災害と対峙し人命を救う

2019年4月から2019年12月までJICAの中小企業・SGDsビジネス支援事業を受託され、てホンジュラスでの斜面災害検知装置に係る基礎調査(中小企業支援型)を実施した株式会社測商技研北陸(以下 測商技研北陸)の塚田さん、西方さんにお話を伺いました。測商技研北陸は、2019年第二回公示で、同案件の普及・実証・ビジネス化事業に採択が決定し、現在契約に向けて準備を進めています。

株式会社測商技研北陸 取締役執行役員
塚田 敏文さん、西方 瑞貴さん

日本を次々と襲う大災害

現在の仕事と学生時代の経験はほとんど関係がないというお二人。塚田さんは、「近年日本を襲う『地すべり』『土砂災害』といった自然災害は、今まで馴染みのない業種でしたが、この仕事が人命と財産を守る仕事と知り、防災、減災に貢献できる仕事がしたいと思ったことがこの会社に入社するきっかけとなりました。」と話します。2018年に西日本を中心に甚大な被害をもたらした、西日本豪雨をきっかけに今の仕事を始めたという西方さんは、「入社する前は、日本や世界各国で起こる自然災害の被害をテレビの中の事と他人事のように思っていました。入社し災害現場に足を運ぶようになると、二次災害の防止や災害復旧に直接関わっている実感が湧きました。」と話します。「災害は突然起こるため、休日でも現場に来てほしいと連絡が来ることがあります。」という塚田さん。休日返上で働かなければいけないこともあるそうですが、人の命や生活を救うことが全社員のモチベーションにもつながっているそうです。しかし、災害予測や災害復旧に関わる仕事は災害が起これば仕事が増え、災害が起こらなければ仕事が減るという不安定さや、対象としている市場の範囲が限られていることによる国内での事業展開の難しさがあるというのもまた現実だそうです。そこで、国内だけでなく海外でも何かできることはないかと世界に目を向け始め、そんな折に出会ったのが「ホンジュラス」という国だったといいます。

災害大国「ホンジュラス」を救う!

現地の住民に地域の土砂崩れの危険性を説明している様子。現地の人々に寄り添いながら事業を進めていくことが大切になるといいます。

中面米の国ホンジュラスは国土の約7割が山地であったり、夏にはハリケーンが襲ったりと日本と似た気候や地理的特徴を持つ国です。しかし、防災技術や防災対策が十分でないこと、貧困層の居住地が傾斜地に広がっていることからハリケーンや大雨による土砂災害で大きな被害を受けています。2019年にホンジュラスで基礎調査案件を行った際にお二人が目にしたのは、防災対策を行いたくてもやり方が分からない現地の状況だったそうです。具体的には、日本では50年ほど前に使っていたような機械が今でも現役で使われていること。防災に対する知識が浅く、災害が起こってもただ見ているだけになっていること。一方、身近に迫る土砂災害の危険性に怯えて暮らす人々もいること。ただ機械を設置するだけではなく、災害が起きたときどう行動すべきか、防災に関する知識やその意義を伝えていくことが必要だと実感したそうです。まずは、現地のスタッフと二人三脚で少しずつ防災の意識を高めていきたいといいます。「データという説得力のある根拠がないと人の意識は変わりません。」と塚田さん。今後は、測商技研北陸が扱う機器をホンジュラスに導入し、地滑りがどこでどのくらい進んでいるのかデータ収集から始めていくそうです。「ホンジュラスは情勢に不安があると言われていますが、自然災害による被害が軽減されれば犯罪も減りみんなが安心して暮らせる国になると思います。」西方さんはこの事業がホンジュラスの防災対策の強化ひいては治安の改善につながればとも語ります。

現地の状況に合わせて

これから実施する普及・実証・ビジネス化事業で導入予定の地表レーザー変位計。標的にレーザーを照射し、標的との距離を測定することで地滑りの進行の程度を測定することが出来ます。

地元の方々と関わる中で、日本の技術に興味津々、明るく社交的な性格で調査にも協力的な現地のスタッフの姿がとても印象的だったといいます。訪問先によっては、話が弾み半日話し込んだこともあったそうです。気候も人柄もよく暮らしやすい街という印象を持った一方、「治安」が事業を進めるうえでの大きな課題になっているといいます。「どの訪問先に行っても必ず設備の防犯対策の話題が一番に挙がることにびっくりしました。」とお二人。外国製の機械は高価で珍しいため、盗まれて市場に売られてしまう可能性が高いそうです。物理的な防災対策はもちろん、防災の重要性や設置する設備の重要性を現地の方に根気強く説明することで、盗難を防ぐことが出来るのではないかと考えているそうです。お二人は現地の社会情勢や国民性を理解し、現地に合ったスタイルを模索したいと意気込みを語ります。

次のステップとして

現在測商技研北陸では、国内での取り組みとして金沢大学や富山県立大学など地元の大学の教授や学生と連携したり、学会で講演を行ったりと活発に活動を行っているそうです。「私たちの業界では技術者不足が問題になっています。学生に私たちの国内外での取り組みを知ってもらい、一緒に業界を盛り上げていってくれれば。」とお二人。大学で学生向けに話をする機会を持ち、積極的に若い世代と関わっていきたいといいます。またお二人は、ホンジュラスでの事業を円滑に進めるため、現地の公用語である「英語」と「スペイン語」の習得に取り組んでいるそうです。「今は通訳を通してしか会話が出来ないので、英語やスペイン語を使って自分の口から説明したいと思っています。」というお二人の目標は、防災の大切さと自分たちの取り組みを英語やスペイン語で伝えられるようになることだそうです。

“何事も飛び込んでみなければ分からない。若い世代には技術がないからと尻込みするのではなく、様々なことに積極的に取り組んでほしい。”

金沢から世界へ新しい世界へ飛び込んだお二人の挑戦はこれからも続きます。

取材
JICA北陸インターン
石黒 歩