「ネガティブ」も「ポジティブ」に変える力を

今回は、JICA草の根技術協力事業を2014年1月~2017年1月に実施しており、今年新たなJICA草の根技術協力事業を実施される社会福祉法人佛子園(以下 佛子園)理事の清水愛美さんにインタビューを行いました。佛子園は、現在ブータンにて新たに、「ソーシャルインクルージョンによる持続可能な障がい者支援の構築に向けた障がい者の社会参加促進プロジェクト」の実施に向けて準備の最中です。

社会福祉法人佛子園理事 Share金沢施設長
清水 愛美(めぐみ)さん

人生の転機

「学生時代の自分には今の自分の姿を想像することはできませんでした。」と話す清水さん。先生として子供と関わる仕事がしたいと大学では障害を持つ子供を対象にした教育を学んでいたそうです。大学卒業後、ゼミの先生から紹介を受けた佛子園に就職、障がい者支援施設「星が岡牧場」で働き始めました。佛子園に就職して今年で25年目という清水さんは、これまでの活動を振り返り、星が岡牧場での経験が人生の転機であったといいます。中でも、就職して2年目と4年目に「星が岡コンサート」の実行委員長を務めたことが大きな転機だったそうです。このコンサートは地域住民の施設や入居者への認知度や理解度を高めることを目的にスタートしました。最初は地域住民からの理解が得られず、地域にはイベントや施設への協力にもネガティブな雰囲気があったといいます。しかし、めげずに働きかけを続けることで地域住民からの理解を得て、施設や施設主催のイベントや入居者に対するポジティブな気持ちが地域に広がっていったといいます。「星が岡コンサート」は地域住民や学生ボランティアを巻き込みながら年々大きくなり、清水さんが社会人4年目に開催した際はスタッフが数千人、来場者数が3000人のビッグイベントになりました。障害の有無に関わらずみんなが同じ方向を向いて楽しむ。施設と地域が一体となった時間だったと振り返ります。イベント運営を通して感じた「障がいの有無に関わらずみんなが一体となった時の感動」は、佛子園に就職したからこそ得られたものだといいます。

人生初海外は「海外研修」

2019年度の海外研修にて訪問先のフィジーで「Bula! Fijiウルトラクイズ佛子園大会」を行っている様子。海外研修では毎年テーマを定め、ユニークなアクティビティを行っている。

佛子園では福利厚生の一環として年1回の研修旅行があるそうです。訪問先は国内だけでなく、国外旅行に行くコースもあります。当初は海外に興味がなかったという清水さんですが、先輩職員からの誘いを受けて就職して2年目に初めて海外研修に参加したそうです。「最初は全然興味がなかったが、実際に海外に行ってみると日本とは違う文化を五感で感じることができ新鮮でした。」と清水さん。以降、ほぼ毎年海外研修に参加するようになったといいます。年を重ねても優雅でオシャレなフランスのデイサービス利用者や日本と文化や価値観が近いフィンランド人。海外研修を通してインターネットやガイドブックでは得られない感覚を得たそうです。海外から学ぶことはたくさんあり、国内外問わず良いものと取り入れ自分たちに合うようにアレンジすることが大切だといいます。

ブータンとの出逢い

ブータンのカウンターパートとの会議の様子。カウンターパートに事業内容や活動理念・思いを丁寧に伝えることでより良い関係を気づいていくことが大切。

清水さんがブータンを初めて訪れたのは2010年海外研修の時でした。現地の様子を見てたくさんの人と出会う中で、ブータンの発展を続ける勢いや仏教信仰や王族の存在を心の拠り所とする国民のアイデンティティを目の当たりにしたそうです。研修を契機にブータンに魅せられた清水さんたちは「ブータンから学べることは何か」「ブータンのためにできることは何か」と考えた結果、ブータン地方の貧困層支援を行っているタラヤナ財団と一緒に活動することになりました。現地で調査していくと、ブータンの貧困層が貧困に陥る原因の多くは「障がい者に対する考え方」にあることが分かったといいます。仏教信仰が根強いブータンでは障がいをもって生まれた子は前世で悪いことをしたか親が悪い行いをしたかであると見なされるそうです。地方に行くほどこの傾向が強く、障がい児を持つ家庭は村八分にあい、社会から孤立してしまうといいます。また障がい者のための教育制度や支援制度が整っていないのも現実です。誰にも助けを求められない苦しみの果てに、障がいをもった子供を縛り付けて仕事に行ったり、障がいをもった子供を大人が性的虐待したりするケースも少なくありません。しかし、このようなネガティブな現状だけでなく、ブータンには地域のつながりやコミュニティが今でもしっかりと残っているというポジティブな面もあるといいます。日本を含む先進国の福祉は障がいの種類ごとに専門性の高い制度や仕組みを整えた結果、障がい者と健常者の間に隔たりを作ってしまいました。「先進国の反省を生かし、障がいのあるなしに関わらず手を取って共生できるごちゃまぜな社会を作ることがブータンのために私たちができることです。」と清水さんは熱く語ります。

困難にもポジティブな姿勢で

事業を進める中での一番の課題は「事業の継続性の担保」です。「本邦研修にやってきた研修生が母国に帰ってすぐやめてしまう、担当者が変わることで事業が進まなくなるなど課題は山積みです。」と清水さん。苦労を滲ませるもその表情は明るく朗らかでした。今後は、現状や問題点を洗い出し分析し、最終的にはブータンに健常者と障がい者とがごちゃまぜになったモデル拠点を作ることが目標だと意気込みます。「福祉の世界は人と人との関わりで成り立っており、毎日想定外なことが起こるが、これは福祉に限ったことではない。」ネガティブな気持ちをコントールしてどうポジティブに問題解決を進めるかが大切だといいます。清水は、気持ちのコントロールする力を身につけるフィールドとして海外はピッタリの場所だと話します。「若い世代の皆さんには、自分の価値観や自分が心地よく過ごせる空間の中に留まらずポジティブな気持ちで新しい世界に飛び込んでいってほしいです。」とエールを送る清水さんの表情は生き生きと輝いていました。

取材
JICA北陸インターン
石黒 歩