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【研修員受入事業】石川県の奥能登が抱える課題と地域資源を活用した取り組みについて、JICA留学生が学びました!/ JICA Scholars deepened Understanding of Issues in Noto and Challenges Utilizing Local Resources!

2022年10月27日

地域の産業や開発の歴史についてJICA留学生が学ぶ「地域理解プログラム」を9月20日~22日の2泊3日で実施しました。今回のテーマは「人口減少をはじめとする奥能登が抱える課題と地域資源を活用した取り組み」で、JICA留学生15名が参加しました。(JICA北陸 野吾奈穂子、高野勝郎、インターン ニラモン・ラウィナン)

奥能登—美しい自然と豊かな文化。課題は少子高齢化と人口減少

「春蘭の里」で日本家屋に宿泊したJICA留学生、満面の笑顔です!

「地域理解プログラム」は、日本の大学院で学ぶJICA留学生たちが地域の産業や日本の開発の歴史を学び、帰国後の国づくりに役立ててもらうことを目的としてJICAの国内拠点が主催しているスタディツアーです。
今回は金沢大学、金沢工業大学、石川県立大学の大学院に在学中のJICA留学生15名(インドネシア9名、ガーナ2人、ガンビア、ブータン、ケニア、ルワンダから各1名)が参加し、奥能登の現況および課題について理解をより深めました。能登半島には、長年培われてきた文化や里山里海がありますが、現在は少子高齢化・人口減少による課題が徐々に深刻になっています。留学生は地元の方や移住経験者による講義や視察に参加し、ディスカッションを行いました。農家民宿「春蘭の里」での宿泊も貴重な体験となりました。

講義1:「奥能登地域の特色と課題、金沢大学の取り組み」中村浩二(金沢大学名誉教授)

2011年に世界農業遺産(GIAHS)に認定された能登の豊かな自然資源、里山里海の事例とともに、人口減少や伝統的祭りの継承者不足等の地域課題についてご説明がありました。中村先生ご自身が携わったJICA北陸の「草の根技術協力事業」の事例では、「フィリピン国イフガオ地域の棚田でも30%が荒廃するなど日本が直面している課題は開発途上国でもすでに起こっている」ということをご紹介くださり、留学生たちは頷きながら聞いていました。

講義2:「持続可能な定置網漁法と食を通じた地域活性化」中田洋助(日の出大敷 クリエイター)

中田様には、伝統漁業による水産資源の持続的な活用と漁業を通じた地域活性化への想い、次世代人材の育成について講演を行って頂きました。水揚げされた魚は都市圏のレストランで消費され、観光客誘致・地産地消に至らない。観光資源がないと言われる能登町だが、豊かな食資源を観光コンテンツとして衰退した水産業を盛り上げ、稼げる職業にして地域を活性化したいと熱心に語ってくださいました。その熱意に留学生は大いに刺激を受け、たくさんの質問が出ていました。

講義3:「珠洲市の抱える課題と取り組みについて」杉盛啓明(珠洲市役所企画財政課

1950年代をピークに減少する珠洲市の人口は、2040年には2022年比で半減との予測もあります。そこで珠洲市では「2040年に人口9,500人、年間80人住民を増やす」との目標を掲げて空き家や廃校の活用、教育の充実等移住政策を図っています。講義の中で紹介された移住者の声によると、豊かな自然資源への満足度が高く、資源活用の余地がある点にインスピレーションを受けているとのこと。
留学生からは、外国人の移住支援策について質問が相次ぎました。講義の後で行った小グループ討議では、珠洲市での就業を促進するため交通アクセスの充実や移住者受入後のケア、移住者の定住状況モニタリングやIT分野などでの企業誘致、安価な住居費の魅力の発信や国際化の推進など、様々なアイディアが共有されました。

講義・視察4「炭やきビレッジ構想」大野長一郎(株式会社ノトハハソ/大野製炭工場 代表取締役

芸術的な茶道用の炭

地域資源を活用した地域産業の育成、地域振興についての講演に続いて、製炭工場を視察させて頂きました。耕作放棄地を活用した植林作業をイベントにして関係人口を増やし、持続可能な樹木活用とともに集落を活性化する工夫などのご紹介もありました。茶道用高級炭の販売やCO2固定量の試算によるカーボンマイナスのPR、デザイナーとの連携など、新しい取り組みを行っておられます。
留学生からのカーボンマイナスに関する質問に対しては、「日本の排出権取引は、排出分を減らすことで取引の対象としているが、この製炭は事業実施の段階でCO2排出をマイナスに出来ているので政府の基準では適用されない」とのお返事がありました。これを受けて、視察に同行された中村浩二先生からは、「このような取り組みに対しては新たな枠組みの制定が必要」とのコメントもあり、建設的な議論で盛り上がりました。

パネルディスカッション「移住者と起業の実例」①NPOガクソー/中田文化額装店 北澤晋太郎(学びと遊びの拠点づくり)、②サポートスズ 鹿野桃香(奥能登国際芸術祭の企画等)、③アステナミネルヴァ 冨田遼太朗(人材育成・教育、地域連携と起業誘引、事業投資)

珠洲市に移住した若手起業家によるパネルディスカッションも盛り上がりました!

6年以内に珠洲市に移住した20代後半から30代前半の若手人材に、珠洲市の魅力や課題、各自の事業紹介を行って頂きました。場所や人が魅力的である一方で雇用や教育の機会が少ないといった課題があり、それぞれの事業を通じて情熱的に社会貢献を行う姿に、留学生たちも大いに刺激を受けていました。
留学生との質疑では、平均月収や生活費などの現実的なものから、課題も感じるのに住み続ける理由などについて質問が寄せられました。これに対して、講師からは、ある程度の不便さも許容しつつ、町全体の温かい雰囲気や自然・文化を気に入っていることなどが挙げられていました。

JICA留学生によるグループ討議でのまとめ

たくさんの新しい発見があった奥能登訪問。グループ討議でもたくさんのアイディアが出ました。

最終日には、各出身国の地方部の現状と課題、奥能登地域への提言をまとめるため、これまでの講義と視察を踏まえた意見交換を行いました。発表には石川県庁、珠洲市役所や移住起業者、会場となった金沢大学能登学舎のスタッフの皆様が参加くださいました。
●課題:留学生の出身国でも、地方部から都市部への人口移動により地域の文化が失われつつあり、地方に残された高齢者の課題などに直面している。過疎化した地域では飲み水等の基礎インフラへの影響や野生生物による耕作地への被害等も出ている。
●学び:奥能登地域のおいしい食事や伝統的な文化、自然に対する尊敬の念などを感じた。空き家や廃校なども含めて、地域の資源を有効に活用している。地方での暮らしは課題がある一方で、敢えて選択して住み続ける人たちに、大変刺激を受けた。
●奥能登地域への提言:地元で働く人のための税金の控除、教育と施設の充実、特別な奨学金の検討、多彩な技術を持つ人材・ハイテク企業を呼び込み地域の魅力を高める、大学や研究機関など各種連携を通じた地域の再生、SNSによるマーケティングとニーズの把握、政府による地方の基礎インフラへの投資など。
発表後、日本側参加者からは、以下のようなコメントを頂戴しました。
●大変参考になる意見を頂戴した。(珠洲市)
●次世代に能登の暮らしや文化を継承する事業を今後も継続したい。(県庁)
●移住者への支援はあっても農業や漁業に従事する人への補助はなく、留学生の指摘は新しい視点だった。発表中、企業の森林破壊について実際に困っている人の話も初めて聞いた。今回のような20~50代の人たちとの討議は有意義。海外からの留学生とコラボレーションした地域の学校での出前講座も行いたく、JICAに今後も期待したい。(移住者)

結びにかえて

JICA留学生は様々な専門分野で研究活動を進めていますが、ほとんどが若手の行政官であり、今後、母国の発展を担っていく人材です。今回の参加者は、国の経済発展に伴って新たな課題が生じていることを理解し、外国人の日本への移住支援などについて日本側への新たな気づきを与えてくれるコメントも聞かれました。
次回の地域理解プログラムでも、北陸の産業や発展を支えてきた地元の方々とJICA留学生がふれあい、お互いに学びあう場を作っていけたらと考えています。

以上