【研修員受入事業】地域の「あたりまえ」が世界に活きる —学力テスト1位の石川と中東をつなぎ、研修を行いました!

2022年3月7日

開講式の一枚。研修はアラビア語で実施し、コーディネーターの方が逐次翻訳する形で進みました。

JICA北陸では金沢学院大学と連携し、約3週間にわたり、教育行財政と学校運営についての研修を行いました。北陸の高い教育水準の裏には、「教育の質」を支える教育行政そして地域や家庭と連携した学校運営があります。そのノウハウを北陸から学び、自国の課題解決に活かすため、中東のエジプト、パレスチナ、イエメンから5人が研修に参加しました。残念ながらコロナ禍で来日はできませんでしたが、オンラインで実施することができました!

それぞれの国が抱える教育事情  

パレスチナではデジタル教科書を作成するなど対策を強化しているが、まだ生徒や教員に端末が行き届いていないという課題も。

イエメンでは紛争の影響で学校などが損壊。「教育をなくさないように」と日々対策を続けている。

今回の研修員は各国の教育行政や学校運営で重要な役割を担う方々でした。エジプトからはエジプト日本学校(EJS:Egypt-Japan School)の校長、パレスチナとイエメンからは教育省で教育計画や研修などを担当する部局の管理職の方々が参加しました。
研修は各国の教育の状況や課題の共有から始まりました。エジプトは、生徒数増加により、学校が過密になっていることや、教員不足、予算不足などの課題がありました。パレスチナでも、予算不足で理科の実験等ができないことや占領軍による学校の破壊や教師・生徒の逮捕などの問題がありました。イエメンからも、紛争の影響による学校の不足や教室の過密、教科書の不足などの現状が報告されました。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響についても触れられ、学校の閉鎖やインターネット環境が不十分で十分な対策が取れず学力が低下傾向にあるという課題もありました。「教育をなくさないことが目標だ」とイエメンの研修員が語っていたことは非常に印象的でした。

地域の「あたりまえ」が、世界に活きる。 

映像教材を視聴する研修員(エジプト)。

意見交換をするパレスチナの研修員(左)と多田教授(右)

研修実施にあたり、石川県及び金沢市の教育委員会や金沢市内の小中学校のご協力のもと、映像教材を制作しました。これを視聴した研修員からは、特に教員の研修と再雇用、家庭教育、習熟度別授業などについて質問やコメントが挙がり、毎回予定時間を超えてしまうほどでした。

講義や意見交換を経て行われた成果報告会では、研修員がアクションプランを発表しました。ごみで汚れたビーチの清掃活動や、プログラミングコンテスト実施などの具体的な計画について発表がありました。清掃の企画は、教育の一環として掃除に取り組む学校での子どもたちの姿や、学校と地域の連携などに着想を得たものでした。またプログラミングは、GIGAスクール構想のもと学びを維持しながら生徒のITスキルを育てる取り組みや、習熟度別クラスに関心を持った研修員からの提案でした。日本では当たり前に行われていることが研修員の関心を集めていました。

今年度の研修では、コロナ後の社会や教育の在り方をテーマにした公開セミナーも実施し、大学生を中心に約30名の方々が参加しました。基調講演を行った金沢学院大学の多田教授は「文化の異なる人たちに話をするときには、相手視点を持つことが大切である。教育は希望だ。」と話されていました。その後、学生からコロナ禍での日本の教育や医療の状況について紹介があり、研修員からはコロナ前から抱えていた問題が、コロナ禍でどのような状況にあるかなどについて発表しました。

コースリーダーの田邊教授からひとこと 

金沢学院大学の田邊俊治教授

本研修は中東諸国の教育行政官を対象に、日本の教育経験や石川県の政策実践を通して国や地方の教育行政の役割と責任を認識し、政策マネジメントの推進力修得を目指したプログラムです。
 今回の研修ではオンライン講義のみならず、自治体の教育施策や学校実践の動画オンデマンド、コロナ禍の教育状況をめぐる交流セミナーなど、例年とは異なる全面遠隔でのプログラム構成となった。
 内紛下のイエメン、占領下のパレスチナといった厳しい政治環境の最中にある国々、他方で日本式学校を導入するエジプト、今回の研修参加国の教育環境は多様であるが、研修員のアクションプランからは、遠隔研修とは思えないほどの深い学び取りがあり、各国の実情をふまえた具体的かつ実践的で、達成可能性や効果の期待される提案であったことが高く評価できる。
 本研修の運営に尽力いただいたJICA職員、金沢学院大学関係者、石川県ならびに金沢市の教育委員会、小中学校の教職員や児童生徒の幅広い協働による成果であり、来年度以降もさらなる充実を図っていきたい。

Knowledge Co-Creation~知見の共創~とは 

最後にインターンとしてこの事業に関わらせていただく中で学び感じたことを少しだけ書かせていただこうと思います。
国際協力というと、現地での活動をイメージする方は多く、私自身もその一人でした。しかしながら、研修員受入事業では研修員が来日し、日本の地域のノウハウを学び、自国の課題解決に活かすというものです。そして事業の目的は、これだけではありません。日本側が研修員から学ぶことも多くあります。今回、研修員や講師の方々のお話を伺う中で、「教育は国創り」という言葉の解像度が上がった気がしています。

ともに今後の教育や社会の在り方を考え、議論し、実行していく。研修が終わった後はお互いに自分たちの職場に学びを還元して、また議論を重ね、実行していく。これが「Knowledge Co-Creation Program」(知見の共創:研修員受入事業の英語名)なのだ、ということを実感した3週間でした。

(JICA北陸インターン 岡田龍之介)