【教師海外研修】ザンビアでの体験を子どもたちへどう伝えるか/開発教育のリーダーを育てる

2025.03.24
JICAは、教員の方々が開発途上国を実際に訪問し、その国の置かれた状況や課題、日本とその国との関係、国際協力の実情について理解を深め、その生の体験を児童・生徒への教育活動に役立てることを目的に、『教師海外研修』を毎年実施しています。
「私自身が持っている知識は書籍や教科書、メディア等の情報だけであり、子どもたちが多様な考えを持つためには自分自身が他国の現状を知り、考えを深めることが必要だと考えたから」、「国際理解教育とは何かと聞かれると自信を持って答えられない自分がおり、学校現場でも国際理解教育において効果的な授業方法がわからないといった声をよく耳にする。この研修を受け中核的立場を担う教員になりたいと思ったから」など、これらは、今年度のJICAの教員向けプログラム『教師海外研修』に参加した教員の方々の応募動機の一部です。
一人ひとりが地球上のさまざまな課題と自分たちの生活を結びつけ、行動する力を養うための開発教育(国際理解教育)。地球の未来を担う子どもたちにとって、開発教育の必要性は認識されているものの、それを学校でどのように実践するか、教員の皆さんは日頃から頭を悩ませています。それを打開する一助になればと開催されているのが、『教師海外研修』です。参加対象となるのは、東北6県の小・中学校、義務教育学校、高等学校、中等学校、特別支援学校、高等専門学校に勤務する教員の方々。今年度、応募者の中から8名の教員が参加することになりました。
ザンビア現地研修での1コマ
今回の訪問国は、アフリカ南部に位置するザンビア。2024年6月と7月には2回の事前研修が行われ、7月27日から8月6日の滞在6日間の日程で現地研修を実施しました。本プログラムで重要なのは、現地で感じたことや学んだことをいかに子どもたちに伝えるか。帰国後、参加した先生方は学校の授業でオリジナルの開発教育を実践します。この授業実践案の準備のため、9月には帰国後研修を実施。授業案に対する意見交換を経て、それぞれの学校で授業実践を行いました。そして1月の事後研修(最終報告会)をもって7ヶ月にわたる全プログラムが修了したのです。
コーディネートを担当したJICA東北の島田潤悦職員は「非常に熱意のある先生たちで、校務が忙しいなかでも全てのプログラムに積極的に取り組んでくださいました。研修で関わったさまざまな方々に敬意を持ち、学べるものは何でも吸収しようという意欲に溢れていました。今年は例年とは異なり、本研修をJICA東北とJICA北海道の合同事業として行い、東北からの8名と北海道からの8名と、計16名で事前研修から交流を図りました。異なる地域の先生と学びや体験を共有することで、多角的な視野の形成を目指したものです。同じ志を持つ仲間として、今後もこの出会いをネットワークづくりに役立ててもらえたら」と話します。
北海道チームとタッグを組んで行った本研修
事前研修では外部講師から開発教育の手法を学びます
事前研修では過年度参加者による模擬授業を受け、イメージを膨らませました
ザンビアでの現地研修で特に反響が大きかった訪問先は、コミュニティスクールとごみの処分場です。ディスティニーコミュニティスクールは、コンパウンド(スラム)地区の学校ですが、子どもたちと直接交流し、普段の生活や授業の様子、自宅からの登下校のこと、それぞれの家庭環境や日常生活について知ることができました。学校での交流だけでなく、コンパウンド内にある児童生徒の自宅も見せてもらったり、昼には同校の先生方が作ってくれたザンビアの家庭料理を皆で一緒に食べたりするなど、現地の暮らしを五感で感じる一日となりました。
ルサカ市ごみ処分場の見学では、トラックで運ばれてきたごみに群がる人々に言葉を失う場面も。分別やリサイクル処理システムのない、単なるごみを捨てるための山には、金目のものがないかと換金目的の人が数多く集まっています。しかし、ゴミ処理場の近くにいた子どもにインタビューすると「毎日幸せだよ」と笑顔で答えてくれました。環境問題として危機感を抱く状況でありながらも、人の幸せとは何か、豊かさとは何かと考えさせられる出来事でした。
「各訪問先で子どもたちと触れ合う時間はとても幸せだったが、ごみ処理場問題や病院問題、水道など、社会的な背景を知ることができ、ザンビアの教育の根を知るうえでとても重要な学びとなった」との声や、これら以外にも「学校、農業、医療現場などさまざまな施設を見学し、協力隊の方々がどのように人々を手助けしているのか、どのような思いで活動しているのか、実際にその活動を目にし、話を聞くことで、国際問題に対する“課題解決”へのヒントを得ることができた」との感想がありました。
制服姿が素敵なコミュニティスクールの生徒たち。「学校が好き」と教えてくれました
一面に広がるルサカ市のごみの山。分別処理はされていません
ごみ山でごみを集めて働く人達の姿も見られました
帰国後、各自が組み立てた授業案を皆で話し合いながらさらに練りこんでいく研修を経て、先生方それぞれが自分の学校で授業実践に臨みました。「ルサカ市のゴミ処理場問題に日本人としてどうか関わることができるか」という学習テーマを設定した中学校の道徳の授業では、生徒たちは想像以上の光景に驚きの声をあげ、強い興味と関心を示しました。グループでのディスカッションも熱心に行われ、生徒一人ひとりが問題の明確化と課題解決に向けた取り組みを考える様子も見られました。「国際的な視野を広げるきっかけとして大きな成果を得られた」と手応えを感じ、「生徒にとって身近な教員が海外で見てきたもの感じてきたものは、他の教材や授業よりも心に響くものがあり、国際理解の種をまくことができたと感じた。今回の実践をブラッシュアップしながら、これからも開発教育の実践を進めていきたい」と、先生方はこの授業実践を経て、次のステージを見据えています。
島田職員は、「帰国後の授業づくりをサポートするため、事前研修では開発教育の視点の持ち方や手法、教材の紹介、経験者からの助言、意見交換などに多くの時間を割きました。その成果もあり、授業実践では先生方がそれぞれ綿密に構成した他にはない授業を展開されていました。授業実践をしたことにより、新たな発見を得た先生方も多かったようです。先生方には、この挑戦を足がかりに、今後さらに研鑽を積み、ぜひ東北の教育現場で開発教育の主軸となる活躍をしていただきたいです」と大きなエールを送ります。
本研修は2025年度も実施され、4月頃から参加者の募集が始まる予定です。
帰国後の研修では授業案について意見交換を行いました
高校生向け音楽の授業実践では、ザンビアの音楽について伝えました
授業実践では、さまざま教材を使ってザンビアについて考えを深めます
充実した7ヶ月間のプログラムになりました。
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