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【国別研修】ブータン国リンゴ栽培・病害虫対策/SHEPアプローチの成果確認と、次世代へ伝える栽培技術

2026.07.10

ブータンでは就業人口の約50%が農業に従事しており、果樹栽培も国の重要な産業と位置づけられています。そこでJICAでは、2022年から5カ年計画で「温帯果樹振興プロジェクト」を始動。このプロジェクトの目的は、ブータン国内の農業インフラを整備して安定した苗木の生産体制を構築するとともに、日本の果樹栽培技術の伝達により、現地のリンゴ生産者が経済的に自立できる仕組みづくりです。何よりも、これまでは市場ニーズを考慮せずに生産していた状態から、プロジェクトを通して市場のニーズを考慮した「売れるものを作る」という市場志向型農業(SHEPアプローチ)の普及に注力しています。
今回、その一環としてブータンから4人の農業技術者が、日本有数のリンゴ産地である青森県での研修に参加。2026年4月の約2週間、日本の苗木生産の技術や、ビジネス視点でのリンゴ栽培について学びました。

10年前と比較し、SHEPアプローチの意識改革に確かな手応え

今回の研修において圃場での技術指導を担当したのは、株式会社原田種苗の代表取締役・原田寿晴氏。原田氏はプロジェクトの前身となる「草の根技術協力事業」で、10年前にも人材育成や技術指導を行っていましたが、今回の国別研修で再びブータンの農業技術者と交流した印象について、このように語っています。
「栽培技術だけでなく、ビジネス展開に強い関心があり、10年前とは明らかに意識が変わっています。欧米や中国の市場へ展開するために新品種を開発するという話も、非常に熱心に聞いてくれていたと思います」
「温帯果樹振興プロジェクト」にJICAの専門家として参加している古川雄三氏も、「今回の参加者4人は、原田種苗のリンゴ生産の効率化についても熱心に学んでいました。これまで理論上必要と教えられた手順を踏まえた上で、『効率化するためにはどうするべきか』を真剣に考えていたのは、ビジネスの視点があればこそだと思います」 と語り、SHEPアプローチによる意識改革に手応えを感じています。
他にもアップルパイやアイスクリームといった加工品販売で利益を得るなど、市場の出荷基準(形やサイズ)に満たない「規格外果実」であっても、アイデア次第で高い付加価値を生み出せる方法に、参加者の関心が寄せられていました。

技術指導を担当した原田氏(左から3番目)、古川氏(中央)と研修参加者 (岩木山を背景に弘前市庁舎屋上にて)

技術指導を担当した原田氏(左から3番目)、古川氏(中央)と研修参加者(岩木山を背景に弘前市庁舎屋上にて)

原田種苗での接ぎ木指導

原田種苗での接ぎ木指導

国境を越えた交流が、互いの視野を広げる機会に

今回の研修では、受け入れた日本側も収穫があったと語る原田氏。特に柏木農業高等学校の視察と交流では、農業を志す高校生たちが視野を広げる機会になったといいます。
「それまでブータンという国を知らなかった子も、現地の農業に興味を持ち『いつかブータンに行ってみたい』と話していました。これを原体験として、世界に関心をもちJICAの活動に関わるなど、幅広く活躍してくれると嬉しいです」
また、農業高校以外にも、研修参加者の4人はリンゴ研究において長い歴史のある弘前大学の藤崎農場や、青森県産業技術センター「りんご研究所」を視察。弘前大学やりんご研究所では、矮化(わいか:樹を大きくさせず、コンパクトに育てて管理や収穫をしやすくする技術)の最新研究に触れ、更にりんご研究所では、病害虫対策についても知識共有を行いました。
現在、ブータンの国立種苗センター(NSC)では病害虫の被害に悩まされており、十分に対策されていない苗木が流通することにより感染は広範囲に拡大しています。この課題に対し、日本では当たり前の手順とされている苗木の消毒や、防虫の工程の重要性を伝えました。
原田氏も「現在ブータンで問題となっている伝染病についてはまだ専門家が調査中のようですが、可能性が高いとされる病気は日本でも無農薬で栽培する場合には発生し得るもの。場所を問わず、やはり土壌管理と健康な果樹をつくるための基本の徹底が重要だと感じます」と語っています。

柏木農業高等学校の生徒との交流

柏木農業高等学校の生徒との交流

りんご研究所で病害虫について学ぶ

りんご研究所で病害虫について学ぶ

現地のリンゴ栽培を次のステージに引き上げるアクションプラン

こうして、日本のリンゴ栽培の基本手順から、ビジネス視点での応用までを学んだ研修参加者は、研修最終日の4月23日に帰国後のアクションプランを策定。参加者の一人は新たな品種の開発に意欲を見せており、「気候変動もふまえて、より標高の高い地域で栽培できるリンゴを開発したい」というプランを発表しました。品種開発においては、青森の代表的な早生品種「つがる」との交配によって出荷時期をずらし、大量のリンゴを必要とするインドの祝祭に合わせてニーズを狙うといった具体的ビジネス戦略も検討されています。
また、ブータンのリンゴ栽培では「実がならない樹が多い」という課題もあり、「今回の研修で学んだ人工授粉の技術をすぐに現地で普及させたい」というアクションプランの発表もありました。ブータンでは長年の間、受粉樹を意識せずリンゴ栽培を行っており、受粉樹を伐採してしまうことが問題となっていました。これを防ぐため、原田氏からは受粉樹にスプレーで印を付けるといった工夫も伝えられていました。

研修を終えてアクションプランを発表

研修を終えてアクションプランを発表

日本で譲り受けた人工授粉機をブータンで使用

日本で譲り受けた人工授粉機をブータンで使用

研修成果をガイドラインに集約し、次世代の生産者へ

今回の研修で得られた学びを落とし込み、現在JICAとブータンの国立有機農業センター(NCOA)、そして日本の専門家チームによって「苗木生産・栽培ガイドライン」の作成が進められています。
古川氏は「プロジェクトのゴールは、ブータンの農家が自走できるようにすること。ブータンでは、NSCやNCOAなど、苗木供給や技術指導を担う公的機関の職員の入れ替わりが激しく、せっかく蓄積された指導ノウハウが次世代にうまく引き継がれないという課題がありました。今回のガイドラインの作成には、研修での学びを再現可能な形にする、いわば「ノウハウのバトン」としての意味合いがあります。これで、指導がなくても生産者が直接ガイドラインを参照し、誰もが正しいリンゴ栽培の手順を実行できるようになるでしょう」と語っています。
ブータンでは現在、多くの農家で世代交代のタイミングとなっており、若手の生産者が親世代のやり方を見直しているところです。教育水準も高く、意欲的な次世代の生産者の間で、このガイドラインが広く普及することが期待されています。
ガイドラインは早ければ2026年9月に完成し、9月上旬にブータンで開催される説明会にて現地の生産者に公開される予定です。

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