【JICA基金活用事業パートナーの思い】
命を守る技術を伝えたい―ラオスでの国際協力活動
認定NPO法人あおぞら 助産師 武田春佳さん
2026.01.19
#国際協力 #ラオス #助産師 #医療 #出産
認定NPO法人あおぞらは、「すべての命が大切にされ、その人らしく生きることができる社会」を目指し、途上国における医療支援事業や国際協力に関する啓発活動を行っています。その中で、助産師としてJICA海外協力隊に参加し、ラオスで活動した武田さん。協力隊での経験を活かし、現在もラオスの保健医療分野で、新生児蘇生法の普及等医療人材の育成に取り組んでいます。この人材育成事業は、JICAが行う「世界の人びとのためのJICA基金活用事業」を通じて実施されました。今回は、武田さんに、ラオスと医療に対する思いをお聞きしました。
高校生のとき、テレビでスマトラ沖地震の悲惨な映像を見たことがきっかけでした。家族旅行で訪れた島や海辺が瓦礫で覆われているのを見て、とても悲しくなりました。同時に、「自分には何ができるだろう」と考えるようになりました。将来を考えたとき、医療職なら直接的な支援ができると思い、看護師を目指しました。
その後、妊婦健診のアルバイトで、「赤ちゃんが順調に育っていますよ」と伝えられ、ほっとするお母さんと喜ぶ家族の姿が素敵に映り、新しい命、新しい家族の誕生の場に関わりたいと強く感じ、助産師を志しました。
お産は幸せな瞬間ですが、命に関わる場面も多くあります。自分が助産師として経験を積む中で、安全なお産には一定の医療水準が必要だと痛感しました。そして、「日本だから助かる命が、海外では助からないかもしれない。そうはあってほしくない。どんな家族も幸せであってほしい」 、そう強く思うようになりました。調べていく中で、JICA海外協力隊の助産師の要請を見つけ、自分のやりたいことと今できることが一致したと感じ、応募を決意しました。
ラオスでJICA海外協力隊として活躍する武田さん
日本の「当たり前」は、決して世界の当たり前ではない―ラオスでの生活で強く感じたことです。ラオスの人々は、良くも悪くも「今を生きる」人たち。医療を進めるには、病気の原因や予防を考える必要がありますが、同僚たちにその考え方を共有するのは簡単ではありませんでした。しかし、ラオスでは新生児死亡率が高く、平均寿命も短いという現実があります。だからこそ「今を生きる」ことは当然なのだと理解しました。
そして、人を大切にするとは「自分を犠牲すること」ではなく、「お互いを尊重すること」だと気づきました。自分があって、相手がいて、お互いに大切だから尊重する―それがひとつの「幸せ」の形だと、ラオスで学びました。日本に帰国しても、「幸せとはなんだろう」ということに考えを巡らせるようになりました。
協力隊派遣当時のラオスの郡病院の様子
認定NPO法人あおぞらでは、JICAに集まった寄附金であるJICA基金を活用させていただき、ラオスで「安心・安全な出産を支えるプロジェクト」を進めています。このプロジェクトは2年目になりますが、現在の事業では(インタビューした2025年夏時点)、昨年養成したラオス人指導者が自ら研修を実施できるようサポートすることが目標です。具体的には、新生児蘇生法の研修会をラオス人インストラクターが主導し、日本人が監督する形で行います。新生児蘇生法とは、赤ちゃんが生まれた直後に呼吸や心拍がうまく始まらない場合に、命を守るために行う救命処置のことです。
さらに、妊婦健診で異常を早期に発見・対応できるよう、病院の母子保健課のスタッフ向けに研修会を実施。妊娠期・分娩期の知識と技術力向上を目指しています。「命を守る技術」を現場に根付かせ、持続可能な仕組みをつくることが、私たちの大きな目標です。
新生児蘇生法の講習会の様子
ラオスの郡病院を受診する家族の様子
新生児蘇生法インストラクター育成のための講習会の様子
教えるといっても、相手も医療従事者です。だからこそ「上から教える」のではなく、対等な立場で学び合うことを大切にしています。私は特に、「楽しく学べること」と「実際に使えること」を意識しています。文章だけでは現場をイメージしにくいため、絵やシナリオを使ったトレーニング、シミュレーションを取り入れ、実際に体を動かして学べる研修を行っています。
こうした工夫が、現場の変化につながっています。2年目の事業では、ラオス人指導者が自ら県病院で新生児蘇生法の講習会を実施しましたが、「自信がついた」「今後も広げたい」という声が上がりました。さらに、郡病院で行った妊産婦のリスク管理研修では、診療所の医療者も参加し、シミュレーションを通じて知識と技術を共有できました。この講習会が医療者同士の連携を深める場となり、今後はこうした学びを活かして、小さな村々にも安全な分娩が広がっていくことを、私たちも心から願っています。現場からも期待の声が上がっています。
ラオスの郡病院のポスター
県病院での新生児蘇生法講習会
JICA海外協力隊の時に活動していた村に再び訪れ、その時できなかったことや気になっていたことに再挑戦できるのは、JICAの事業ならではの魅力です。協力隊での取組を引き継げること、現場で事業を行う際に価値観が共有できることは大きな利点です。実は、私の所属するNPO法人あおぞらは、JICA海外協力隊経験者(助産師・看護師)が多く所属しています。今回のJICA基金活用事業でも、現地のJICAラオス事務所の協力を得て、派遣中の現役のJICA海外協力隊員が研修をサポートしてくれました。協力隊出身者同士のネットワークが広がることも、この事業の強みだと思います。
あおぞら全体としては、新生児蘇生法の周知をさらに広げることが重要です。加えて、赤ちゃんを産むお母さんのケアも不可欠です。安全な周産期を守るため、新生児蘇生法に加えて、分娩や妊婦健診の知識・技術を強化し、事業の内容を広げていきたいと考えています。私自身の目標は、郡病院のスタッフが学んだ知識を、村の人たちに伝えられる仕組みをつくることです。日本の母親学級のような活動が広がれば、私たちがいなくても事業が継続し、より安全な出産が地域に根付くと信じています。
とにかく、色々な経験をしてほしいと思います。経験を積む中で、人と出会い、その人の考え方に触れることで視野が広がり、多様な価値観を知ることできます。次に、何か自分の強みを持つことも大切です。私の場合は免許や経験でしたが、そうでなくても「体力があります」「やる気があります」でも構いません。自分の強みがあると、挑戦の幅が広がります。
そして、国際協力に携わるときに大事なのは、「すごい人になる」とか「私は何かを変えてみせる」ことではありません。まずはその国を知り、その国の人たちや文化を大切にすること。そのうえで、自分に何ができるかを精一杯考えてください。私自身、ラオスで教わることが多く、日本のただの一助産師でしかありません。勉強してきたことが皆さんの役に立てばいい、という気持ちで取り組んでいます。最後に、国際協力は「お互いに尊重し合う」ことがキホンです。その感覚を忘れずにいてほしいと思います。
インタビューの様子。画面下部が武田さん。右上がJICA職員の波多野さん、左上がインタビュアー杵渕。
今回のインタビューで印象的だったのは、武田さんが「自分の感情が大きく動いたとき、それはどうしてか考えるようにしている」と話してくださったことです。武田さんの気づきは、そうした振り返りから生まれることが多いと聞き、振り返りは自分の視点を広げるためにとても重要だと感じました。将来のキャリアや生き方を考える上で、多くの学びを得られたインタビューでした。
(JICA筑波インターン生 杵渕和花/筑波大学国際総合学類3年)
関連情報
・認定NPO法人あおぞら|カンボジア・ラオス・タンザニア国際医療支援
・世界の人びとのためのJICA基金活用事業-NGO-JICA協働事業:国際協力へのはじめの一歩- | 事業について - JICA
scroll