【TICAD30年】アフリカの自立への取り組みを尊重し、時代の変化に合わせた協力を 梁瀬アフリカ部長インタビュー

2023.10.27

TICAD(アフリカ開発会議)が始まって30年を機に、JICAの取り組みを振り返り、アフリカとの未来を展望する【TICAD30年】シリーズ。今回は、JICAアフリカ部梁瀬直樹部長にインタビューしました。JICAはこれまで、TICADでの議論を通じて、人づくり、アフリカのオーナーシップの尊重、日本の経験の活用の3つを柱にして、アフリカが直面する課題やニーズに合わせた協力をしてきました。その歩みとこれからを、「平和と安定」、「民間連携と人材育成」、「アフリカでの広域協力」をキーワードに、梁瀬部長自身の経験も交えながら伺いました。

緒方貞子氏から受け継いだ「人間の安全保障」という考え方こそ、アフリカの平和と安定に向けて不可欠

―TICADの主要テーマの一つが「平和と安定」です。JICAはアフリカの国々の平和と安定に向けて、どのように取り組んできたのでしょうか。

梁瀬:感染症の流行や大規模な自然災害、温暖化による環境破壊、紛争など、国の平和と安定を阻害し、人々の生存に対して深刻な脅威を与える要因は国境を越え、複雑化しています。一つの政府だけでは解決できません。その状況を踏まえ、国家を単位とするのではなく、人間一人一人の命や尊厳を守るというのが「人間の安全保障」という考え方です。

この考えを提唱した一人が緒方貞子氏です。2003年にJICA理事長に就任した際、緒方氏は、人間の安全保障を推進する上で、さまざまな困難を抱えている人々が最も多い地域がアフリカだとし、JICAの事業体制を見直してアフリカ部を創設しました。TICADにおいても、2000年代前半に、人間の安全保障の重要性が認識されるようになり、今日に至ります。

緒方貞子氏がJICA理事長に就任した当時、総務部で緒方氏の推進するアフリカ支援強化に取り組んだと、振り返る梁瀬部長

緒方貞子氏がJICA理事長に就任した当時、総務部で緒方氏の推進するアフリカ支援強化に取り組んだと、振り返る梁瀬部長

―アフリカで人間の安全保障の実現を具体的に進めたJICAの取り組みについて教えて下さい。

梁瀬:まず、人間の安全保障をもとにした取り組みをわかりやすく説明すると、個人やコミュニティ、特に貧しい人々や弱い立場にある人々に焦点を当て、人々の権利や自由を守るために政府の能力向上を図る「上からのアプローチ」と、人々やコミュニティ自身が開発に携わる力を持つことができるようにする「下からのアプローチ」の双方に取り組むこと、と言えます。

その取り組みの一つが、西アフリカにあるシエラレオネの復興・開発協力です。緒方氏が言っていた「fill the gap( 緊急人道支援から復興・開発協力の間に生まれる溝を埋めること)」を意識し、国連平和維持部隊が展開している段階から、JICAは復興・開発協力事業を展開。シエラレオネで紛争が再発しない社会をつくるため、住民から信頼できる地方行政官の能力向上と同時に、住民の自治組織の強化を図りました。住民同士が必要な行政サービスについて話し合い、地方政府に提案し、そのプロセスをJICAが支援。ガーナ事務所に駐在していた私は、近隣国シエラレオネのこの取り組みを担当し、行政と住民が協働した地域社会づくりに向けたこのプロジェクトに、人間の安全保障の実現を垣間見ました。

JICAは現在、アフリカの中でも、特に貧困と紛争に苦しむ人々が多いサヘル地域(サハラ砂漠南端に沿った5000キロにおよぶ半乾燥地帯)で、国際機関などと連携し、紛争が発生・再発しない、安定した社会づくりを進めています。これまでシエラレオネなどで展開してきた、住民を主体として政府に対する住民の信頼を回復し、社会の強靭化を図ったアプローチです。培ってきた知見を活かして、真に必要な協力を丁寧に続けていきます。

内戦で疲弊した地域住民の生活改善や、自治体制度の強化に向けた開発計画について協議する現地スタッフと日本人専門家(中央)photo: JICA/飯塚明夫(2012年撮影)

内戦で疲弊した地域住民の生活改善や、自治体制度の強化に向けた開発計画について協議する現地スタッフと日本人専門家(中央)photo: JICA/飯塚明夫(2012年撮影)

アフリカが求めるビジネス環境の整備を加速させる。人材育成やスタートアップ支援が鍵になる。

―TICADの主要テーマは、現在、貧困削減からアフリカへの投資拡大や民間連携へと移っています。産業分野でのJICAのアフリカでの協力は、時代と共にどのように変遷していったのでしょうか。

梁瀬:2000年代になってアフリカも経済成長を遂げるようになり、多くのアフリカ諸国が「経済成長を通じた貧困削減」を開発目標として掲げるようになりました。JICAは2008年に、日本企業のアフリカなどへの進出を後押ししようと民間連携室を新設し、ガーナ事務所に駐在していた私は、SONYや味の素といった日本企業のアフリカでの活動をサポートしました。ただ、当時はまだ企業の社会貢献活動といった色合いが濃かったように思います。

その後、2016年に初めてアフリカ・ケニアで開催された第6回TICADには、3,000名近い日本の企業関係者も参加し、本格的なビジネス展開として日本企業のアフリカ投資拡大が期待されました。しかし、この頃をピークに、日本企業のアフリカ投資残高は減少に転じているのが実情です。民間投資の拡大に向け、JICAが触媒となってどのような役割を果たせるか、今、大きな課題です。

―アフリカへの民間投資拡大に向けて、今後JICAは、どのような取り組みを考えていますか。

梁瀬:まずは、アフリカと日本のビジネスをつなぐ人材の育成です。なかでも第5回TICADで発表されたABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ:
African Business Education Initiative for Youth)を通じて、JICAは、日本企業のアフリカビジネスをサポートする産業人材の育成を進めています。これまで1,600人以上のアフリカの若者を受け入れ、日本の大学院で学ぶ機会を提供するのみならず、日本企業でのインターンシップをはじめとした日本企業との交流やビジネススキルなどを学ぶ機会を提供しています。日本企業への就職も含め、修了生の多くが日本とアフリカの懸け橋となって活躍しています。

また、ABEイニシアティブの修了生や民間企業関係者も含んだSNS上のグループも立ち上げ、現在1,000名以上が参加しています。修了生と企業とのマッチングを通じて、日本企業のアフリカ進出を後押しできたらと考えています。

ABEイニシアティブ修了生らと。日本企業に就職したいが、高い日本語能力を求められ難しいこともあるとの声を聞き、日本企業側にとっても柔軟な対応が必要と感じたという梁瀬部長(2023年6月、セネガル)

ABEイニシアティブ修了生らと。日本企業に就職したいが、高い日本語能力を求められ難しいこともあるとの声を聞き、日本企業側にとっても柔軟な対応が必要と感じたという梁瀬部長(2023年6月、セネガル)

もう一つは、アフリカのスタートアップ支援です。JICAは2020年から、Project NINJAという現地のスタートアップ育成に向けたプログラムを展開しています。アフリカ19カ国を対象にしたビジネスコンテストでは、特別賞を受賞したガーナのスタートアップが、日本の楽天グループと連携するなどといった動きも生まれています。

協力のスタイルを自動車の運転に例えると、ドライビングシートに座るのはアフリカ自身。日本は助手席からアドバイス

―TICADは、アフリカ主導の開発を後押しするため、アフリカ連合や関連機関との連携を推進しています。そのプロセスの中で、JICAは、どのような協力を進めてきましたか。

梁瀬:2022年10月にアフリカ部長に着任し、アフリカ全体を俯瞰してみるようになると、これまでガーナやモザンビークの現地事務所に駐在していた時にはあまり意識していなかったアフリカ連合をはじめとしたアフリカの地域パートナーとの関係強化の必要性を再認識しました。アフリカ大陸は広く多様で、50を超える国があります。これから人口が増加する中、すべての国が取り残されることなく、等しく発展していかないと、アフリカ社会全体が不安定になりかねません。

アフリカ連合は2013年にアフリカを包括的に成長させるための長期ビジョンとして「アジェンダ2063」を策定しています。その中の一つ、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の創設をサポートするため、貿易の円滑化や道路インフラ整備などをJICAは進めています。アフリカには内陸国も多いため、アフリカが一体的に成長していくためには、各国同士の連結性を強化することが大切です。

このアジェンダ2063の実施機関となるアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)に、現在、JICAは、地域統合やカイゼンなどの分野のほか、長官のアドバイザーとして日本人専門家を数名派遣し、開発目標の達成に向けたサポートをしています。

JICAのアフリカへの協力は、アフリカ自身の考えや自助努力を尊重し、アフリカと一緒に共創していくという姿勢です。自動車の運転に例えると、ドライビングシートに座るのはあくまでアフリカ自身。JICAは、自立を目指すアフリカの人々を支えるために助手席からアドバイスし、時には一緒にその方法を考えます。

梁瀬部長は、アフリカの政治的、経済的連合を目指すアフリカ連合との連携に向けて今後さらに注力していくと語る

梁瀬部長は、アフリカの政治的、経済的連合を目指すアフリカ連合との連携に向けて今後さらに注力していくと語る

―「共に成長するパートナー」であるアフリカとのさらなる関係強化と、2025年に横浜で開催予定の第9回TICADに向けたJICAのチャレンジについて教えて下さい。

梁瀬:今や、アフリカの課題を日本だけで解決するようなことは到底できません。アフリカ連合開発庁は「エナジャイズ・アフリカ(アフリカを元気にする)」という目標のもと、「アジェンダ2063」の達成に向け、特に若年層への教育と雇用に注力しています。今後、DX(デジタルトランスメーション)を活用した効果的な支援に向け、優れたデジタル技術を持つ民間企業との連携も必要です。

また、アフリカ域内の市場拡大などに向けたインフラ開発計画(PIDA)では、年間1300億~1700億ドルの資金が必要とされていますが、その半分近くは調達の見込みが立っていません。今後、TICADでのプロセスを通じて、民間企業を巻き込み、このファイナンスギャップを埋めていくことが課題だと考えています。

今年5月、アフリカ3カ国を訪問しました。コンゴ民主共和国では、JICAの支援で建設された橋の40周年記念行事に参加したのですが、内戦を経て40年経ったとは思えないほど、橋はきちんと整備され、驚きました。当時建設に携わった人々がその技術を若い人に伝え、知見が脈々と受け継がれていました。まさにJICAの人づくりの支援が息づいていました。

アフリカに行くといつも思うのですが、元気をもらえるんです。経済的な豊かさだけでは測れない幸せ、人と人との結びつきの強さや、人を思いやる気持ちに触れ、私たち日本人が忘れてしまった大切なことを思い出します。そしてやっぱり、アフリカは、若い人が多く、活気にあふれています。アフリカを担う若者の未来を明るいものにし、「共に成長するパートナー」としてアフリカと日本が共に元気になれるよう、これからも汗を流していきたいです。

今年6月訪問したコンゴ民主共和国のJICA現地事務所スタッフらと一緒に(中央が梁瀬部長)

今年6月訪問したコンゴ民主共和国のJICA現地事務所スタッフらと一緒に(中央が梁瀬部長)

TICAD30年シリーズ

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