【JICA基金活用事業パートナーの想い】
対話でつなぐ支援─ネパールと34年向き合う
ディーヨフォーラムJAPAN代表 半田 好男さん
2026.03.04
# ネパール支援 #教育 #傾聴 #対話 #気づき
栃木県に拠点を置く任意団体「ディーヨフォーラムJAPAN」は、ネパールのNGO「Diyo Forum」と連携し、農村部の人々を対象に、学びと自立を支える活動を行っています。Diyo Forum は1994年、教育機会の不足や男女格差、貧困といった課題を背景に、子どもたちが学校に通えない状況の改善を目指して設立されました。以降30年以上にわたり、職業訓練、女子生徒への奨学金、学生寮の提供、障害のある方々の収入向上支援などに取り組んでいます。今回は、ディーヨフォーラムJAPAN代表・半田好男さんにお話を伺いました。
ディーヨフォーラムJAPANは、2025年に JICA基金活用事業を通じて、ネパール・トカルパ村で「学習に遅れがちな生徒の保護者支援」を実施しました。現地の小・中・高校および退職教員と連携し、5か月間で約50軒を訪問。この家庭訪問により、家庭での学習状況を確認し、必要な支援につなぎました。2026年にもネパールへ渡航し、活動を行う予定です。
大学卒業を控え、進路を考える中で海外協力隊に関心はありましたが、当時は経済的事情もあり、まずは安定した職に就く必要がありました。結局、私は高校の教師になりましたが、この職を目指したのは尊敬する先生との出会いが大きかったからです。一方で、「本当にこの道が自分の生き方なのか」と感じる迷いもありました。そうした中、理数科教師としての経験を活かせる海外協力隊としてのネパール派遣の機会が巡り、「今こそ挑戦すべき時だ」と考えて参加を決意しました。
現地で理科実験を行う半田さん(1991年頃)
海外協力隊任期中に行った識字教室に参加した大人の方々が、学びを通じて互いに教え合い、発言が増えていく変化を目の当たりにしました。派遣終了後も、この識字教室の継続を望む声が上がったことから、活動の場を維持するために、村の方々とともに現地NGO「Diyo Forum(=ともしび)」を設立しました。
2年間の派遣中には、生活の面でも現地の村の人たちから多くの支えを受けていました。この経験から、「この人たちのために、自分には何ができるだろうか」と考えるようになり、ネパールへの支援を継続したいと心に決めました。
沢に集まる村人(水汲み、洗濯、水浴など)
識字教室で学び合う参加者
30年近く、日本で教鞭をとるかたわら、個人としてネパールへの支援を続けてきました。活動の中で女子の就学率向上など一定の成果が得られ、定年退職を機に一度区切りをつけることも考えていました。一方で、日本の支援者や現地NGOからは継続を望む声が寄せられ、迷いながらも今後の関わり方を考えるようになりました。
そのような中、JICA関係者から「JICA基金活用事業」の存在を紹介いただき、応募を決意しました。長年関わってきた立場だからこそ担える役割があると感じたことに加え、円安や物価上昇などの環境変化の中で、事業を継続するためには外部支援が必要だと考えるようになったためです。
学習に困難を抱える生徒と保護者への支援として、学校と退職教員と連携した家庭訪問を実施しました(5か月で約50軒)。家庭での学習状況を確認し、必要な支援につなげました。現地の方が主体的に取り組めるよう、外部からの押しつけではなく自助努力を促す関わりを重視しました。事業の終盤には、退職教員の訪問指導者が手当の有無にかかわらず自主的に活動を継続する動きが見られ、現地に根づく変化として心強く感じました。
家庭訪問時、農作業等の事情で生徒と会えない場合もある
訪問指導者が学習日記を確認し、励ます場面
家庭訪問で、生徒・保護者・巡回指導者・現地NGO職員と意見交換
応募の段階で、日本側の窓口として任意団体「ディーヨフォーラムJAPAN」を立ち上げました。この1年の運用を通じて、会計や連絡、情報発信といった日々の実務が回るようになり、活動の基盤がようやく「形」になってきたと感じています。なかでも、公式ホームページを開設し、支援者の方々に取り組みをお伝えできる導線を整えられたことは大きかったです。
費用面では、JICA基金のご支援により、これまで自費で賄っていた渡航費や運営費の一部を補うことができ、続けていくための見通しが持てるようになりました。そうした下支えがあったからこそ、従来の活動に加えて、学習に困難を抱える子どもや保護者の方々への家庭訪問支援にも踏み出すことができました。私自身の実感として、JICA基金活用事業は「事業を続ける力を支え、現場で新しい一歩を後押ししてくれる支援」だと感じています。
ネパールでは約10年間(1996~2006年)、政府軍とネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)との内戦が続き、山間部・農村部を中心にゲリラ戦が発生していました。この影響で、夜間の識字教室を開けない、資材の盗難が起きる、関係者が被害を受けるなど、活動は長期間にわたり制約を受けました。
そのような厳しい環境の中でも、現地の方々からは「できる形で続けたい」という声が上がりました。小さなNGOではありますが、活動を信頼してくださる村の方々がいる―その原点に立ち返り、私たちは活動を継続しました。
内戦下で平和を訴え行進する人
識字教室に通ったある女性は、当初は自分の考えを口にすることがほとんどありませんでしたが、やがて皆の意見を取りまとめて伝える役割を担うようになりました。現地NGOに関わった人の中から、村長など地域のリーダーが育つ姿も見られました。30年という時間の中で、誰かの取り組みが別の誰かを触発し、挑戦が連鎖していく場面に立ち会ってきました。
私自身も、多様な関係者と協働する中で、物事をより多面的に捉えられるようになったと感じています。ネパールで見たこと・感じたことを日本の方々に伝えることは容易ではありませんが、教師としての実践を重ねるなかで「伝えたい」という思いはいっそう強くなり、参加型教育やスタディーツアーの企画に取り組むようになりました。
これまで活動を続けてこられたのは、周囲の人たちの存在があってこそだと感じています。当初は協力隊の活動として個人で始めた支援でしたが、続ける中で、支援者の方々や現地の仲間に支えられてきたことを実感するようになりました。その背景には、日本の教育現場で培った、成果だけでなく人の成長や関係性を大切にする姿勢も、自分の活動の基盤として生きているのだと思います。
また、海外での草の根活動においては、まず相手の話に耳を傾け、本人の気づきと主体性を促す関わりを重視してきました。こちらが無理に変えようとするのではなく、その人自身が気づき、変わっていけるような場をつくることを、これからも大切にしたいと考えています。さらに、「言ったことは実行する」という姿勢をぶれずに示し続けることが、信頼を築くうえで欠かせないと感じています。
保護者講習会の様子
国際協力は、「誰かのため」であると同時に「自分のため」にもなる取り組みだと感じています。私自身も、最初は自分の中に生まれた小さな問いから動き始めました。どんな形でも、関心を少し行動に移すことで、見えてくるものがあります。大きなことをする必要はありません。まずは身近な学びの場やイベントに参加するなど、今の自分にできる一歩からで十分です。自分のペースで続けられる関わり方が、長く続く国際協力につながると思います。もし壁を感じることがあれば、それは外からの困難だけでなく、自分の中にある壁かもしれません。その壁に気づき、小さな一歩を踏み出してみることが、新しい世界につながるきっかけになるのではないでしょうか。
インタビュー
後記:
半田さんのお話から、誠実さと対話を大切にされる姿勢が伝わりました。「想ったようにはならない。でも、想ったようにしかならない。」という言葉は、想いに向き合い続けることの重要性を示しています。私もまた、「誰もが幸せに生きられる社会をつくりたい」という想いを大切にしながら、行動していきたいと思います。
(JICA筑波インターン生/筑波大学大学院 人間総合科学学術院 1年 宮内 琴葉)
【ディーヨフォーラムJAPANのカレンダーをご紹介】
ネパールの伝統と人の温もりが感じられる、世界にひとつだけのカレンダーです。日本にいながらネパールを身近に感じられる素敵なプロダクトで、彩色はすべて手作業で行われています。彩色を担うのは障害のある方々で、一つひとつ丁寧に色を重ねています。カレンダーの売上金は作り手の方々の収入となり、社会参加への意欲や家族の一員としての自信にもつながっています。興味をお持ちの方は、ディーヨフォーラムJAPANの公式ホームページ内「カレンダーについて」のページをご覧ください。カレンダーの詳細が掲載されており、同ページから購入することも可能です。
手彩色されたカレンダーの一例
障害のある方が手彩色するカレンダー制作の様子
関連リンク
・JICA基金活用事業https://www.jica.go.jp/activities/schemes/partner/private/kifu/09.html
・ディーヨフォーラムJAPAN公式ホームページディーヨ フォーラム JAPAN | ネパール
・ディーヨフォーラムJAPANのカレンダーについてAbout | Save Our Shores
・ネパール王制解体 国王と民衆の確執が生んだマオイスト(冒頭の写真で半田さんが持っている本)NHKブックス No.1075 ネパール王制解体 国王と民衆の確執が生んだマオイスト | NHK出版
・第三世界の農村開発 貧困の解決-私たちできること(冒頭の写真で半田さんが持っている本)第三世界の農村開発 - 株式会社 明石書店