「ウクライナに思いを寄せて」世界に響け!平和の音楽

木藤 美紀(きどう みき)さん(青年海外協力隊OG、石川県小松市出身、金沢市在住)

【写真】

『「ずっと音楽に携わりたい」との夢を叶えるため、JICA海外協力隊に参加。人生初めての海外渡航先が国際協力の場という、スケールの大きな挑戦でした。ペルーの首都リマを拠点にする国立交響楽団でクラリネット奏者として活動した他、若手の有望株が集う国立音楽院での指導も経験しました。
帰国後、再び海を渡り、オランダに留学。その後、国内外で実績のある「オーケストラ・アンサンブル金沢」に加わり、そこでもクラリネット奏者として30年余り舞台に立ち続けています。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、世界中に不安が広がる今。じっとしていることができず、思い切って行動しました。胸に抱いた「自分にも何かできることはある」という思いから、入場無料、全額寄付のウクライナ支援チャリティーコンサートを企画しました。』
このように、ご自身の経験を振り返ってくださった木藤さんにJICA海外協力隊とチャリティーコンサートの繋がりについて、お話を伺いました。

Q1.協力隊に参加したきっかけは?

ペルーの国立交響楽団で演奏する木藤さん

大学4年生の時、偶然にも就職案内掲示板でJICA海外協力隊の募集を見つけました。国内外問わずオーケストラに入るのは難関で、音楽ができるのであれば、どこでもなんでもいいと思っていました。大学を卒業しても純粋に音楽を続けたいという想いが強かったので、JICA海外協力隊の募集に惹かれました。パスポートも持っていない、海外に行ったこともない、しかし音楽を続けるにはやるしかない。期間の決められた就職だと思って、応募を決意しました。それが、人生が音楽で溢れだした瞬間だったと思います。

Q2.JICA海外協力隊で学んだことは?

休みは買い物も満喫しました(左:木藤さん)

協力隊での経験はとにかく何もかもが新鮮だったと記憶しています。パスポートを取ることも初めて、食べ物も飲み物も生活も全てが初めての体験でした。休日に飲むピニャコラーダのパイナップルとココナッツミルクの味が今でも忘れられません。活動はペルーの国立交響楽団の約60人編成オーケストラで4人のクラリネット奏者のうちの一人としてスケジュールをこなす日々でした。それに加えて勤務時間外には、現地の高校生2人に国立音楽院でアンサンブルの指導をしました。日本の子どもも開発途上国の子どもも全く変わりはなく、音を楽しく奏でることができることは同じです。

初めての海外生活でしたが、辛かったことはありません。強いていうならば、財布を盗まれたことでしょうか。活動をする中で印象に残っている事は、国立交響楽団でストライキが起こったことです。午前は練習や講演、午後は生活費を稼ぐために働くという掛け持ち生活を送る団員がほとんどでした。JICA海外協力隊として派遣されていましたが、立場は基本的に楽団員と同じ立場だったので、楽団員の一人として話し合いに参加しました。

Q3.チャリティーコンサートの実施に至った経緯は?

ペルーの国立交響楽団のメンバーと木藤さん(右)

帰国後は、すぐにオランダへ音楽留学をし、スヴェーリンク音楽院でジョージ・ピーターソンに師事しました。1988年オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が設立される際に帰国し、以後33年間OEKの看板クラリネット奏者として活躍する傍ら、有志で結成した美女的四重奏団BEAUTY☆FOURのメンバーとして老人ホームや障がい者支援施設などを訪問し、生の演奏を届け続けました。現在は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で訪問ができないので、SNSで発信しており、近々、訪問活動を再開したいと思っています。

留学と協力隊では見ている景色が全然違います。現地の人と共に歩む協力隊の2年間を通じて、間違いなく視野が広がりました。私は楽器を演奏することしかできませんが、音楽の力を使って、出来る事を、出来るときに、出来るだけやっていきたいです。
今回開催するウクライナ・チャリティーコンサートにもJICA海外協力隊での国際理解の経験が実施の後押しになりました。ロシアのウクライナ侵攻が始まった頃は、漠然とウクライナの為に何かできたらと思っていましたが、ウクライナの都市が破壊され、何も無くなってしまった町並みを報道で見ると、この町は10年くらいでは元には戻らないだろうと思います。町の再建は現地の人の力に寄るところが大きいので、まず難民化した現地の人を支援したいと思い、コンサートで集めた寄付金は全額、国連難民高等弁務官事務所へ寄付することにしています。直接的にウクライナ市民を援助することはできないけれど、せめて気持ちだけでも寄り添いたいと、今回の主催団体名は「ウクライナと共に!の会」と名付けました。

木管五重奏演奏会(左から2番目:木藤さん)

また、SNSを通じて音楽を発信するために、昨年SNSのアカウントを作成しました。するとSNSを始めたことをきっかけに協力隊時代に同じ楽団で活動していたペルー人と再び繋がることができました!その知人を通じて、ウクライナ民謡の楽譜も手に入れることが出来ました。

【取材後記】

クリスマスプレゼントのリボンをほどく瞬間の子どものような、キラキラしたまなざしでした。「音楽が大好き。私は音楽しかできないので」。そう楽しそうに話しながら、二重に梱包されたケースから、そっと取り出したクラリネット。手入れが行き届いた「10数年来の相棒」は、新品のようにピッカピカでした。大学を卒業してから、ずっと抱き続けている国際協力への思いの強さが伝わりました。これまで何度もボランティアでイベントを開催し、大好きな音楽を通じて人々を勇気づけてきたのだと分かりました。自らの手で、新しい明日へのストーリーを創る姿勢は、まさにJICA海外協力隊を象徴する姿だと感じました。
クラリネットを手にすると、にこやかな表情ながら、その奥にある芯の強さが、こちらにも伝わってきました。それこそが、国内外で脚光を浴び続ける「プロの風格」。写真撮影でポーズを要求すると、照れながらも「こうかしら」とにこやかにリクエストに応えてくれる優しさもありました。インタビューは約3時間。心から平和を願うクラリネット奏者の思いやりあふれる笑顔は、海の向こうにも、きっと届くと思いました。

JICA北陸 ボランティア事業班
山崎