人々の暮らしと心をつなぐネパール初の道路トンネル完成! -「ナグドゥンガ・トンネル」ランニングイベントを開催 -
2026.10.16
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- ネパール事務所 所長 松崎 瑞樹
トンネルの中へ!
雄大なヒマラヤ山脈と世界最高峰エベレストを擁するネパール。2026年8月下旬には大規模な洪水・土石流災害に見舞われ、多くの方々が被害を受けました。犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。JICAとしても、被災地の復旧・復興にどのように貢献できるか、関係機関と連携しながら検討を進めています。今回の災害は、ネパールの人々の暮らしを支える交通インフラの重要性を改めて認識させるものともなりました。
山や丘が多いこの国では、道路整備が難しく人々の移動や物流は長年の課題でした。近年は道路網の整備が進んでいるものの、気候変動の影響による豪雨で地滑りが発生し、道路が寸断されることも少なくありません。
過去日本が協力したシンズリ道路 ネパールの峠の厳しさがわかる
こうした課題を抱えるネパールにおいて、交通の大動脈として重要な役割を果たしている場所の一つが、首都カトマンズ近郊にあるナグドゥンガ峠です。この峠は、今回の災害の被災地域から50km程度離れていますが、カトマンズと国内各地、そしてインドを結ぶ物流の大動脈でありながら、急カーブが連続する難所として知られており、渋滞や交通事故、近年は豪雨時の地滑りも頻発し、通行に時間と危険を伴う区間でした。
ナグドゥンガ地滑りの様子
ナグドゥンガ峠・渋滞の様子
こうした課題解決のため、JICAは有償資金協力(ローン)によりネパール初となる道路トンネル「ナグドゥンガ・トンネル建設事業」を支援してきました。2016年の両国の合意を経て、19年に工事を開始。その後、コロナ禍や豪雨災害など数々の困難を乗り越え、約1,200人が建設に携わり、約10年の歳月をかけて完成しました。
トンネル内工事の様子
開通記念石碑
追加借款署名式の様子(中央:筆者)
開通式でのJICA田中理事長のスピーチの様子
日本人にとって「峠」と聞くと、江戸と京都を結んだ東海道の難所、箱根を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。ナグドゥンガ峠もまた、首都カトマンズと第二の都市ポカラを結ぶ幹線道路上に位置し、多くの人や物資が行き交う交通の要衝です。いわば「ネパール版・東海道」の最初の難所ともいえる存在です。そして箱根といえば、正月の風物詩、箱根駅伝。駅伝といえばランニングです。
「完成したばかりのトンネルを、自分の足で走ったり歩いたりできたら面白いのではないか」
8月の洪水発生前に、そんな発想と私のランニング魂も相まって企画し、実施されたのがファンラン/ウォークイベント。多くの関係者の協力を得て、2026年7月18日、ネパール道路局とJICA事務所共催で開催することができました。
イベントには、インフラ開発省などの政府関係者、トンネル周辺の自治体の長をはじめ、地元住民や学校の子どもたち、報道機関、地元に住む日本人や補習校生徒、大使館員、協力隊員や専門家などJICA関係者、総勢400人以上が参加。さらに広報効果を高めるため、ネパール男子マラソン記録保持者で五輪出場経験ももつバイクンタ・マナンダールさんや地元ランニング愛好家の皆さんも参加しました。
マラソン五輪選手バイクンタ・マナンダールさん(中央)、インフラ開発省の局長、トンネル周辺の自治体市長らも参加
イベントの目的は、完成したトンネルを楽しみながら体感してもらうだけではありません。ネパール初の本格的な道路トンネルについて理解を深めてもらい、安全な利用方法を知ってもらうこと。そして、日本とネパールの技術者や作業員が協力して築き上げたこの事業を地域の皆さんに身近に感じてもらうことも大きな狙いでした。
トンネルの全長は2,688m。アクセス道路を含めた事業区間全体は5,560mに及びます。今回のイベントのランニングコースはトンネル内を東西往復する約6キロ、ウォーキングコースは約3キロとしました。また、通常は立ち入り禁止の避難用トンネルの一部も見学できる特別ルートを設定し、複雑な地質条件の中で進められた工事や、安全を支える設備なども知ってもらう工夫をしました。
ランニングスタートの様子
ウォーキングのスタートの様子
ナグドゥンガ・トンネルはネパール初の本格的な道路トンネルであることから、初めて道路トンネルを通行するという人も少なくありません。参加者はトンネルの大きさや設備の充実ぶりに驚くとともに、追い越し禁止や二輪車の通行制限など、今後利用する際のルールについても学びました。
トンネル設備について参加者に説明する様子
実は、このトンネルは車両専用です。開通後は歩いたり走ったりすることはできません。そのため、自分の足でトンネルを見て回ることのできる今回のイベントは、参加者にとって最初で最後の貴重な機会となりました。
イベントの様子1
イベントの様子2
イベントの様子3
本イベントには多数の報道機関も参加し、テレビや新聞、SNSなどを通じて広く発信されたことで、トンネルへの理解促進にもつながりました。
参加者からは、「日本のトンネル建設技術は素晴らしい!」「これまでの峠越えの時間が大幅に短縮される」「救急車両がより早く病院へ到着できるようになる」「物流がさらに円滑になる」といった期待の声が聞かれました。また、ランナーからも「トンネルを走れるなんて、一生に一度の貴重な機会」「折り返し後の上りはきつく良いトレーニングになった」などの声も聞かれ、参加者の皆さんの笑顔で溢れる楽しいひと時となりました。
ゴールを目指して!
ゴール後のハイタッチ!
そして参加者から寄せられた期待は、早くも現実のものとなっています。
8月下旬の洪水・土石流災害の発生後には、JICAが復旧・復興支援の検討に向けて派遣した現地調査チームがこのトンネルを活用して被災地へ向かいました。完成したばかりのトンネルは、既に人々の移動を支え、復旧・復興に向けた取り組みを後押ししています。
ナグドゥンガ・トンネルは、人や物の移動を支え、物理的な距離と時間を縮めるインフラです。そして今回のファンラン/ウォークイベントは、その価値を地域の人々と共有し、人と人との心の距離も縮める機会となりました。
参加者集合写真
JICAは、これからもネパールのインフラ整備を通じて社会経済の発展に貢献していきます。そして、道路や橋、トンネルといった「形あるつながり」を築くだけでなく、事業を通じた人と人との交流も大切にしながら、日本とネパールの信頼関係をより一層深めていきます。ナグドゥンガ・トンネルが両国の協力によって実現したように、今回の災害からの復旧・復興の歩みにも寄り添いつつ、これからも互いに支え合い、学び合う関係を育みながら、両国の未来につながる協力を進めていきます。
JICAネパール事務所のスタッフ