【民間連携事業×ニイヌマ】 ベトナムの山深い未電化地域に太陽光発電・蓄電システムを設置し、光を照らすプロジェクト
2025.10.30
宮城県石巻市の『ニイヌマ株式会社』は、長年にわたり金物業を営んできましたが、近年は、新分野への積極的な挑戦と参入を行っています。福祉事業、環境事業、太陽光発電事業をはじめ、農業事業、抗菌事業、海外事業と次々に展開。2023年からは初めてJICA制度を活用し、ベトナムでの実証事業に取り組みました。プロジェクトを主導したのは、2019年に設立された現地法人『ニイヌマベトナム 』。充実した2年半のプロジェクトはこの8月で終了となり、現在の事業到達点、今後の展望を現地法人代表の箕輪佑耶さんに伺いました。
現地法人『ニイヌマベトナム』の設立当初、未電化エリアに太陽光パネル付きの街灯を200基導入した実績を持ちます。その際に現地の自治体職員から「街灯ができるなら一般家庭にも電気を点けられるか」と質問があり、政府と交渉ののち、弊社が開発した太陽光発電・蓄電システムを10基ほど設置する実証実験を独自に行いました。その取り組みを知った七十七銀行の現地駐在員に、「JICA制度が活用できるのでは」と勧められたことが、制度活用のきっかけとなりました。
 
コンサルティング会社の協力のもと、「普及・実証・ビジネス化事業」に応募・採択され、ベトナム山岳地帯の未電化エリアに300セットの太陽光発電、蓄電機材、クラウド型IoT監視システムを導入し、継続的に電化生活を提供する実証事業を2023年から2年半にわたり行い、8月までに終了しました。
 
首都ハノイから300キロ離れた山岳地帯イエンバイ省ムーカンチャイ県の少数民族の家屋に発電システムを導入
「最速で事業の承認が下り、事業自体も大変スムーズに進み、無事に完了できたので非常に手応えを感じています。滞りなく政府交渉も進めたことは中小企業として大きなステップアップとなりました」と箕輪さんは振り返ります。
 
「最初の1年は目まぐるしく過ぎました。膨大な量の政府書類を作成しつつ、いくつかの候補地の中からパネル設置場所の検討を行い、現地調査を経て山岳地への運搬、施工、保守管理まで行いました。実証のため、高い山や低い山などさまざまなロケーションでの設置データが必要なので現地調査は念入りです。8ヶ月後には300基の設置を終え、実際に現地の方に電化生活を体験してもらい、その後1年間データを取得しながら、どのような使われ方をしているのかを検証しました」と箕輪さん。
 
太陽光パネルは一畳ほどの大きさで、120Wの発電が可能です。それを500Wの蓄電機材に貯めて使用。現地では主に懐中電灯や扇風機、室内LEDライトとして使用されました。明け方の家畜や畑の見回りに懐中電灯が大活躍したそうです。
「カウンターパートであるイエンバイ省ムーカンチャイ県人民委員会のトップの方が街中から2時間以上かかる現地までわざわざ出向き、電気が点いている様子を見て大変嬉しそうにされていたのが感慨深かったですね。設置には住民の方も大変協力的で、運搬から手伝ってくれました。住民の方は、電気を使うこと自体初めてなので、私たちも電気の使い方を教えるところからのスタートです。新鮮な体験でしたね。しばらくすると、テレビや冷蔵庫が欲しいという声もあがるようになりました」
 
集落へ続く道は細く、太陽光パネルを一枚ずつ持って運搬することも
 
 
地域住民のみなさんは運搬や設置にも大変協力的でした
 
発電パネル自体は軽量のため屋根への負担は大きくありません
国営送電線の設置には、1世帯あたり100万円のコストがかかる一方、今回の実証事業でかかった発電セットは1世帯あたり10万円ほど。山岳地帯で自給自足の生活を送る方々には電気代を捻出することが難しく、このシステムの設置は大変喜ばれ、生活が変わったと9割以上が満足していると報告されました。事業終了後に機材をカウンターパートに譲渡し、引き続き住民により活用されています。今後はメンテナンスの方法を伝えつつ、定期的に現地に出向きフォローしていく考えです。
ベトナムには10万世帯以上の未電化地域があり、近隣国のバングラデシュ、インド、インドネシアの島嶼部なども同じような環境のため、国をまたいでこの発電事業を拡大できる可能性があります。「製品自体の市場が大きいので機会をみて展開したい」と箕輪さんは大変前向きです。
 
スタッフの育成にも力を注ぎます。設立当初から現地ベトナム出身者の採用を進めていますが、営業、工事、品質管理と頼もしい人材が育っています。全員日本語が話せるので、本社の代表や社員とのコミュニケーションも円滑。熱心に業務に邁進する姿が現地でも好意的に捉えられることが多いと話します。
 
 
村長の協力もあり、使用方法のレクチャーを各家庭に実施
 
ムーカンチャイ県人民委員会委員長(右)と代表取締役の新沼(左)、ニイヌマベトナムのパートナー企業社長と村民との写真
「ベトナムで『JICA』は有名なので、JICAの事業だと言えば交渉もアポイントもスムーズで助かりました。またJICAベトナム事務所の後押しもあり、作成いただいたプレスリリースのおかげで現地メディア15社ほどに取り上げられました。この事業を進めることで、現地でこんなに喜んでいただけたのだと改めて肌で感じることができました」
 
逆に、事業を進める中で大変だったのは、提出書類の多さや現地の法律やルールがよく変わること。政府関係の公的書類となるため、代表自らが手がけることが多く、「コンサルタント会社さんに助けてもらいながら進めましたが、中小企業には書類作成のハードルが高かった」と話します。また現地の役所では今年OKだったことが次の年にはNGになることも。担当者によって対応もバラバラなので、対応には苦慮したと話します。
「大企業に挑戦できないことに取り組めるのが中小企業の良さ。これまでのベトナムでの事業経験を宮城の中小企業の方々にも伝え、ともにチャレンジできるような機運を高め、連携を広げていきたいですね。宮城とベトナムの事業者の架け橋になれたら嬉しいです」と、箕輪さんは、本事業での成功を足掛かりに新事業の可能性も模索していきます。
 
ベトナムを拠点にアジアへの展開も模索しているという代表の箕輪さん
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