【新春鼎談】中小機構 北陸本部 × ジェトロ金沢 × JICA北陸

2021年1月6日

北陸での民間企業の海外展開を支援する3つの支援機関による新春鼎談を行いました。3機関は、石川県で「いしかわ海外展開サポート “かがやき”」、富山県で「チーム“海外展開サポートとやま”」のメンバーとして、連携をして民間企業の海外展開を支援してきています。そして、ジェトロとJICAは2018年7月に連携覚書を締結、中小機構とJICAは2020年6月に連携の覚書を締結し、更なる連携の強化を図っているところです。
今回は、新年にあたり、コロナ禍も含めたこれまでの支援について協力関係を振り返り、今後の支援について決意を新たにしました。

鼎談者:
独立行政法人中小企業基盤整備機構 北陸本部 本部長 高橋浩樹 氏
独立行政法人日本貿易振興機構 金沢貿易情報センター 所長 唐津康次 氏
独立行政法人国際協力機構 北陸センター 所長 菊地和彦

菊地:新年あけましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルスという世界中の人々に大きな影響を及ぼす事態が発生しました。新年にあたり、コロナを乗り越え民間企業のみなさまがさらに海外でご活躍いただけるように支援機関同士がんばっていきたいと思います。

【ネットワーク機関での連携について】

独立行政法人中小企業基盤整備機構
北陸本部 本部長
高橋 浩樹 氏
1983年 地域振興整備公団(現:中小企業基盤整備機構)入職。東北支部経営支援部長、震災緊急復興事業推進部復興事業企画課長、総務部人事グループ人事課長、関東本部副本部長を経て、2019年より現職。

菊地:まずは両機関から見た「かがやき」や「サポートとやま」を通じた北陸における支援機関同士の連携について伺えればとおもいます。

高橋本部長:覚書は、ジェトロと中小機構も2012年8月に締結していて、3者の連携関係が整っています。各機関は限られた資源や人材で支援を行っているので、北陸での支援機関同士の連携は非常に重要ですよね。「かがやき」や「サポートとやま」は地域の支援機関も一緒になって連携しており、支援の輪が広がっていて、企業の方々にとってもメリット生んでいると思います。

唐津所長:2020年8月の着任以来、3回「かがやき」の会合に参加して改めて感じるのは、「餅は餅屋」ということ。それぞれ得意分野や、逆にできない支援があります。ジェトロについては、海外の情報提供や商談機会の提供などが‟本業”ですが、補助金制度などは限定的で、国内における経営支援メニューは持ち合わせていません。しかし、企業の方々からは、実際、そうしたことも併せてご相談を受けることがしばしばあり、各機関をスムーズにご紹介することができることが大きなメリットですね。

菊地:資金的な提供の部分と専門家による伴走型による支援、海外の情報と国内の情報とそれぞれが持つ支援を繋いでいくところで、まさにシナジー効果を生んでいると思います。全国でもこれだけの密な連携を図れている地域はほかにないと考えます。日本を代表する支援機関の枠組みであり、機能ですからこれを大切にし、発展させていいきたいですね。

【北陸の企業の魅力について】

独立行政法人日本貿易振興機構
金沢貿易情報センター 所長
唐津 康次 氏
1988年 日本貿易振興会(現:日本貿易振興機構)入会。ハンガリー・ブダペスト事務所、ロシア・モスクワ事務所、本部海外調査部ロシアNIS課長、同主任調査研究員などを経て、2020年より現職。

菊地:北陸には多くの魅力的な企業があります。一般的にはものづくり、医療、環境などに強い企業が多いといわれていますが、両機関から見た北陸の企業の魅力と海外展開の可能性について伺わせてください。

高橋本部長:ものづくりではニッチトップの企業が多く、また、北陸の恵まれた資源を活用している企業が多いと感じています。北陸の伝統、工芸やデザインを現代に生かして、それを海外へ展開していくという意欲的な企業もあります。たとえば富山県高岡市は仏壇仏具の製造で有名ですが、その技術を活かしてライフスタイルに沿った商品を生み出し、海外展開をするケースもみられます。

唐津所長:ジェトロでも、伝統に培われた当地の様々なデザイン製品の海外への可能性を拓くお手伝いをしていきたいと思っています。食品も忘れてはならない分野です。かつて、ドイツで石川県の日本酒のプロモーションに併せて山中漆器のぐい呑みを紹介したことがありますが、北陸の魅力は優れた産品を幅広くアピールできる文化の厚みと感じており、そうした分野横断的な取り組みができればと思っています。一方、ものづくりの分野には海外に積極的な企業が多くあり、バイヤーの発掘など個々のニーズに応じてお手伝いしています。

菊地:JICAは途上国の課題解決を図ることを目的とする企業さんとの連携になっています。途上国の課題解決にはいろいろな側面があり、今までのやり方に捉われず、今後も各機関と連携しながら様々な分野の企業を支援していければと思っています。

【JICAとの連携について】

JICA、ジェトロの支援を活用した小松市の企業によるマレーシアでの下水道維持管理の「調査・デモンストレーション

菊地:JICAは途上国の課題解決に向けた取り組みとして、途上国の政府機関とのつながりは多少強みをもっています。そのJICAとの連携について、それぞれの立場からご覧になってのメリットや今後こんなことができるのではないかということはありますでしょうか。

唐津所長:例えば、アフリカについては、ジェトロでも拠点を増やしていますが、現時点、9つのみです。さらに幅広いネットワークを持つJICAとの連携は、企業への情報提供の上で有用です。また、開発途上国における「B to G」のビジネスは非常に時間かかるものですので、企業の皆様には制度の確認や実証実験などの段階に応じ、それぞれの支援メニューを上手く使っていただければと思います。小松市の株式会社北菱さんは、2017年から「新輸出大国コンソーシアム」という枠組みでサポートしてきましたが、JICAの事業も活用してマレーシアで展開されています。こうした海外の社会課題解決型ビジネスへの挑戦にご協力できるのは嬉しいことです。

高橋本部長:JICAとは常日頃連携をして業務をしていますが、最近も福井県の企業を紹介いただき、海外展開に向けたビジネスプランの策定支援させていただいています。中小機構は国内の経営支援が中心であり、JICAの事業を実施いただいている企業への国内での経営強化の視点での支援でも連携できます。また、北陸ではSDGs未来都市に選定されている自治体もありますよね。一方、SDGsへの取り組みについては、関心はあっても実際にどのように取り組めばいいか悩まされている企業の方も少なくないと感じています。JICAは途上国への取り組みがSDGsへの取り組みとなっているので、今後も一緒に取り組んでいきましょう。

【SDGsへの取り組み】

【画像】菊地:SDGsの推進はJICAとしても組織としての方針ですが、企業、途上国の双方にとってよいものになるよう悩みながら実施しています。ジェトロではSDGsへの取り組みはいかがでしょうか。

唐津所長:先の社会課題解決型ビジネスのような例がある一方、わたしたちが輸出をお手伝いしている企業には、特に食品や日用品の分野では中小・零細のところが多く、取り組むべき課題が色々とある中で、SDGsへの関心は必ずしも高くないのが現状と思います。今後、関係機関とともに取り組んでいければと思っています。

高橋本部長:わたしたちもジェトロやJICAと一緒になって海外展開に取り組めればとも考えています。石川県はSDGs未来都市に選定されている市も多いので、今後自治体との連携も考えられるのではないでしょうか。

菊地:JICAでも能登里山里海マイスタープログラムで、石川県、珠洲市などの協力でフィリピンのイフガオ州での里山支援にも取り組んでいただいています。

唐津所長:さまざまな活動を通じて、SDGsへの‟気づき”が得られ、それらの取り組みが、ひいては企業の皆さんにもメリットがあることを理解していってもらうことが大事と思います。

菊地:企業様の取り組みを自治体が認めて表彰することによって企業の社会的価値を高めていくことにつながるのかもしれません。JICAもそうした取り組みを支援できるといいなと思います。

唐津所長・菊地:SDGsの取り組みという観点ではまだまだ緒についたばかりなので、協力しあって自治体、企業等へのアプローチをしていきたいですね。

【グローバル人材支援】

【画像】菊地:ジェトロは、グローバル人材の採用・育成に関する支援もされていると承知しています。外国人材の受け入れに関する支援は、JICAも積極的に行っていく考えで、先日、「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(通称JP MIRAI)」という枠組みを一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)さんとともに事務局となって発足しました。日本の社会・経済の一翼を担う外国人労働者の労働・生活環境を改善し、外国人労働者を適正に受入れることを目指します。それにより、日本の生産性向上や社会を発展させること、世界の労働者から信頼され選ばれる日本を創造することに貢献することを目指すものとなっています。海外展開支援という点のみならず、外国人労働者受入企業への支援、自治体、地域への支援としても連携を強めていきたい。ジェトロが進めているグローバル人材支援について伺わせてください。

唐津所長:石川県においては、高度外国人材を活用する企業はあまり多くないように思いますが、ジェトロでは、将来の海外ビジネスの戦力として外国人材を採用しようという企業を数社、サポートしています。ただ、人材の問題は採用のみならず、定着も大きなテーマですので、受け入れる環境という点では、企業単体でなく、自治体を含めた関係機関がともに取り組んでいくことが重要と考えています。

高橋本部長:中小機構ではこれまでは外国人材に関する相談はこちらではあまり受けていませんが、機会があれば、今紹介いただいた制度も今後紹介できればと思います。

【コロナ禍における企業への支援】

2019年12月にチーム“海外展開サポートとやま”主催で実施した「とやま海外展開シンポジウム2019」において各支援機関が活動紹介を行いました。

菊地:さて、2020年はコロナ禍でこれまで行ってきた支援が実施できない中、それぞれの機関が模索が続いていると感じます。2021年もコロナ禍を踏まえつつ北陸の企業への支援を実施していくことになるのではないかと想像します。そこで両機関のコロナ禍における北陸の企業に向けた支援について伺わせてください。

高橋本部長:コロナ禍にあっては、2020年5月にテレワークに関するセミナーを実施するなど、オンラインによる支援が中心でした。手探りで始めましたが、東京在住の専門家によるオンラインでのアドバイスなど、オンラインならではの支援も実施できるようになってきました。今後もしばらくはこうした状況が続くため、オンラインのメリットを生かした取り組みを進めていきたいと考えています。実は、コロナ禍にあっても一昨年に比べて昨年は相談件数が増えているんです。こんな時期だから前向きに、こんな時期だから海外への取り組みを検討していきたいという企業さんが増えていることに勇気づけられています。そうした企業の方々を支援していきたいと思っています。

唐津所長:ジェトロでも、販路を絶たれた企業の切実な声をお聞きします。コロナ禍で、海外の見本市への出展や海外バイヤーの招聘ができず、商談やセミナーなどは多くがオンラインでの実施となりました。海外との時差、サンプルなど実物を共有できないなど問題はまだまだあります。一方で、能登の地域の企業の方からオンラインだから参加できたという声もあり、できることに目を向け全力でサポートしていきたいと思っています。

高橋本部長:時差の問題はどのように解決されていますか?

唐津所長:先日の食品の商談会では、例えば、ニューヨークの夜と当地の早朝で企業のマッチングをしました。わたしたちが間に入ることで調整がうまくいくこともあれば、そうでないこともあります。実は、外国のバイヤーには自宅でオンライン商談を行うことに抵抗がない方々も多く、企業同士で直接、好きな時に面談をセットいただく方法も試しています。

菊地:JICAは新型コロナウイルス対策に関しての支援を推進しています。予防、治療、研究において医療従事者の人材育成や設備等の拡充などを行っていき開発途上国の新型コロナウイルス対策に寄与したいと思っています。保健医療分野、手洗い・きれいな水の供給などの衛生面の改善、仕切りなどの感染対策など含め新型コロナウイルス対策についてノウハウを持つ企業様についても情報交換させてください。

唐津所長:コロナ対策に日本の技術が活かされ、ビジネスにつながっていけば非常に良いですね。

【2021年の抱負と企業へのメッセージ】

菊地:残念ながら鼎談終了の時間が近づいてきました。最後に2021年の抱負と北陸の企業へのメッセージをお願いします。

唐津所長:なかなか情勢が見通せない中ですが、やはりリアルな取り組みは大事だと思っています。人の往来を伴う事業を是非、適切に実施していきたいです。企業様へのメッセージはわたし自身へのメッセージでもありますが、「コロナに負けない」「海外を諦めない」という強い気持ちをもって2021年も臨んでいきたいと思っています。

高橋本部長:変えられないことを嘆くよりも自分たちができることに注力して企業の方々へのサポートを進めていきたいですね。迷っていることがある企業がいらっしゃれば、JICA、ジェトロ、中小機構のいずれかにお気軽にぜひ相談してほしいと思います。「餅は餅屋」ですから、3機関が連携しながら対応していきたいですね。

菊地:こういう時だからこそやっていくのだという企業様への支援を進めていきたいですね。今回こうしてお話を伺って、支援機関連携がさらに深まり、企業への支援を通じて地域貢献をさらに深められることになると確信しました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。高橋本部長、唐津所長、本日はありがとうございました。