初めて「マイノリティー」を実感

青年海外協力隊OB(職種:青少年活動/活動期間:2019年7月~2020年8月)
谷内 知香(たにうち ちか)さん(富山県高岡市出身)

高校卒業後に看護師を目指し、看護学校に通っていた谷内さんは、学校での予防教育こそ重要と思い、大学に進学して、養護教諭になりました。養護教諭として従事する中で、学校保健という制度が日本にしかないことを疑問に思い、自分の目で確かめるべく、青年海外協力隊員としてペルーへ派遣されることになるのですが、そのきっかけとなったのは「教師海外研修」への参加でした。自分の価値観が大きく揺らぐ経験をして、自身が協力隊に応募することを決意!現職教員特別参加制度(※)を利用し、いざ、ペルーへ!!

※現職教員特別参加制度:公立学校、国立大学附属学校、公立大学附属学校、私立学校および学校設置会社が設置する学校の教員が身分を保持したまま青年海外協力隊、シニア海外協力隊、日系社会青年海外協力隊、日系社会シニア海外協力隊へ参加するための制度で、毎年春募集のみに募集します。派遣期間と訓練をあわせて2年間(派遣前訓練70日間程度、派遣期間1年9ヶ月)です。

2016年度「教師海外研修」との出会い = 自分の価値観が変わった!

 2016度JICA北陸主催の教師海外研修での研修先は、「サモア独立国」でした。職員室で回ってくるパンフレットの中で何気なく見つけた「教師海外研修」という文字。行ってみたいという直感で参加。特別支援学校で養護教諭をしていた時でした。サモアでは多くの刺激を受け、今までの自分の価値観が大きく揺らいだそうです。
 また、実際に現地で健康診断や体力測定を行わせてもらい、大人の肥満率は高くとも、子どもは平均値であったり、自然豊かな島国の子どもたちの視力が日本の子どもたちとは比べ物にならないほどよかったり、驚くことばかりでした。そんな中一番考えさせられたのが、学校で楽しそうに元気に活動している子どもたちの様子だったそうです。見学に訪れた学校はあふれんばかりの元気な子どもたちでいっぱい。愛くるしい笑顔で授業を受けている様子を見て、ついつい日本の生徒と比べてしまったそうです。
 日本では子どもたちが、学校でうつむき加減に座り、必ずしも明るく笑顔にあふれていないかもしれないなあ、と浮かんでしまいました。そのとき、今まで抱いていた日本は素晴らしい国、豊かな国という概念とは別の価値観があることに気が付き、本当の幸せってなんだろうと考えるようになったと言います。

JICA海外協力隊に参加を決意 = もっといろんな価値観に触れたい!

 2016年度の教師海外研修参加後、自分の価値観が大きく変わり、もっと他の世界も知りたいという気持ちが強くなり、青年海外協力隊として、途上国で活動したいと考えるようになったそうです。思い立ったら、即行動!前向きな谷内さんは、教師を続けたまま行く方法として、「現職教員特別参加制度」を利用し応募することにしました。そのころ勤務していた学校の上司に相談すると、「これからの人にこそ国際理解教育は必要。多くの知見を帰国後に生徒に伝えてほしい」と理解を得ることができました。こうした周りの理解・助けがあったからこそ、参加することができたと今でも感謝していると話されていました。
 谷内さんが応募の際に選択したのは「青少年活動」という職種でした。「青少年活動」は子どもや若者の健全な育成と自立を支援する活動を行う職種で、資格などの制約が少ない要請が多い一方で比較的倍率が高い職種ですが、ペルーの児童養護施設で活動という内容にが目にとまり、今まで青少年と関わる機会が多かった谷内さんはこの職種に応募しました。

ペルーでの活動 = 児童養護施設で格闘。その中で初めて自分がマイノリティーだと気付く

【画像】 2019年月7月にペルーに到着し、本格的に活動を開始したのは同年8月。施設の子どもたちは遠慮なく、スペイン語を毎日浴びせてくるので、そのスペイン語に必死についていこうとしていました。
子どもたち向けのワークショップ等を開催し、健康の大切さや日本の文化を伝える活動の他、同僚たちと協力し、近隣の幼稚園との交流会や施設看護師とチームティーチングによる健康教室を実施したりしました。
 そんな中、その地域に日本人がほとんどいないことで「マイノリティー」になる経験をしたのが大きかったと語る谷内さん。道を歩いていても、中国人を表す「CHINO(チノ)」と叫ばれるということは日常茶飯事だったそうです。そんな時に笑顔での挨拶や「困ったことない?」と気遣ってくれる仲間の何気ない一言にとても励まされたとのこと。それまで特別支援学校等での勤務経験もありましたが、世の中の様々な「マイノリティー」について深く考えるきっかけともなったと振り返っていました。
 今年に入り、突然、世界はコロナウイルスの渦に巻き込まれ、突然帰国を余儀なくされた谷内さん。突然の帰国が決定したとき、任地を離れていた谷内さんは、任地に戻れず、子どもたちや同僚ときちんとお別れできないまま帰国となってしまいました。

コロナ禍で帰国、そして復職 = 今、自分にできることは?

復職した高校での授業の様子

ペルーの食文化について紹介

 2020年3月に帰国し、その後、学校や教育委員会と調整し、8月に復職しましたが、どうしても任地でやり残したことが心にひっかかり、もやもやした気持ちが残るままだったそうです。そんな時、日本の生徒の姿をみて、自分が体験したことを伝えたいと考えたそうです。学校側の力強いサポートもあり、教職員向けに体験談を語るだけでなく、生徒さんに対しても「ペルーでの体験談~文化や協力隊活動について~」と「ペルーの食文化に触れてみよう」という内容で授業をおこなった谷内さん。生徒が真剣に聞いてくれると嬉しそうに話していた谷内さんの今後に期待したいと思います。

【編集後記】
コロナ禍で戻ってきた隊員は、全世界で2千名以上にのぼります。誰もが心半ばして帰国を余儀なくされ、なかなか現実に戻れないという気持ちは私自身も元協力隊員だったのでよくわかります。そんな中でも前を向き、今の自分にできることは何かを考えながらも、行動している谷内さん。学校側の素晴らしいサポートもあり、養護教諭でありながら、授業の枠をいただき、ペルーを伝えていこうとしています。一時帰国後に自分の周りに、社会にいかに還元できるのか、その一つの例を皆さんにも知っていただきたいと思い、記事にしました。