【6月は環境月間】気候変動の影響を最も受ける水問題に取り組む(後編):途上国での対策、そのキーワードは「コベネフィット」!

2021年6月16日

水資源分野の気候変動対策について、JICAの取り組みを紹介するこのシリーズの後編では、具体的にどんなことをしているのか、地球環境部水資源グループ長の松本重行さんが話します。

【画像】

大洋州に浮かぶ島国マーシャルで整備が進むマジュロ貯水池の完成予想図。空港の滑走路に降った雨を貯める巨大な貯水池を建設する

気候変動には「緩和策」と「適応策」の2つのアプローチで取り組む

-気候変動対策には「緩和策」「適応策」という2つのアプローチがあると言われています。どのような取り組みなのでしょうか?

松本●「緩和策」は二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出を減らす、もしくは吸収することを目指す対策です。「適応策」は顕在化している気候変動による被害を回避、もしくは軽減させる対策です。水分野ですと、水道設備のモーターやポンプの電力消費はかなり大きく、そうしたエネルギーを減らすことは緩和策になります。一方、干ばつに備えて貯水池を整備したり、水道管からの漏水を減らしたり、洪水に備えたりするのが適応策です。

- 現在、JICAが進めている水資源分野での「緩和策」「適応策」について教えてください。

松本●最近ですと、ヨルダンの「ザイ給水システム改良計画」が挙げられます。同国は水資源が世界で最も少ない国のひとつで、1985年に建設されたザイ給水システムの老朽化した設備を更新する計画です。故障などによる給水量低下を未然に防ぎ、エネルギー効率化と運転コスト削減を実現することで、首都アンマンへの安定給水と気候変動緩和策に寄与することを目指します。

ヨルダンのザイ給水システムに使用されている巨大なポンプ。これらのポンプを新規更新してエネルギー効率を改善することで、温室効果ガスの排出を削減する

ザイ給水システムは約1,260mもの高低差を揚水するため、その電力量とコストは大きな負担です。この事業による設備更新で電力消費量が減ることにより、CO2換算でおよそ年間697万トンの温室効果ガスの排出削減が見込まれています。日本の一般的世帯の排出量は年間約2.8トンですから、日本の約250万世帯分ものCO2排出量削減が期待できます。

マジュロの既存貯水池。このような貯水池を増設することで干ばつに備える

また、適応策ではマーシャル諸島の「マジュロ環礁貯水池整備計画」が始まります。今後の気候変動による降雨パターンの変化に伴う干ばつに備えるため、新たに容量5.7万㎥の貯水池を建設するもので、もしもの場合の命綱となる貯水池整備です。標準的な25mプールの水量を400㎥とすれば、143杯分弱。これはマジュロに住む約2万8,000人のだいたい19日分の水に相当します。すでに10万㎥の貯水池があり、およそ55日分の量ですから、完成すればトータルで74日分程度まで水の供給が可能になります。

持続可能な開発と気候変動対策、その両立を目指す

- 途上国で気候変動対策を進めていくなかで、どのような課題があるのでしょうか?

松本●持続可能な開発と気候変動対策の両立を図ることです。例えば、化石燃料を代替するための植物由来のバイオ燃料は、気候変動対策として期待されているのですが、その材料となる植物を栽培するには多くの水が必要になるという問題も提起されています。つまり、気候変動対策と水問題への対策がトレードオフになってしまう場面も出てきます。また、水力発電は再生可能エネルギーですが、かといってダムをたくさん作れば良いというわけでもなく、ダム建設に伴う環境や社会への悪影響をどう回避・緩和するかも考えなければなりません。このように、環境や社会への影響も精査しながら、気候変動対策を進めなければならないわけです。

多くの途上国では、貧困の削減、水や食糧の確保、保健医療や教育の向上など、さまざまな課題を抱えています。予算も限られるなか、長期的に影響が出てくるような気候変動への対策が十分に行えない実情があります。

シンガポール国立大学水政策研究所主催の国際セミナーで、JICAの水分野における気候変動対策の協力方針を説明する地球環境部水資源グループ長の松本重行さん

そのため、こうした国々に対しては、気候変動対策と持続的な開発の効果的な両立を目標とする協力を行う必要があります。それが、「コベネフィット型気候変動対策」です。途上国の持続可能な開発の効果と気候変動対策の効果を両立させ、脱炭素への移行と気候変動に対して強靭な社会の実現に貢献することを目指します。水資源に限らず、森林・自然環境保全やエネルギー、運輸交通、治水・防災などの分野でも気候変動対策の要素を組み込み、協力を推進していきます。