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【TICAD30年】アフリカを共に支える国連開発計画(UNDP)のエザコンワ・アフリカ局長に聞く

2024.01.17

TICADを通じ、日本はさまざまな機関と共にアフリカの開発に協力してきました。中でも国連開発計画(UNDP)は、長年にわたり、日本と共にアフリカ開発に協力し、またTICADの共催機関としてプロセスを支えてきました。今回、UNDPアフリカ局長のアフナ・エザコンワ氏に、アフリカが抱える現在の課題やTICADプロセスを通じたこれまでの取り組み、そして今後のアフリカの未来像について聞きました。

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国連開発計画(UNDP)のアフナ・エザコンワ アフリカ局長

アフリカが抱える課題と、未来への可能性を引き出すUNDPの役割

―アフリカが現在、直面している課題について、どのように考えていますか。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、長引くロシアとウクライナの戦争、そして気候変動といった複合的な危機が、アフリカの脆弱性を高めています。アフリカは、世界で最も必要とされる鉱物や天然資源を豊富に持っているにもかかわらず、食料、エネルギー、肥料などの重要な戦略的資源を過度な輸入に依存していることが大きな課題です。アフリカ大陸の人的資源、農業、エネルギー、鉱物や天然資源の豊かさを、自らの持続可能な発展に活かすためには、この状況を変えなくてはいけません。

私たちは今、2030年の持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限まで折り返し地点に立っています。しかし、その目標の15%しか達成の見込みがありません。アフリカがSDGsの目標を達成するには、年間約1.3兆ドルの資金が必要です。現行の世界の金融システムは、アフリカ諸国がSDGsを推進するために投資を引き寄せる上での課題が存在しています。例えばUNDPでは、信用格付け機関によるアフリカ諸国の信用力への評価が、SDGs達成を加速するための投資の障害になることがあると強調しました。

現在、ボツワナとモーリシャスを除くほとんどのアフリカ諸国の信用格付けは投機的(非投資)なレベルに位置しています。しかし、最新の報告書「アフリカにおける借入コストの削減」では、少々主観的な信用格付けのために、アフリカ諸国は280億ドルの余分な利子に加えて、資金調達の損失として460億ドルを失ったと推定されると指摘しています。すなわち、アフリカ諸国は開発のために最大745億ドルを節約できることが述べられています。つまり、開発金融の仕組みの見直しや改革が必要だと考えています。

―課題は山積しているものの、アフリカが持つ可能性をどのように考えていますか。また、UNDPはこの潜在能力を開花させるためにどのような取り組みを行っていますか?

アフリカには大きな3つの可能性があると考えています。

まずアフリカは、世界で最も多く若い人口を抱えています。60%以上が25歳未満であり、2050年までに、世界人口の約25%がアフリカ大陸出身者になると推定されています。アフリカの若年人口は、私たちのグローバルな未来への鍵を握っていると言えます。

そのため、UNDPは若者を開発プログラムの中心に据えています。例えばUNDPは、アフリカ連合委員会との協力のもと「アフリカ若手女性リーダー・フェローシップ・プログラム」を立ち上げ、開発現場の実務経験を通して、アフリカ大陸の発展に貢献する人材育成プログラムなども推進しています。

二つ目に、アフリカは世界で最も豊かな大陸です。世界の耕作可能な農地の約60%を占めています。また、金、コバルト、ダイヤモンド、ウランといった天然資源に富んでいます。アフリカ55カ国のうち約半数が天然ガスを保有し、過去10年間、世界で新たに発見された天然ガスの約40%は、主にセネガル、モーリタニア、モザンビーク、タンザニアに集中しています。

この豊富な天然資源や人的資源は、アフリカが経済成長を果たす上で、重要な役割を持つと考えます。現在、アフリカは世界貿易のわずか2%しか占めていませんが、アフリカの世界貿易占有率が1%増加すると、アフリカ全体に年間約700億ドルの追加収入を生み出すとされます。これは、アフリカが現在世界から受け取る開発援助の合計額の3倍に相当します。

また、2021年に発足したアフリカ自由貿易圏(AfCFTA)は、世界のバリューチェーンにもつながり、アフリカ域内の貿易も活発化し、経済成長を促します。AfCFTAが機能していくことで、2035年までにアフリカ全体の所得が7%増加し、約4,000万人が極度の貧困から抜け出すことができると予想されています。

三つ目に、アフリカは非常に革新的な大陸であるということです。アフリカ開発銀行によれば、アフリカの労働力人口の22%が事業を立ち上げており、これは世界で最も起業の割合が高いとされます。UNDPでは、「timbuktou(トゥンブクトゥ)」という新しいイニシアティブをスタートし、アフリカの起業家への投資を通じて、社会課題解決のためのイノベーティブなビジネスを支援していきます。

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AFRI CONVERSE 2023年第3回「アフリカの若者への投資:新世代のリーダーと専門家の育成」に登壇。参加したアフリカ出身の留学生たちと。

TICADが果たしてきた役割と将来への展望

―TICAD30年を振り返り、UNDPの視点から見たTICADの成果と重要性について教えて下さい。

昨年のG7広島サミットで、日本はアフリカへのコミットメントを示し、アフリカが世界経済に与える影響について認識を示しました。TICADは、アフリカのオーナーシップを重視する継続的なフォーラムであり、持続可能な開発目標(SDGs)を含む多くのグローバルおよび地域の枠組みと連携している点が特徴的です。

また、アフリカへの投資促進や民間セクターの開発、技術移転、組織における能力強化も日本の協力の重要な要素です。先端技術に関する専門知識を始め、グリーン経済や公正なエネルギー転換への支援を促進する日本のグリーン成長イニシアティブのような持続可能な解決策の共有が、引き続きTICADプロセスの鍵となると考えます。

―今後TICADはどのような役割を持つと考えていますか。

TICADの将来を展望するにあたり、TICADが持つユニークな価値を維持することが重要であると考えます。そのために大切なこととして、次の5点を挙げます。

さらに、TICADが未来志向であるために、次世代の若者に働きかけることが必要です。例えば、次世代の若者のスキルの向上、産業人材の育成に向けた職業訓練プログラム、デジタルスキルトレーニングへのアクセスの拡充、若者の起業支援に向けたサポートが必要だと考えています。

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2023年8月に開催された外務省主催のTICAD30周年行事に登壇

TICADを通じたアフリカ開発におけるJICAの付加価値

―JICAのアフリカ開発に対する協力の特徴と付加価値をどのように考えていますか。

JICAはこの30年にわたり、アフリカにとって最も親密な開発協力機関の一つです。 JICAが日本の開発経験を生かし、アフリカで展開してきたさまざまな協力は、アフリカに変革と変容を与えてきました。2022年に開催されたTICAD8で再確認されたように、日本政府とJICAが進めるアフリカ協力は、人への投資を中心に据えています。
中でも現在、アフリカの起業家育成に向けた支援が広がっています。テクノロジーへのアクセス向上が進み、若い世代が既成概念にとらわれず、イノベーションをリードし、アフリカのスタートアップは大きな伸びを見せています。

一方で、アフリカの女性起業家427人を対象にした調査分析によると、そのうち70%が、ビジネスを始める最大の障害として資金調達を挙げています。今後TICADのプラットフォームを活用し、JICAや民間セクターがさらに投資拡大を促進させていくことが期待されます。

JICAとUNDP、これからの協働に向けて

―アフリカ開発において、UNDPは今後、JICAとどのような取り組みをしていきたいと考えていますか。

昨年9月、UNDPのニューヨーク本部にてシュタイナー総裁とJICAの田中理事長が会談しました。その際、UNDPとJICAは、アフリカの開発において民間セクターの関与が不可欠であり、民間資金を呼び込むための政府や人的資本の能力を強化することが重要であるという見解で一致しました。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の推進を通して、UNDPは、“メイド・イン・アフリカ”と“エンタープライズ・アフリカ”をJICAと共に促進する機会を引き出すことができればと思っています。

アフリカは世界で最も若く、人口拡大も続き、フィンテックやクリーンエネルギーといったさまざまな分野でイノベーションが次々に起こっています。JICAが今後、アフリカで起きているこのような変革を共に支えてくれることを期待しています。

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UNDPエザコンワ局長とJICA安藤理事との会談の様子

―アフリカの将来をどのように展望していますか。

アフリカ主導の開発を進めていくには、次の3点が重要と考えています。

第一に、開発援助への依存度の低減です。アフリカ開発に向けた流れを援助から投資へと変えなければなりません。そのためには、アフリカが付加価値の高い産業への投資を引き寄せることができるよう、公平な国際金融および貿易の仕組みづくりが必要です。

第二に、豊富な天然資源を管理する体制の整備です。アフリカの人々がアフリカの資源からより多くの利益を得るように管理能力を強化することが重要です。

第三に、人的資本の開発です。特に健康医療、教育、技術スキルに関連した若者への投資を増やさなければなりません。アフリカは2050年までに現在の人口の2倍にあたる4億6,000万人の若者を抱えることが予想されます。この人口構成の恩恵を受けるためには、教育へのアクセスや質の向上が必要です。また、現在、大陸の人口のうちインターネットにアクセスできるのは43.2%で、世界平均の67.9%を大幅に下回っており、デジタルギャップを埋める必要もあります。

私は、各国が連携し、グローバルな課題を解決していくという「多国間主義」をアフリカが先頭に立って推進していると考えています。「多国間主義」は、発展、繁栄、平和を加速させるために不可欠であり、アフリカのオーナーシップを尊重し、アフリカ主導の開発を後押しするTICADは、今後、アフリカ大陸にさまざまなパートナー機関との共創を生み出す役割も果たしていくことを期待しています。

TIACD30年シリーズ

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