第2回JICA健康と命のための手洗い運動プラットフォーム会合を開催しました!

掲載日:2021.10.15

イベント |

概要

2021年10月15日「世界手洗いの日」に、JICA健康と命のための手洗い運動プラットフォームの第2回となる会合をオンラインで開催しました。参加人数は、プラットフォームの個人・団体会員、関係機関、大学、コンサルタント企業、JICA等から約100名に及びました。

国際学校保健コンソーシアム 理事長でもある琉球大学 保健学科 国際地域保健学教室の小林潤教授から「ウィズ・ポストコロナの学校保健」をテーマに基調講演をいただき、株式会社地球システム科学 門上様と日本テクノ株式会社 村上様より、それぞれプロジェクト研究「水供給・衛生分野の新型コロナウイルス対策の教訓と必要な支援方策の検討」、「国際NGOとの連携による学校・保健施設の衛生行動改善に関する情報収集・確認調査」における手洗いに関する調査結果や取組みをご発表いただきました。また、JICAからは、様々な現場での手洗い定着に向けた多様な取組みを説明しました。質疑応答の時間では、本運動の今後の展開に関するご質問、様々な現場におけるアプローチ等に関する質問がありました。

背景・目的

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は少しずつ収束の兆しが見えてきましたが、特に途上国ではワクチンの接種率は低い水準に留まっています。COVID-19を含む感染症予防には、水供給・手洗い設備等の整備と、適切な方法による手洗いを主とした衛生行動が重要であり、手洗いを定着させ、継続する必要があります。JICAは、事業の関係者が率先して手洗い等の衛生行動を実践し啓発活動を行うこと、及び各種の事業に手洗い等のコンポーネントを組み込むことによって、感染症の予防や公衆衛生の向上に貢献することを目的として、2020年9月に「JICA健康と命のための手洗い運動」を開始し、1年が経過しました。そこで手洗い等衛生行動の定着や習慣化、現場での手洗いの推進等について、皆様と知見を共有することを目的として、本会合を開催しました。

内容

1.基調講演

国際学校保健コンソーシアム 理事長でもある琉球大学 保健学科 国際地域保健学教室の小林潤教授から「ウィズ・ポストコロナの学校保健 -学校での手洗い運動の国際的普及における考察-」をテーマに基調講演をいただきました。

江戸時代、ペリーが日本を訪れた際、日本では衛生状態が非常に良かったことが記録に残されており、日本の衛生行動は、長い間日本人が持っていた生活習慣や教育により育成されてきたものと言えるそうです。「この衛生行動の定着を世界中に短期間でもたらすことは非常に難しく、根付かないと感じることもあるだろうが、2007年からJICAが保健分野の支援で取り入れた5Sカイゼン活動も徐々に定着していることもあり、世界的な戦略をもって取り組めば可能と考えられる」と小林教授は話されます。学校保健の国際戦略においては、ヘルスプロモーティングスクールというコンセプトが見直され、現在世界に普及しています。

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小林教授による基調講演

本コンセプトで重要な要素として1)ヘルスポリシー、2)支援的環境、3)地域との連携の3つが挙げられました。1)ヘルスポリシーは、子どもたちが健康になろうというポリシーを持つことであり、子どもたちにオーナーシップを持たせ、自分たちのものとして能動的に健康行動を広めていくこと、2)支援的環境については、例えば学校建設においてトイレのそば以外にも手洗い場を設置し、手洗いできる環境を作るようなコンセプトを持つこと、3)地域との連携においては、子どもたちが学校で学習したことを地域に伝え、地域住民と連携することが重要といいます。子どもたちのクリエイティブシンキングを伸ばすことによって、オーナーシップが醸成され、それを地域に持ち込むことで地域連携が強くなり、地域住民が学校を支援するようになるそうです。保健教育は学校教育において優先順位が低い状況にある中で、地域住民の支援によって様々な学校活動が促進されていくことになります。このため、子どもたちを単なる活動のターゲットではなく、パートナーとして考える必要があります。

また、COVID-19の学校保健への影響として、直接の感染対策だけではなく、社会経済的影響が大きく、子どもの人権が侵害されている状況にあるようです。(生活習慣病、児童虐待、メンタルヘルスの問題、ICT中毒等)。こういった状況の中で、手洗い活動も含め、我々大人が子どもたちの権利を守っていかなければなりません。ユニセフが1989年に制定した子どもの権利条約から30年が経過した年にCOVID-19の感染が拡大し、今一度皆様にこの問題を考えていただきたいということでした。

さらに、日本を含むアジア・太平洋地域は自然災害が圧倒的に多く、災害教育では世界をリードしており、災害への対応だけではなく、その根本にある気候変動の問題を教育に積極的に取り入れて災害教育と連携させていく動きがあります。COVID-19も災害と考えることもできます。このように日本が行ってきた環境教育、保健教育、さらに災害教育、そして民間企業が製造した防災グッズの学校現場での使用とともに行動変容を世界に広げていく、次のアウトブレイクに対応していく、様々な自然災害に対して根本的な教育とともに対応していくことについては、官民連携で実施していけるのではないかと、学校保健普及における官民連携のヒントについてもお話いただきました。

2.手洗いの定着と行動変容に向けて-プロジェクト研究「水供給・衛生分野の新型コロナウイルス対策の教訓と必要な支援方策の検討」の調査結果より-

株式会社地球システム科学の門上綾様より、世界の手洗いの状況、手洗いの留意点、習慣化及び行動変容に関して、同プロジェクト研究の成果を基にご発表いただきました。

手洗いの習慣化に必要な要素には、1)衛生教育、2)環境整備、3)動機付け、4)コミュニティ・社会との連携強化、5)既存観念の活用、6)実践的なステップの実施、7)10年程度の継続的な取り組みが挙げられました。手洗い行動が日本で習慣化されている理由は、官民学を挙げたハード・ソフト両面での物心つく前からの1)~7)の要素を組み合わせながら継続的に繰り返される多角的な取組みが一役買っていると考察されます。

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門上様によるご発表

また、行動変容を促進する上では、以下の3つを留意点としてお示しいただきました。

  • 行動変容を促進する上で、行動変容ステージモデルの各ステージ(無関心期、関心期、準備期、行動期、維持期、再発期、確立期)に合わせた対応を行うことが効果的
  • 相手の置かれた状況や認識、考えを理解した後、エビデンスを活用しながら危機感を伝えるとともに、対象とする行動(手洗い)のメリットがその行動を新たに開始するデメリットを上回るよう説明を行い、行動に移行するような提案や交渉を行うことが必要
  • 継続的な行動に繋がるよう、短期的な目標を低く設定する等して、成功体験による自信向上を促すことが効果的

3.衛生啓発と手洗いの定着に関する国際NGOとJICAの取り組み-「国際NGOとの連携による学校・保健施設の衛生行動改善に関する情報収集・確認調査」より-

2021年9月より開始となった同調査に従事される、日本テクノ株式会社の村上照機様から、調査の概要・目的等についてご発表いただきました。

学校、保健・医療施設におけるCOVID-19対策として、手指衛生(衛生行動)は非常に重要な要素とされている一方で、COVID-19感染拡大前の学校、保健・医療施設の手洗い施設へのアクセス状況は、途上国では、学校の43%(2019年)が石鹸を備えた手洗い施設にアクセスできておらず、COVID-19対策の最重要施設である保健・医療施設でも、データが入手可能な71か国のうち12か国では、半分以上の保健・医療施設の医療現場で手指衛生が実践できない状況(2019年)にあります。

同調査は、ネパール、タンザニア、マダガスカルの小学校及び保健・医療施設を対象とし、水・衛生分野の国際NGO(WaterAid)とJICAが連携して実施されています。互いの組織が持つノウハウとネットワークを合わせて学校・保健医療施設の衛生行動改善に取り組むことによって、コレクティブ・インパクトを発現することを目指しています。また、非常時のサービスデリバリーという点において、COVID-19感染拡大による渡航制限がある状況でも現地に拠点を持つ国際NGO(WaterAid)と連携することで、JICAの支援を各国の施設まで届けることが可能になります。

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村上様によるご発表

また、同調査で実施される予定のエビデンス蓄積のための2つの研究についてご紹介いただきました。

  • 手洗い行動変化の計測:学校におけるナッジ等の衛生啓発の効果が家庭等、他の場所での行動変容に繋がるのか
  • 手洗いの水質が手洗いの効果に及ぼす影響:手洗いに使用する水に含まれる大腸菌や水のpH、硬度等が手洗いの効果にどの程度影響するのか

同調査の今後の経過や報告については、手洗い運動事務局からも随時発信していきます!

4.JICAからの報告

手洗い事務局より、「健康と命のための手洗い運動」の実績を報告しました。

JICAでは、新型コロナウイルス感染症による健康危機に効果的に対処するため、「JICA世界保健医療イニシアティブ」を推進しています。本イニシアティブにおいては、人間の安全保障と強靭なユニバーサルヘルスカバレッジ達成を目標にしており、「予防」「警戒」「治療」の強化に取り組んでいます。水・衛生施設へのアクセスや手洗いは、感染症予防の強化に貢献するものとして位置づけられ、さらに拡充していきます。

JICAにおける手洗い活動は、2020年9月30日以降、1年間で56か国256件の活動が報告され、延べ3億人に向けて手洗いの重要性を伝えるメッセージを発出しました。全世界での手洗い運動の取り組みとして、日本企業との連携、著名人、NGO、現地企業など多様なアクターとの連携、教育現場での取組みなど、手洗いの行動変容と定着に向けて工夫を凝らした様々な活動が実施されています。

一方で手洗いの主流化においては、JICAの取り組みだけで世界中の全ての場所に支援を届けることができないため、今後も、民間企業や、NGO、大学等の皆様と協働し、更にインパクトのある活動としていきたいと考えています。

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様々な手洗い運動の取組み(手洗い運動事務局 松永職員)

5.JICA在外事務所からの報告

JICAインド事務所、JICAエジプト事務所、JICAザンビア事務所から、それぞれの国で実施された手洗い運動の活動を紹介しました。

  • JICAインド事務所:アッチー・アーダト(良い習慣)キャンペーン

【概要】JICAインド事務所は2021年1月から、インドにおける新型コロナウイルス等の感染症予防を促進すべく、アッチー・アーダト(良い習慣)キャンペーンを実施中。キャンペーンでは1億人を目標に、衛生啓発活動を展開。日本企業11社と連携(2021年10月時点)。

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インド事務所(赤嶺次長)

  • エジプト事務所:Value in Lifeを通じた新型コロナウイルス予防啓発プログラム

【概要】公⽴⼩学校(100校)及び保育園(50施設)を対象とした、Value in Life Activitiesを通じた新型コロナウイルス予防啓発活動(手洗い、うがい運動)を実施。日本式教育「特活」の考え方を取り入れ、各地の若者を育成・動員し子ども達への啓発活動を行っている。

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エジプト事務所(佐藤企画調査員)

  • ザンビア事務所:⼿洗いソングを通じたルサカ市内の脆弱地域の⼦どもたちへの感染拡大防止活動

【概要】首都ルサカのコンパウンド(未計画居住区)の子どもたち約6,000人に対し、ピコ太郎の手洗いソングPPAP2020を使って子どもたちが楽しく正しく手洗いを実践。

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ザンビア事務所(林企画調査員)(注)ピコ太郎に仮装しています。

6.質疑応答

今後のプラットフォームや手洗い運動に関するご意見・ご質問をはじめとし、水のアクセスが難しい地域での手洗い活動や、社会の中で周辺化されてしまった人々へのアプローチに関するご質問をいただき、ご発表頂いた皆様からご自身の活動や今後の方針についてお答えいただきました。

今後の取組み

JICA健康と命のための手洗い運動では、今後も手洗いに関する情報や活動を発信し、手洗い活動を促進していきます。皆様からの情報や要望がとても大切ですので、ぜひ事務局までお寄せください。

メールアドレス:Handwashing@jica.go.jp