【TICAD8サイドイベント開催報告】開発課題や支援ニーズを重視したアフリカの気候変動対策への取り組み

掲載日:2022.08.23

イベント |

TICAD(アフリカ開発会議、Tokyo International Conference on African Development)は、アフリカの開発をテーマとする国際会議であり、1993年から日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合委員会(AUC)、世界銀行と共同で開催しています。2022年8月27日~28日に第8回アフリカ開発会議(TICAD8)がチュニジアで開催されるのに先立ち、8月23日に気候変動対策をテーマとしたサイドイベントをオンラインで開催しました。

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サイドイベント概要

会議名:「開発課題や支援ニーズを重視したアフリカの気候変動対策への取り組み」
日時:2022年8月23日 17:00~18:30(JST)
形式:オンライン開催
参加者:172名
主催:国際協力機構(JICA)

気温や海水面の上昇、降雨パターンの変化、異常気象の増加など、気候変動と見られる現象は、アフリカ大陸に対しても大きな影響を与え、特に最も脆弱な人々への影響が大きく、食糧安全保障、人口移動、水資源へのストレスの原因になっています。

JICAは、2021年6月にグローバルアジェンダ(気候変動)を策定し、パリ協定の実施促進とコベネフィット型気候変動対策を促進することを柱に設定しています。

本サイドイベントでは、柱の一つである、各開発課題におけるニーズの充足と気候変動対策の推進の双方を両立させて複数の利益を生み出す「コベネフィット型気候変動対策」について、事例を紹介しました。

具体的には、ケニアのREDD+やモニタリングによる、森林保全と持続的な開発を併存させる仕組み作り、エジプトの省エネルギーに関する技術や知識の導入や人材育成、さらにアフリカの乾燥・半乾燥地域(ASAL)での食と栄養改善を紹介しました。

最後に、アフリカ諸国の脱炭素社会への移行や気候変動に強靭な社会づくりに向けて、USAIDやAfDB、JICAなど国際機関が取り組んでいる、効果的なアプローチや将来の支援方法等を発表しました。

開会挨拶

JICA地球環境部岩崎英二部長より、アフリカ地域は気候変動の影響を大きく受け、脆弱な人々が多く適応策のニーズが高いことを紹介すると共に、JICAが多数の分野において継続的にアフリカで行っている気候変動対策を紹介しました。

次いでUSAID ケニア・地域気候変動・レジリエンス・スペシャリストChihenyo Kangara氏は、USAIDが各国政府、民間企業、市民社会、他の国際機関と協力してアフリカで気候プログラムを実行していること、アフリカ各国政府の気候変動に向けた変革を促したい旨を述べました。

ケニアでの森林管理とエジプトでの省エネルギー推進

ケニア国環境・森林保全省 森林保全次官及び国家REDD+ コーディネーター兼フォーカルポイントAlfred Gichu氏は、ケニアでは憲法に掲げた「国土10%を森林で被覆する」という目標に向けて、REDD+(注1)の国家参照レベルの策定やモニタリング体制の構築、実証事業の実施等により、森林保全と持続的な開発を併存させる仕組み作りをJICAの支援を通じて進めたことを発表しました。

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「気候変動への適応のための乾燥地耐性育種」プロジェクトのサイト視察(ケニア国キツイ)

(注1)REDD+:森林減少・森林劣化が予想される途上国において、それを抑制するための活動を実施し排出削減・吸収を達成すれば、その成果である排出削減量・吸収量が活動実施主体の貢献分として評価される仕組みです。評価された排出削減量・吸収量は、排出権のクレジット取引やCSR目的などに活用されることが想定されます。

エジプト電力・再生可能エネルギー省(戦略立案・電力性能フォローアップ・国際協力担当)次官Ahmed Mohina博士は、エジプトの電力の現状を紹介し、国家目標「2035年までに電力供給の42%を再生可能エネルギーとし、エネルギー効率を18%改善」を達成する為に大規模な再生可能エネルギーの導入と省エネルギーの推進に取り組んでいることを発表しました。

坂本康弘氏((株)PADECO)はJICAがエジプトで取り組んでいる「エネルギー利用効率改善能力開発プロジェクト」を紹介しました。4つのカウンターパート(Ministry of Electricity and Renewable Energy:MOERE、Ministry of Petroleum and Mineral Resources:MOP、Industrial Development Authority:IDA、Central Agency for Public Mobilization and Statistics:CAPMAS)と協力し、省エネルギー推進のため、電力、燃料、家庭、産業、データ管理分野において、新たな技術や知識を導入し、人材育成や制度づくりを行っていると発表しました。

アフリカの乾燥・半乾燥地域(ASAL)における持続可能な農業の導入

ケニア公共サービス・ジェンダー・高齢者問題・特別プログラム省乾燥・半乾燥地域(ASAL)開発局戦略プログラム開発部長代理Monicah N. Kinuthia博士は、ASAL地域の80%を占める牧畜民が、長期間にわたる干魃の影響で遊牧生活の維持が難しくなっていることから、牧畜民の食糧と生計の多様性を図り、気候変動へのレジリエンスを高めることの必要を説明しました。

JICA専門家(総括)村上文明氏(日本工営(株))は、「ケニア国乾燥・半乾燥地域における気候変動適応力強化を通じた食と栄養改善プロジェクト(IFNuS)」が行う「農業宿題日記(Agriculture Homework Diary)」について発表。子ども達が学校で菜園を作った後、長期休暇中に自宅の庭で小さな菜園を作り、それを観察して日記を書くことを宿題としたもので、これにより子どもの野菜摂取の増加、親の野菜づくり継続などの効果が見られ、牧畜民への農業の導入と持続の効果が認められたと紹介しました。

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菜園の観察日記を書く牧畜民の子ども達

国際機関による取り組み

USAID ケニア・地域気候変動・レジリエンス・スペシャリストChihenyo Kangara氏は、USAIDが最近発表した「気候戦略(2022-2030)」と「PREPARE=適応&強靱性のプログラム」を紹介しました。USAIDはアフリカ各国の戦略やPriorityを重視していること、適応策の強化等、より気候危機への備えが高まるように協力したい旨を述べました。

アフリカ開発銀行(AfDB)エジプト事務所主任エネルギー担当官Eng. Khaled El-Askari氏は、AfDBの戦略枠組を紹介し、全ての事業が緩和か適応に貢献するよう気候変動対策の主流化に取り組んでいること、気候資金の割合を緩和策と適応策を同規模に配分すること目指していると紹介しました。また、JICAやフランス開発庁(AFD)と協調して、技術支援の調査(例:運輸部門の電力調査、グリーン水素、非効率な電化製品からのフェーズアウトなど)も行っていることを説明しました。

JICA気候変動対策室宮崎明博室長は、気候変動による影響が深刻化し、『気候危機』とも呼ばれている状況のもと、今後は、緩和策・適応策の両面で気候変動対策を幅広く、継続的に推進することの必要性、特にさまざまな開発課題の中で気候変動対策を主流化していくこと、紹介したコベネフィットアプローチが一層重要だと指摘しました。またアフリカは、適応分野のニーズが高い一方で、二酸化炭素吸収源となる広大な熱帯雨林を有するという特徴もあり、その特性を勘案した持続可能な気候変動対策の導入が必要と述べました。

閉会挨拶

エジプト環境庁(EEAA)最高責任者Ali Abou Sena博士は、教育、電力、保健などの分野での協力を日本とエジプトの二国間協定(2016年締結)によってさらに発展させたいと述べました。一方、気候変動は社会インフラ等の開発の成果を覆す可能性があり、気候変動の影響に対する強靱性の構築が必要であると訴えました。また、エジプトは国家気候変動戦略を策定し、この地域における気候変動対策のリーダーとしての役割を果たしたいと決意を述べました。COP27のホスト国として、環境分野で活動する市民活動家を含め、可能な限り多くの人々が参加すること、気候変動に特に脆弱な分野への資金の確保を切望していると述べました。

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登壇者のスクリーンショット