ブータンに届け!『We are ONE』

青年海外協力隊OB(職種:小学校教育/活動期間:2019年1月~2021年1月)
澤多 加奈子(さわだ かなこ)さん(石川県七尾市出身)

2020年10月16日、ブータン国営放送チャンネルの教育番組で、JICA海外協力隊員が作成したエクササイズ動画が放送されました。ブータンでは新型コロナウイルス感染症拡大の影響により2020年3月中旬から全国の学校が閉鎖となり、テレビ放送を活用した遠隔教育プログラムが実施されました。遠隔教育の授業内容は、主に国語、数学等の主要教科に重点が置かれていたことから、在宅学習中の生徒達の健康維持やリフレッシュの必要性が、ブータンの教育省からJICAブータン事務所に提案され、当時、一時帰国中だったブータン派遣隊員4名がエクササイズ動画作成に協力しました。
そこで、参加者のひとりで企画の実現に向けて尽力された澤多加奈子さん(石川県七尾市出身)にお話を伺いました。

ブータンでの活動紹介 

私は2019年1月から2020年3月まで、ブータンの東の地方モンガル県の学校で勤務し、5歳から16歳くらいまでの生徒に体育や美術の指導をしていました。私の派遣の背景には、ブータンではまだ体育や美術などは新しい教科であり、教えることのできる先生が少なかったため、授業をより充実させたいという要望がありました。
学校での授業はもちろん、近隣学校や保育園で訪問授業をしたり、お坊さんたちの学校で体育の授業と運動会を行ったり、学校のクラブチームへのバレーボールやバスケットボールの指導を行ったりしました。

『We are ONE』の実施に至った経緯

【画像】3月末に新型コロナウイルス感染拡大に伴い緊急退避を余儀なくされ、活動を終了せざるを得ない状況になりました。同時にブータン国内でもコロナ感染者がでたため、国がロックダウンし、生徒は学校に行くことができなくなりました。私たちも急遽日本に戻ることになり、突然の別れでお礼も述べられず、帰国後も生徒やブータンへの様々な思いは膨らむ一方でした。そんな時、同じくブータンで活動していた隊員やJICAブータン事務所のスタッフと話をしていると、みんなやりきれなかった悔しさ、ブータンの生徒や家族たちを心配する気持ちがありました。そして、体は日本にいても、心はブータンにある!今できることを今精一杯やろうというみんなの総意で「We are ONE」のプロジェクトが立ち上がりました。

『We are ONE』の実施に向けて苦労したことや感じたこと

【画像】日本に帰国してからも、ブータンの友人や生徒とのやり取りを続けていました。やり取りの中で私たちは学校を活動拠点としていた隊員として「家にこもって運動不足になってほしくない。家族で運動を楽しんでほしい。リフレッシュしてほしい。運動習慣を継続してほしい。」という想いが一致し、ブータンの人が楽しく運動するためのエクササイズダンスを作成することにしました。エクササイズで使用する音楽の選曲から、振り付け、動画編集までメンバー4人で協力して行いました。私たち隊員は帰国後ばらばらの地域に住んでいるので、直接顔は合わせられず、ミーティングは全てZoomを使用しました。
選曲はブータンで有名な歌を使い、初見の人でもリズムが取りやすいようにしました。振り付けを考える時が一番白熱した議論になりました。例えば、ブータン民家は作りが日本よりも丈夫でないので飛び跳ねすぎないようにとか、家は空間的にも狭いので移動を少なくするとか、幅広い年齢層の方にやってもらうためにシンプルでリピートを多くするとか、今後学校体育の中でも使用できるよう、指導の工夫として映像の中に動きを口頭で指導するキーワードを入れるなどの工夫を取り入れました。これらの工夫全て、相手の顔が思い浮かぶからこそたくさんの意見が上がってきました。もちろん時には意見がぶつかることもありましたが、その都度「ブータンの人たちにとって」という本来の目的に立ち返りながらつくり進めていきました。
また、エクササイズ動画はブータンの国営放送で流してもらうため、様々なチェックが入ります。再撮影や再編集などの訂正があり、その度にJICAブータン事務所のスタッフにもお世話になりました。いろんな人の協力を得て、8月からブータンのテレビで放送してもらいました。
エクササイズ動画を見たブータン人から「Kadinche la=ありがとう」のメッセージがたくさん届きました。離れていても私たちはOne team。みんなで苦しい局面を乗り越えよう!という想いが伝わり、私たちも救われました。

ブータンの子供たちへの想いや今後のブータンとのつながり(予定)

【画像】ブータンの子どもたちは素直でたくましいです。たった一人の日本人である私のことをいつも気にかけてくれました。「ごはん食べた?」「さみしくない?」「手伝うよ!」私の周りにはいつも生徒、同僚教員、友人、地域の人などたくさんの人がいてくれました。一度も孤独を感じませんでした。生活環境は日本に比べて厳しかったです。ですが、生徒が目を輝かせて「今日の体育なに?」「見て!できたー!」と嬉しそうに駆け寄ってくる姿や、シャイな子が日を追うごとに話してくれるようになったこと、夢を語ってくれること、言葉はわからなくても私を見つける度に抱きついてくる子がいることなど毎日私に幸せを与えてくれました。だから私も自然とみんなへの愛が募り、ブータンの人のために精一杯活動することができました。
現在もたくさんの生徒が連絡をしてくれます。全ての子どもたちがこれからも自分を大切にしながら生きていけるように、1つでも多くの選択肢をもち自由に選べる人生であるように、できる限りサポートをしていきます。そしてブータンでのご縁を大切にしていきます。
今後は、緊急退避で実現できなかった美術のワークショップのオンライン開催、そして近い将来ブータンに行って直接「ありがとう」を伝えに行きたいと思います。

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