上風力発電を見学

秋田県沖の洋上風力発電を見学

先進自治体の秋田で知る、日本の再生エネルギー開発の現在地と課題

秋田県秋田市を中心に行われた本プログラム。国から「次世代エネルギーパーク[1]」の指定を受ける秋田市は、再生可能エネルギーの国内最前線の地であり、千葉大学らの調査[2]によると、秋田市を含む秋田県の再生可能エネルギー自給率は、2023年度58.3%で、全国の都道府県で第1位となっています。 また、その内訳は風力が43%、地熱19%、小水力13%、太陽光9%と、多種多様な発電が行われています。中でも2023年1月に国内初稼働となった洋上風力発電は、すでに秋田県近海で33基が商業稼働しており、数年中に150基まで増設される予定です。本研修の委託先である『あきた地球環境会議(以下:CEEA)』事務局長の福岡真理子さんは、「秋田県は、再生可能エネルギー普及率が非常に高く、その発電設備の保持数は国内トップレベル。来日した13名に地域資源を活用した多様な発電システムを実際に見学してもらい、開発や運用の手法、課題とその解決方法について直接関係者と話せる機会を設けました」と語ります。同じくCEEAのコーディネーターを務める岩本承子さんは、本プログラムの構成について、「13名は所属や専門分野も異なり、フィリピン国内のさまざまな地域から集合したメンバーであるため、まずは再生可能エネルギー分野の基本的な知識を幅広く網羅した上で、国の制度設計や自治体の役割、事業継続のためのファイナンスについて、多角的に学べるようなカリキュラムに工夫しました」と、その狙いを話します。

特に力を入れたのは、ファイナンス。「エネルギー施設の開発・運用において必要となる莫大な資金の調達は大きな課題のひとつ。今回は実際に秋田でプロジェクトに関わっている金融機関から講師を招き、資金確保や管理、投資戦略について最新事例を交えて紹介してもらいました。大規模なプロジェクトであればプロジェクトファイナンス、小規模であれば市民ファンドも選択肢となること、また資金調達に際してどの主体にどのアプローチを行うべきかまで、実践的なレクチャーを行いました」と、福岡さん。さらに、「島国としての立地を活かせる洋上風力発電や、地域の子どもたちに向けた環境教育といったトピックスも充実させるなど、事前にフィリピン側から得た情報をもとにフィリピンにも導入しやすい内容に力を入れました」と岩本さんも続けます。

13名は熱心にメモを取り集中して講義を受けていました

13名は熱心にメモを取り集中して講義を受けていました

多種多様な発電施設を視察し、地域資源の効率的な活用法を学ぶ

13名は、洋上風力発電や秋田市営の廃棄物発電、ゴミ埋立地を活用したメガソーラー発電、バイオマス発電、バイオガス発電、小水力発電など、秋田市近郊のさまざまな再エネ発電所を次々に視察。それぞれの特徴やメリット、課題などのレクチャーを受けるたびに、講師に熱心に質問を投げかけ、大変充実した意見交換の場となりました。さらに、研修プログラムには公民連携のプロジェクトや先進自治体の具体事例の紹介や考察、再エネを学ぶ大学生との懇談会なども盛り込まれました。

「日本のさまざまな持続可能なエネルギー発電所を視察できたことは非常に有益でした。現場訪問と専門家の指導により理解と知識が深まり、自国の再エネ分野に効果的に貢献するための実践的なスキルが身に付きました」と、国家電化庁( National Electrification Administration) のヴィンセントさん。

そして最も反響が大きかったのは、CEEAが力を入れた資金確保やファイナンスについての講義。ヴィンセントさんも、「資金調達に関するトピックスは、本研修の中で最も有益だと感じました。プロジェクトを成功させるために重要な資金源、財務モデル、投資戦略についての考え方を学ぶことができ、この知識は、将来の再生可能エネルギーへの取り組みのための資金を確保し、管理する上で最も重要になります」と、充実した学びの喜びを語っていました。

太陽光発電やバイオマス発電、小水力電力発電所視察の様子。規模感や地域の自然環境を体感し、自国での活用を検討します

太陽光発電やバイオマス発電、小水力電力発電所視察の様子。規模感や地域の自然環境を体感し、自国での活用を検討します

地域資源を活かした、フィリピン独自の再エネ事業に大いに期待

プログラムの最後には、各々が帰国後に取り組むアクションプランを作成し、発表。自らの職場に戻り、どのような人たちを巻き込んで開発を進めて行くか、各人からよく練られた実現可能性の高いプランが発表されました。講師陣からは、「さっそくこの学びを活かしたプランが出来ており、とても期待している」と応援のコメントが。福岡さんも、「送電線の未整備が課題とされる島国のフィリピンにおいて、分散型の再エネを活用した地産地消のエネルギー開発は、未来の社会を創る一歩。独自の発電システムを構築することが国際的な先進事例ともなり得るため、ぜひアクションプランを推進して欲しい」と、期待を寄せます。

再生可能エネルギー事業の技術や保守・運用だけでなく、プロジェクトを推進するための資金管理や、地域一体となって進めるエネルギー開発のあり方まで伝えた本研修プログラム。参加者の飛躍を見守りたいと思います。

プログラム最終日はフィリピンの正装を着てしっかり締めました

プログラム最終日はフィリピンの正装を着てしっかり締めました

関連リンク

[1] 自治体が企業などと連携し、再生可能エネルギーをはじめとした次世代のエネルギーに関する新たな取組を見学、体験できるような施設整備などを行うことを通じて、地球環境と調和した将来のエネルギーのあり方に関する理解の増進を図る計画を、資源エネルギー庁が認定するもの(秋田市HPより)
[2] 永続地帯2023年度版報告書 | 永続地帯 (sustainable-zone.com)

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