jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

【JICA×JAXA連携10年】深刻化する地球規模課題の解決に向け、共に進む

#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2025.01.31

JICAとJAXAが連携協力協定を締結してから10年。この連携はこれまでどんな成果を生み出し、そして今後、世界が新たに抱える課題の解決に向けて、どのような役割を果たしていくのでしょうか。JICA 田中明彦理事長と JAXA 山川宏理事長が熱く語ります。

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地球科学の知見が、人間の安全保障に基づく国際協力に不可欠

――2014年のJICAとJAXA の連携協力協定の締結によって、衛星データを活用した森林保全、防災や宇宙分野の人材育成などが進んでいます。この10 年の連携を振り返り、その意義と成果について教えて下さい。

田中:JAXAとは協定を締結する前から、JAXAが提供する陸域観測技術衛星「だいち」のデータを活用し、ブラジル・アマゾンでの違法伐採の防止に向けたプロジェクトを行ってきました。そして、さらに国際協力において宇宙の利用が推進されるだろうと考え、2014年に協定を結びました。

JICA の国際協力の根底にあるのは「人間の安全保障」です。人間が欠乏状態に陥ったり、恐怖に怯えたり、尊厳を奪われたりすることがないよう、一人一人の安全が大事というこの人間の安全保障は、当初、内戦や国内混乱といった社会システムの影響で脅かされるという見方が強くありました。しかし、地球全体の生態系などの生命システムの変化や地球の物理システムの変動によっても脅かされることが、日本で言うと東日本大震災、世界的にみても新型コロナウイルス感染症の拡大でよくわかりました。こうした自然界を相手にした人間の安全保障への脅威は一国だけでは対処できません。また、「人と人」だけでなく「自然界と人」とのインタラクション(相互作用)の解明には、地球科学、場合によって宇宙科学の知見がとても重要です。JICAが人間の安全保障を実現するための国際協力において、宇宙科学の研究を進めているJAXAとの連携はとても意義深いです。

山川:JAXAは科学技術的な研究といった側面が強調されがちですが、私たちは、その研究の成果が実際に活用されて初めて意味があると思っています。JICAとの連携協定を通じて、世界のさまざまな国や、そこで暮らす人々と直接つながることができたのは、大きな成果です。具体例を挙げると、衛星データを活用し、違法伐採による森林減少の抑制を図る「JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)」(注)は、世界78カ国で展開され、人々の生活経済に貢献できました。

(注)JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)
JICA-JAXA Forest Early Warning System in the Tropics

田中:JICAのパートナーである多くの国々で、自らの宇宙政策を作り出したい、あるいは自ら宇宙技術を持ち、国の開発を促進したいという声が大きくなる中、JAXAと協力関係が結べたことはとても意義が大きいです。JICA独自で宇宙技術や観測データの解析などを支援するのは難しく、途上国関係者に対する研修をJAXAの筑波宇宙センターで実施できるのは、大変インパクトが強く、有難いです。

山川:将来、自国での宇宙技術開発や利用を担う実務者や研究者を対象とした人材育成事業「宇宙技術活用ネットワーク構想(JJ-NeST)」は、JICAとJAXAが連携して取り組んでおり、今後、10年、20年といった長期的な視野で考えると、極めて大きな意義があります。また、2024年5月には、南米パラグアイの宇宙庁とJICA、JAXAの3者で、パラグアイの宇宙開発への協力に向けた覚書を締結することができました。このように、途上国の宇宙開発に直接貢献できるのは、JICAとの連携があったからこそです。

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パラグアイとの宇宙開発における協力覚書の発表式に参加したJICA田中理事長(右から3番目)とJAXA山川理事長(右から2番目)写真提供:内閣広報室
(2024年5月、パラグアイ)

大きく変化する世界情勢の中、新たな共創を図っていく

――この 10 年で、国際協力と宇宙を取り巻く環境が大きく変化する中、現在、直面している課題について、どのように取り組んでいくべきとお考えでしょうか。

田中:人間の安全保障の観点からみると、今の世界は10年前と比べて大変深刻なチャレンジに直面しています。温室効果ガスをどのように削減していくか、また、世界各地で起こる自然災害、とりわけ気候変動に由来する極端な気象事象から人間をどう守っていくかなど、国際社会全体が協力して立ち向かっていかなければいけません。もちろん、10年前にも認識されていましたが、状況はますます深刻化しており、だいち4号の衛星データなど、進歩した科学技術の利用が一層必要になっています。

山川:気候変動について、JAXAは2009年に世界で初めて温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」を打ち上げ、それ以降、宇宙から温室効果ガスの観測を継続しています。そのような観測データをJICAの取り組みなどで活用してもらい、最終的に国連などの政策につながっていくと嬉しいです。

また、災害がこの10年で本当に激甚化し、もう待ったなしの状況であることは世界中が承知しており、これは決して一国では対応できません。そのような点で、例えば、JAXAが事務局を務めるアジア・太平洋地域宇宙機関会議(ARPSAF)の活動の一つであるセンチネルアジアという協力枠組みがあります。ある地域で災害が発生した場合、域内各国・地域の地球観測衛星を活用し、いち早く観測データを提供できる仕組みで、まさしく国際協力が大きな効果を発揮します。

田中:開発途上国では宇宙に関するスタートアップを立ち上げたいという声が、この頃本当に増えています。JAXAや民間企業が提供している衛星データを創造的に使って、それぞれの国に適した事業をすることを、JICAは応援していかなくてはと思っています。

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宇宙分野での中小企業・SDGsビジネス支援事業を通じた民間連携や、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の活用にも注力していきたいと述べるJICA田中理事長

山川:宇宙関連のスタートアップ企業は、日本国内だけでも100社以上を数えます。世界各国でも増えており、JAXAが他国の宇宙機関や政府と話をするときも、多様なプレーヤーとどのような関係を構築していくかを考える必要があります。また、技術革新に伴い、宇宙を使って国の開発を進めていこうという宇宙新興国が増える一方、国際的な緊張が強まる中、同志国そしてそれ以外の国々とどのような連携が必要なのか、課題というよりも挑戦していかなくてはいけないという気持ちです。

田中:国の安全保障に関係する問題については、どの国とも同じように協力する形は取りにくいと思います。他方、人類が直面する地球規模課題に対しては政治的対立などがあっても場合によっては協力していくことがよいケースもあります。冷戦時代にも米ソは宇宙分野では協力していました。科学技術の発展には競争と協力という側面があるため、バランスを考えながら協力できるスペースを残しておくことが重要ではないでしょうか。

地球規模の開発課題に向けて、信頼に基づく持続可能な宇宙開発を

――JICAとJAXAの連携において、今後の取り組みや未来像についてお考えを教えて下さい。

山川:宇宙は「使ってなんぼ」です。今、農林水産業の振興に向けて衛星データを活用する動きが進んでいますが、そのように一見、遠いようにみえる宇宙と地上をつなげていきたいという思いがあります。開発途上国との強くて深いネットワークを持ち、開発現場からの声をアウトリーチするJICAの取り組みを見習いたいです。

国際協力は、先ほどお話があった通り、競争(コンペティション)と協力(コーポレーション) のバランスがとても重要ですが、やはりお互いの信頼関係から始まるものですし、それは永遠に変わらない事実だと考えています。JICAが多くの国と構築しているような信頼関係をJAXAとしてもさらに強めていきたいと、今日、再確認しました。最近の国際情勢では、先ほどお話したアジア太平洋地域のARPSAFのように、地域に開かれた宇宙開発フォーラムの設立の動きが、南米や中東をはじめアフリカでも始まっています。これからは結束を強める地域とどのように連携していくかも大きな課題になるでしょう。

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JAXA山川理事長は、持続可能な宇宙開発に向けて最も大切にしているのは「相互信頼」だと強調します

田中:山川理事長がおっしゃったように、地域ごとにいろいろな交流が広がっていく傾向が顕著になり、ますます強まる中、宇宙分野に限らず、日本のような世界中を相手にして生きている国にとって、各地域の同様な機関同士の結びつきの中に、しっかりと信頼の足場を築き、地域の流れを見据えていくことが重要と考えます。また、これから先の10年に目を向けると、国際社会の中の大きな課題の一つにSDGsの達成が難しくなっていることがあります。2030年はSDGsの達成目標年ですが、達成できない国が数多く出てしまうというのが、残念な今の趨勢です。ただ2030年で世界が終わるわけではないので、その先を考えてさらに進めていかなくてはいけない。次の目標形成に日本も積極的に関わっていかなくてはいけない中、宇宙分野とSDGsの関連性にも目を向けていかなくてはと思っています。

山川: JAXAにはSDGs担当理事がいて、SDGsのかなりの項目が宇宙とつながりがあります。その点でもJICAともっと連携できるのではないでしょうか。JAXAは現在、8つの地球観測衛星を運用しています。その観測データを活用して、気候変動、森林保全をはじめ、海洋や大気、さらにそれぞれの国に特化した取り組みにも貢献できると考えています。

実はSDGsの17のゴールの中で宇宙はカバーされていません。今、宇宙には人類が1957年以来、打ち上げてきたものの残物、つまり宇宙ごみが数万個あり、宇宙活動のサステナビリティに大きな影響を与えています。そのような問題の解決に向けては、多くの機関や企業が参入できるようルールを明確にしていく必要があります。宇宙空間での活動は一国ではどうにもならない。各国が連携しないと意味がないので、これも宇宙における国際協力のこれからの大きな取り組みの一つです。

田中: JICAとJAXAで、SDGsの分野でさらにどのような協力ができるか、そしてSDGsを超えた目標のあり方についても、一緒に考えていけたら有難いです。JICAは「信頼で世界をつなぐ」ことをビジョンとして掲げています。これから開発途上国でも宇宙技術の専門家が増え、そんなパートナーと共にさまざまな地球規模の課題解決に向け、宇宙科学の真理探究に日本が貢献していくためにも、JAXAと協力して進めていければと考えています。

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