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【民間連携事業×たから】フィリピン進出事例/黒にんにくのバリューチェーン構築

2026.10.02

フィリピンのイロコスノルテ州は、同国のニンニク生産量の6~6.5割を占める特産地です。しかし、現在国内で消費されるニンニクの実に94%近くが中国産であり、安価な輸入ニンニクとの競争によって現地の農家の収益は圧迫されています。

路面のお土産屋で売られているにんにく

この課題を解決すべく、同地で高付加価値商品「黒にんにく」の製造・販売の事業化を目指しているのが、日本有数のニンニク産地・青森県田子町の「株式会社たから」です。
今回、中小企業・SDGsビジネス支援事業(JICA Biz)の普及・実証・ビジネス化事業(現・ビジネス化実証事業)に応募・採択された同社によるフィリピンにおける黒にんにくのバリューチェーン構築の取組みについて紹介します。

現地大学の全面協力のもとフィリピンへ進出

株式会社たからがフィリピンに進出することになったきっかけは、今から10年ほど前にイロコスノルテ州のマリアーノ マルコス国立大学(以下MMSU)の学長(当時教授)から「フィリピンでの黒にんにくの製造・普及に力を貸してほしい」と依頼されたことでした。

にんにく圃場に設置された看板の前で

MMSUの全面的な協力が得られるということで、早速イロコスノルテ州に渡った寳田社長。そこで現地のニンニク栽培や消費の状況を確認し、フィリピンへのビジネス進出を決意しました。

「海外で新たな事業を起こすには、資金に加えて、現地のビジネスノウハウや人脈も必要になります。そこで、以前から同業者の間で話題となっていたJICAの支援事業について調べ、2018年頃に案件化調査でフィリピンにおける黒にんにく事業の可能性を検討した後、普及・実証事業において、生産から加工・販売までを視野に入れたバリューチェーン構築に向けた実証を進めました。

その後、コロナ禍によって現地での取り組みが一時中断されてしまったものの、次の「普及・実証・ビジネス化事業」に応募・採択され、実際に黒にんにくの生産・加工・販売を目指すフェーズへと移行しました。

気候風土との闘いと、台湾チームとの協力

黒にんにくの製造には、大粒で良質なニンニクが必要になります。しかし、フィリピン産のニンニクは20片もの極小な鱗片から成っており、調理や加工に非常に不向きなものでした。そこで現地でのニンニク栽培から取り組むことになりましたが、ここで最初の壁に直面します。

にんにく圃場での作業の様子

「当初は、日本の肥培管理の技術なら、良質なニンニクの栽培は簡単だと思っていました。しかし、フィリピンは想像した以上にニンニク栽培に不向きな気候だったのです」

株式会社たからはフィリピン各地で複数箇所の試験圃場(ほじょう)を使用していましたが、エリアごとに違った課題を抱えていました。

まず水田地帯では雨期と乾期により生育期間が限られ、日本の寒地系品種は十分に育たず小粒になります。一方、山間部は土地が乾きやすく灌漑が必要でしたが、自社スタッフが常駐できず、MMSUの教授も講義等で忙しかったため、管理が行き届かない状況でした。

にんにくの生育状況を確認する寳田社長

この難局を救ったのが、同じく現地に20箇所以上の試験圃場を所有していた台湾チームとの交流でした。

「台湾の3つのニンニク品種の種を提供してもらったのですが、これがフィリピンの気候・土壌に適していたようなのです。まだ黒にんにくに理想的なサイズとはいえませんが、一粒を大きくすることには成功しました」

さらに、台湾チームは、同州の海岸地域にも試験圃場を保有・運営しています。同地域は、年間を通じて30℃を超える内陸部に比べて冷涼であることから、9月末に植え付けて翌年2月に収穫することにより、大粒ニンニクの生産に必要な生育期間を確保できる可能性があると考えられます。

「台湾品種の種と海岸地域の圃場、そして日本が誇る肥培管理の技術を掛け合わせれば、現地で黒にんにく向きのニンニクの収穫は可能になるでしょう。リン酸肥料に関する我々の知見が台湾チームの役にも立っており、これからも相互に協力していきたいです」

日本との消費者意識の違い

ニンニクは年に1度しか収穫できないため、栽培試験と並行して黒にんにく加工技術の移転も進めました。株式会社たからはJICA事業が始まる前からMMSUに黒にんにく製造機を設置していましたが、JICA事業を通じて新たな製造機も導入し、現地での加工体制強化を図りました。

黒にんにく製造機について説明する寳田社長

マニュアルも作成して、製造のノウハウは十分に伝えられたはずと語る寳田社長。すでにMMSUで製造した黒にんにくを、現地の展示会などで試食してもらう段階まで進みました。

生産体制が整えば、次は販売戦略です。同社はJICAのビジネス支援を得てフィリピンでのマーケットリサーチを実施。当初の計画どおり、付加価値のある黒にんにくを高価格で売り出すために、観光地やデパートでのマーケティング調査をスタートしました。

しかし、ここでも日本とは異なる国でのビジネス展開の難しさを痛感します。

「品質が良ければ高く売れる日本と異なり、フィリピンでは品質が良くても高いものは高いという感覚。富裕層向けのデパートなら多少は売れますが、土産物屋での販売は容易ではないと分かりました。現地の売り子さんに『ここは価格重視の国ですから』と言われたことは、今も印象に残っています」

マニラのデパートで市場調査をする様子

そのように語る寳田社長ですが、今後に関してはむしろ見通しは明るいと考えています。

「先日、フィリピンが『上位中所得国グループ』の仲間入りをした、というニュースも報じられました。これから経済成長していく中で消費者の意識も変わるでしょう。当面はネット販売でマニラなどに展開して収益を上げ、東南アジアでの事業を目指していしていくつもりです」

人材と技術が巡るwin-winのビジネスを目指して

フィリピンでの現地法人設立も、今回のJICA事業における目標の一つだったという株式会社たから。JICA事業終了までに実現することは叶いませんでしたが、現在、本邦銀行と現地法人設立に向けた準備を進めているとのこと。現地拠点を持つことは、国内で抱える深刻な労働力不足の解決にも繋がると、寳田社長は意気込みを見せています。

「現地採用した人材が青森にも研修で来てくれれば、自社職員の人材育成にもなり、人材が循環することで日本国内の事業にとっては、繁忙期の人手不足の現状も打開できます。今後、外国人の就労についての制度がどう変化していくか注視しつつ、人材が両国を行き来できる体制を整えていきたいです」

世界各地には、日本の優れた技術を必要としている地域がまだ数多くあります。日本企業がそうした地域に進出して、技術と人材が巡る仕組みを構築できれば、ビジネスは双方にとって有益なものとなるでしょう。

その足がかりを作るためにも、寳田社長は地方の中小企業にぜひ「JICA Biz」を活用してほしいと語ります。

「JICAコンサルタントの伴走支援もあり、進出前の事前調査から、現地のビジネスコンサルティングまで、JICAの知見と人脈をフルに活用できます。海外進出にチャレンジする際は、こうした公的な制度を積極的に活用するのがよいと思います」

株式会社たからのJICA Biz事業は2026年8月に終了。同社は今後も、フィリピンでのニンニク栽培と黒にんにく加工の取り組みを継続し、生産から加工・販売までをつなぐ持続的なバリューチェーンの構築、そして地域農業の発展と農家所得の向上への貢献を目指しています。

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