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【青年研修】防災とまちづくり/チームワークで学びを深めた13カ国17名の友情

2025.02.26

防災・減災の取り組みは、本来まちづくりに内包されているべきもの。しかし開発途上国においては、防災・減災を考慮せず、地域の脆弱性に十分な対応を行わないまま、無秩序に都市開発を進めたことで災害リスクが増大し、結果的に経済成長を遅らせる一因にもなっています。さらに最近では、大規模な地震や気候変動による風水害も増え、人命をはじめとする人間の安全保障を脅かしており、その対応がとりわけ急がれます。

世界各国からの要望に応え、過去最多13カ国が参加

2011年にスタートした青年研修『防災とまちづくり』は、東日本大震災の経験に学び、防災とまちづくりを同時に推進する知識と意識の向上を目指す、途上国の若手リーダー向けの研修プログラムです。岩手県を開催地とし、今回第14回となる研修は、2024年10月1日から15日にかけて実施されました。

特定の国や地域からの研修員を対象とすることが多かったこれまでに対し、今回は過去最多の13カ国から17名が参加。多発する災害に危機感を抱く各国の若手行政官や技術者たちから「防災分野をけん引する日本の知見を学びたい」「災害に強いコミュニティーをつくりたい」と多くの参加希望が寄せられたためです。参加国はフィジー、トンガ、ジョージア、アゼルバイジャン、キューバ、エクアドル、アルジェリア、ガンビア、マラウイ、モザンビーク、シエラレオネ、タンザニア、ボスニア・ヘルツェゴビナと、これまでにない多国籍な研修になりました。

大洋州、中央アジア、南米、アフリカ、欧州とさまざまな地域から参加した研修員たち

大洋州、中央アジア、南米、アフリカ、欧州とさまざまな地域から参加した研修員たち

防災教育をはじめ、幅広いテーマを取り上げた研修プログラム

研修では岩手県庁のある盛岡市を拠点に、東日本大震災発生時に後方支援拠点のあった遠野市、被災地となった釜石市、大船渡市、陸前高田市を訪問。災害発生時の応急対応の体制や、被災地での地域防災計画の策定、早期警戒システムの現状、東日本大震災で地域をあげて後方支援に携わったNPO法人の活動など、参加国の課題や関心に合わせた幅広いテーマを取り上げ、大規模災害のリスク削減について多角的に学びました。

中でも重視したのは防災教育です。研修を受託する一般財団法人岩手県青少年会館の鈴木雅雄さんは、その意図を次のように話します。「頻発する自然災害に備えるためには、日頃から防災意識を高めておく必要があります。そのためには子どもの頃からの防災教育が欠かせません。持続性も重要で、研修員からは『子どもを対象に避難訓練を行っているものの長期的に継続できておらず、いざ災害が起こった時に効果を発揮していない』といった課題も聞かれました。このため研修には釜石市の防災教育『いのちの教育』の講義を盛り込み、幼少期からの意識づけや日頃の訓練がいかに大切かを伝えていただきました」

陸前高田市の東日本大震災津波伝承館を視察

陸前高田市の東日本大震災津波伝承館を視察

釜石市での防災教育講座。写真は講師の方と

釜石市での防災教育講座。写真は講師の方と

東日本大震災の経験から学んだ、母国に必要な取り組み

万国共通の課題である防災教育は研修員からの反響も特に大きく、「東日本大震災における釜石市の児童・生徒の犠牲者ゼロの経験からは学ぶべき点が多く、自国でも早急に取り組むべき」との声が聞かれました。また、岩手県復興防災部からの講義で学んだ全国瞬時警報システム(Jアラート)や災害情報共有システム(Lアラート)についても「非常に高度で市民の安全をより確実にするもので、自国でも参考にしたい」と、高い関心が寄せられました。

研修の総仕上げとなるアクションプランにはこれらの学びが反映され、多くの研修員が防災教育や定期的な避難訓練の実施、早期警報システムの強化を帰国後の活動として計画。講師を務めた盛岡中央消防署前署長からは、「実現にはいくつもの困難があると思うが、目標に向かって努力され、貴国の国民の生活に寄与されることを願う」と激励がありました。

帰国後の活動計画となるアクションプランの発表

帰国後の活動計画となるアクションプランの発表

「同僚」から「友人」へ。抜群のチームワークで深まった学び

全体を通し、17名の真剣さが印象的だったと話すのは、研修を担当したJICA東北の小畑永彦さんです。「皆さん『自国に学びを持ち帰ろう』と非常に意欲的で、例年になく活発な質問に、講義の時間をたびたびオーバーするほどでした」と充実した研修を振り返ります。

さらに鈴木さんがあげたのが、研修員たちのチームワークのよさ。はじめこそ緊張で張り詰めた雰囲気だったそうですが、共通の目的を持つ仲間同士、打ち解けるのは早く、母国での経験を共有したり、講師に質問が伝わりにくいときには研修員同士でフォローしあったりする場面が随所で見られたといいます。

閉講式では、アルジェリアのラファさんが研修員代表として挨拶し「地元の生活に触れ、多くの学びを得て、すばらしい人たちと行動できた研修だった」と感謝を述べました。この挨拶に鈴木さんも心動かされたそうで「研修開始時の挨拶では『同僚を代表して』としていたところ、閉講式では『友人を代表して』に変わっていたのが印象的でした。研修期間中に水害が発生した参加国があったことも仲間の結束を強めたようです。ラファさんの言葉に涙する研修員もいました」と、温かい交流の様子を教えてくれました。

閉講式で研修生を代表し挨拶するラファさん

閉講式で研修生を代表し挨拶するラファさん

JICAとの連携と17名のつながりを生かした今後の活動に期待

文化も言葉も異なる者同士が、互いへの尊敬と信頼のもと質の高い研修を実現した今回は、今後に向けた数々のヒントも得られました。研修員からは「サイクロンや火山災害、干ばつなど、地震・津波以外の多様な災害についても学びたい」「日本文化についてもっと知りたい」といった意欲的な要望が寄せられました。

最後に帰国研修員に向けて「アクションを起こすうえではお金や時間がかかることもありますが、母国のJICA事務所とも連携し、さまざまな活動を展開してもらえたら」と応援の言葉をくれた鈴木さん。小畑さんも「スマホで写真やビデオが撮れる今の時代、研修で目にしたものをぜひビジュアルで母国の人たちに伝えてほしい。17名のつながりも続いていってくれたらうれしいですね」と、国を超えた連携に期待します。

最終日のさよならパーティーでは「盛岡さんさ踊り」保存会の皆さんと交流

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