jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

山岳国ネパールに道を開く――トンネル建設を支えた日本の技術と国際協力

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2026.10.09

険しい山々に囲まれるネパール。首都カトマンズと主要都市をつなぐ道路では、慢性的な交通渋滞や事故が大きな課題となっていました。こうした状況を改善するため、JICAなどの協力を受けて整備されたのが、ネパール初の近代的な設備を備えた「ナグドゥンガ・トンネル」(全長約2.7キロ)です。2026年7月の完成までに要した時間は約7年。市民待望のトンネル建設の舞台裏には、日本とネパールの技術者たちの挑戦と協力がありました。

トンネル工事の様子

トンネル工事の様子

「世界水準のインフラ」がネパールに

7月末に行われた完成式典には、ネパール政府のインフラ開発省の大臣、駐ネパール日本大使、JICA理事長らが出席しました。ナグドゥンガ・トンネル建設プロジェクトの統括責任者を務めたネパール政府道路局のサウジャンヤ・ネパール氏は「日本とネパールの双方にとって誇らしい瞬間であり、両国の協力関係を象徴する出来事だった」と、当時を語ります。

ナグドゥンガ・トンネルの完成式典

ナグドゥンガ・トンネルの完成式典

現地メディアにも大きく取り上げられ、市民からは「先進国でしか見たことがないような世界水準のインフラがネパールにできた」と歓迎する声が上がっています。ネパール氏は「ナグドゥンガ・トンネルの完成は、わが国のインフラをより近代的なものへと発展させる転機となるものです」と期待を寄せました。

完成したナグドゥンガ・トンネル(安藤ハザマ提供)

完成したナグドゥンガ・トンネル(安藤ハザマ提供)

トンネル建設が待ち望まれていた背景には、交通事情の課題がありました。ネパールでは近年、経済成長に伴い物流や人の往来が拡大する一方、道路ネットワークの整備が追いつかず、慢性的な交通渋滞が発生。さらに雨期には斜面崩壊による事故も発生し、交通安全の確保が課題となっていました。

こうした状況を改善するため、JICAはナグドゥンガ・トンネル建設予定地の交通量や地質条件などについて調査を実施しました。その結果、この地域の交通渋滞や事故リスクの軽減にはトンネル整備が有効であると判断。さらに、地質の安定性や環境・社会への影響を比較検討したうえで、より安定した岩盤を通る最適なルートを見つけました。こうした準備と検討を重ねながら進められたのが、ナグドゥンガ・トンネルの建設です。

この区間の通行にはこれまで、車で30分~1時間もかかっていましたが、トンネルの開通により6~7分に短縮されました。また、トンネルには換気設備や照明設備に加え、緊急時に避難できる避難坑が備えられており、ネパールの道路インフラの新たなモデルとして期待されています。

開通から間もない9月上旬には、トンネルの効果を示す出来事がありました。カトマンズへ向かう既存道路の一部で陥没が発生し、交通に深刻な影響が出たのです。その際、救急車などの緊急車両はトンネルを通って現場へ向かいました。トンネルが日常の渋滞緩和だけでなく、道路に支障が生じた際にも通行ができる「代替ルート」としても機能したのです。

これまで車は急カーブが続くナグドゥンガ峠を越える必要があったが、トンネルの開通によって峠道をショートカットできるようになり、30分~1時間かかっていたのが、6~7分で通行できるようになった

これまで車は急カーブが続くナグドゥンガ峠を越える必要があったが、トンネルの開通によって峠道をショートカットできるようになり、30分~1時間かかっていたのが、6~7分で通行できるようになった

困難だった地盤との闘い

入念な調査を重ねて準備を進めましたが、トンネル工事は想定を超える難工事になりました。

施工を担った大手建設会社「安藤ハザマ」で現場所長を務めた井上賢一さんは「トンネルを掘っているとき、ヒマラヤ特有の難しさ、自然のすごさを思い知りました」と振り返ります。

ネパールには、世界最高峰のエベレストをはじめとする8,000メートル級の高峰が連なるヒマラヤ山脈があります。ヒマラヤ山脈はインドプレートとユーラシアプレートの衝突によって形成されており、現在も地殻変動が続いています。そのため、山岳地帯では地圧が非常に高く、岩盤は脆弱(ぜいじゃく)で崩れやすい場所が多くあります。トンネル工事においては、こうした厳しい地質条件が大きな課題となりました。

ナグドゥンガ・トンネルでも、強い地圧の影響でトンネル内部に岩盤の押し出しが生じたり、岩盤の一部が崩れ落ちたりするなど多くの課題に直面しました。工事期間中には40回近い落盤も発生しています。

井上さんは「通常のトンネル工事では考えられないような変形や地盤の動きが続きました」と語ります。

日本のトンネル工事では、地圧による変形は数センチ程度に収まるのが一般的です。しかし、この現場では最大で約1.5メートルもの変形が発生しました。トンネル内部を支える鉄骨がねじ切られるほどの強い力が加わり、技術者たちは想定を超える地圧への対応を迫られたのです。

落盤が発生したトンネル内(安藤ハザマ提供)

落盤が発生したトンネル内(安藤ハザマ提供)

計測が支えた難工事

難しい地盤条件の中で重要な役割を果たしたのが計測作業でした。トンネル工事では、掘削後に周囲の地盤がどのように挙動するかを継続的に計測します。

井上さんは、ネパールの現地作業員たちに計測の重要性を繰り返し説明しました。なぜ同じ場所から測定しなければならないのか。なぜ高い精度が求められるのか。そうした理解を現場全体で共有しながら、工事を進めていったのです。

通常のトンネル工事では、計測頻度は20~30メートル間隔で実施します。しかし、現場は難しい地質だったため10メートル間隔での計測が求められました。しかも地盤の動きが止まらないため、現場では毎日約200メートルにわたる広範囲を網羅する計測が必要でした。掘削を中断していた期間も、現地作業員たちは計測を継続。地盤がどのように動くのか、その変化を地道に記録し続けました。

井上さんは、当時をこう振り返ります。

「ネパールの人たちは、手間のかかる作業でも決して手を抜かず、本当に根気強く続けてくれました。あのデータがなければ、このトンネルでなぜ地盤が動くのかを理解することは難しかったと思います」

ナグドゥンガ・トンネルの貫通式(安藤ハザマ提供)

ナグドゥンガ・トンネルの貫通式(安藤ハザマ提供)

未来につながる経験

井上さんは、このプロジェクトで培われた技術や経験が、ネパールと日本の双方にとって財産になると考えています。

日本では建設業の人手不足が続く一方、ネパールには「日本の技術を学びたい」という意欲に燃える若者がたくさんいます。「今回できた縁をきっかけに、ネパールの人たちが日本で経験や知識を身につけ、その後ネパールに戻って活躍する。そんな人材の循環が生まれればうれしい」と話す、井上さん。

ネパール氏は「ネパールの技術者にとって、近代的な道路トンネル建設を現場で学ぶ貴重な機会になりました。今後さらに(ネパールで)多くのトンネル建設につながり、日本との協力も続いていくことを願います」と話します。

井上さんも「日本の企業と一緒に働くことで技術や知識、困難への向き合い方が身についたという声を多くいただいています。日本で働いて経験と知見を深め、またネパールへ戻る。そんな人材の行き来ができたらいいと思います」と期待を寄せました。

7年をかけて完成した一本のトンネルには、日本とネパールの技術者たちが力を合わせ、数々の困難を乗り越えた軌跡も刻まれています。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ