寄り添いながら現場で一緒に汗をかく。都市開発は未来をつくる仕事【国際課題に挑むひと・8】

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2024.05.10

《JICAの国際協力活動には、JICA内外のさまざまな分野の専門家が、熱い想いを持って取り組んでいます。そんな人々のストーリーに着目し、これまでの歩みや未来に向けた想いについて掘り下げる「国際課題に挑むひと」。第8回は、都市開発分野における女性の若手リーダーとして期待される日本工営株式会社の菱田のぞみさんにお話をうかがいました》

菱田のぞみさん(中央)

各国のプロジェクトで幅広く活躍する日本工営のコンサルタント、菱田のぞみさん(中央)。写真はバングラデシュでのプロジェクト担当時のもの。プロジェクトに関わる先方政府関係者と共に

都市開発分野の若手リーダーとして

「未来のためにいい街をつくろう、いい国をつくろうと奮闘する途上国のパートナーの気持ちに、どれだけ同じ気持ちで寄り添えるか。目の前の課題を解決していくのと同時に、彼らと同じ目線で、その国の10年後、20年後に必要なものは何かをいつも考えています」

こう語るのは、途上国の都市開発に携わる日本工営株式会社の菱田のぞみさん。

途上国では今、経済発展にともなって都市人口が急速に増加しており、それに伴い多くの都市問題が顕在化しています。例えば、鉄道などの交通インフラが整うよりも早く自動車が普及したことで、慢性的かつ深刻な交通渋滞や、そこから発生する大気汚染などが、人々の生活を脅かしています。

こうした状況の中で、インフラ整備をはじめとする都市開発は、SDGs(持続可能な開発目標)のひとつにも掲げられる重要な課題となっているのです(目標11・住み続けられるまちづくりを)。

菱田さんは現在、バングラデシュの首都ダッカでJICAが進めている、大量高速輸送システム(MRT)沿線の公共交通指向型開発(TOD)に向けた政策策定の支援プロジェクトに、チームリーダーとして携わっています。

TODとは、車移動が中心のまちづくりから、鉄道やバスといった公共交通機関の利用を前提とした都市への変化を目指す開発です。ダッカのプロジェクトでは、駅周辺の交通と土地利用について、まず試験的に開発を進める駅を定め、情報収集や検討、相手国側との協議を行いながら、計画の実現に向けて、バングラデシュの各政府機関と共に活動しています。

バングラデシュTODプロジェクト

バングラデシュTODプロジェクトでは行政機関とのワーキング会議を運営(右列奥から3番目が菱田さん)

現在ダッカでは日本の支援でバングラデシュ初の都市鉄道が開通、また他の路線も建設中です。日本工営はこの鉄道建設事業にも関わっていますが、菱田さん自身は開発コンサルタントとして、鉄道を利用しやすい都市づくりの実現のため、駅周辺の開発計画の作成や制度構築といった都市計画制度面を担い、各種専門家約20人のコンサルタントチームの舵取りをしています。

「バングラデシュにはTODという概念自体がまだ浸透していなかったので、その有用性を政府機関に説明するところから始まりました。まちづくりは関わる機関や関係者が非常に多い分野です。鉄道、バス、自治体……皆さんの協力がないと計画を作ることもできません。そのため、組織間の調整や意思決定の仕組みをつくることも、今のわたしの重要な仕事です」(菱田さん)

さまざまな人との交流が原動力に

「専門性を持って問題解決に関われるような仕事に就きたい」という思いから進んだ大学院在籍中に、研究の一環で訪れたベトナムでの経験が、今の菱田さんを形づくったと言います。

「ベトナムには2年で延べ6か月ほど滞在し、ダナン市、ダナン工科大学、NPOとの活動に参加しました。海外ならではの苦労もありましたが、それ以上に、ベトナムの関係者の皆さんに大変親切にしていただいたことが印象に残っています。

『私のことはベトナムのお父さんだと思ってくれていいよ』と仰ってくれた、活動フィールドの地元小学校の校長先生からいただいた大理石の熱帯魚の置物は、今でも大事に持っています」

大学院時代にベトナムで学んだ

大学院時代にベトナムで学んだことが、今も活きていると話す(左から4番目が菱田さん)

卒業後、総合建設コンサルタント会社である日本工営に入社。国内案件に従事した後、みずから希望して海外事業部へと異動し、バンコク駐在も6年目を迎えました。南アジア、中南米のJICA業務だけでなく、東南アジア地域における民間事業推進にも携わり、多忙な日々を送っているそうです。

「国際協力の仕事は頻繁な海外出張や現地赴任が前提となってくるので、正直、ハードな仕事の部類に入るかと。それでも、この業界に携わっている人は、わたしも含め、海外のさまざまな人たちと一緒に働く楽しさを実感しながら、この仕事が好きという気持ちを持っているのだと思います」

相手国と自国を繋ぐ意識を持って

菱田さんはJICA事業だけでなく、民間クライアントからの案件にも携わっています。その際、民間クライアントの仕事では「グローバル」な視点でクライアントの課題解決に取り組み、JICAの国際協力事業では「インターナショナル」な視点で取り組むことを、特に意識していると話します。

「JICAの国際協力事業の場合、国をつくる行政官がパートナーですから、『その国にとって何が最善なのか』を考え、目の前の課題に向き合います。その際に、コンサルタントとしてより質の高い仕事や成果を追及すると同時に、日本と相手国の国際関係も意識しつつ、事業を通じて日本に対して好印象を持ってもらえたら、と願う気持ちもあります。

だからこそ、そこで必要なのは、やはり相手に『寄り添う』という意識だと思っています。特に、相手国と自国、双方に貢献するという気持ちを強く持って取り組むようにしています」

パナマでのTODプロジェクト

パナマでのTODプロジェクトでは中南米のグループ会社メンバーと調査チームを形成(右から2番目が菱田さん)

どんな案件でも、カウンターパートとの信頼関係の構築は必要不可欠、と菱田さんは繰り返します。制度構築は目に見えない分、インフラ建設よりもわかりづらい。だからこそ、最初はバラバラだった関係者同士の理解や協力関係が深まったと実感できたときが、まさに仕事のやりがいにつながっていると言います。

「コンサルタントチームに関しては、私は業務主任としては若手でまだまだ勉強中です。ですので、チームリーダーとして俯瞰的に判断をして方針は示しながらも、シニアやローカルエキスパートを含めたチームメンバーの意見をよく聞き、彼らの知見を最大限引き出すことを心掛けています。だからメンバーには、遠慮せずにどんどん提案してもらえるような環境づくりをしていこうと思っています」

自国を好きになってもらうことが平和につながる

国籍や立場も関係なく、チームとして対等に仕事しやすい場を作るために、菱田さんは以前から「意識的にオープンマインド」でいることを心掛けているそうです。

「初めて一緒に仕事をするときって、誰もが、恐る恐る近づいていくと思うんです。そんなときは、相手に対して変な壁を作らないように、まず自分から壁を取っ払う。嫌なことは起こらないと信じるんです。

異なる文化圏、異なる考え方を持つ人たちとお互いへの理解を少しずつ深めていくプロセスは、本当に面白いものです。だから、まずは自分から始めてみよう、と後輩たちには伝えています」

国際協力の仕事のなかでも、現場の仕事がしたかったからコンサルタントの仕事を選んだと話す菱田さん。

「直接的に相手国の発展に貢献することが、お互いへの信頼につながり、自国にいい印象を持ってもらえたり、もっと単純に言うと、好きになってもらえることにつながったりもすると思うんです。結局、そういったことの積み重ねが平和につながっていくと思っています」

いろいろな国のさまざまなバックグラウンドを持つ人々と一緒に働くのが心底楽しい、と語る菱田さん。「携わった案件が世界中にあり、それぞれに仕事仲間がいる、今日もみんなそれぞれの国で頑張っている、だから私もがんばろうと思える。なんだか、そんな気がしています」。好きのパワーを武器に、頼れるリーダーとして、さらなる飛躍を誓います。


菱田のぞみ(ひしだ・のぞみ)
日本工営株式会社のコンサルタント。2008年入社。国内の都市政策、危機管理計画等の業務に従事した後、政策研究大学大学院(GRIPS)開発政策プログラムへの派遣を経て、開発計画部に。主に東南アジアにおける官庁、JICA、現地政府、民間企業等の都市計画・開発、特に公共交通指向型開発(TOD)の推進に係る検討業務に携わる。2018年よりバンコク駐在。現在は、JICAがバングラデシュ、パナマ等で進めるTOD推進のための調査および技術協力プロジェクトに業務主任として従事中。

日本工営株式会社
総合建設・開発コンサルタント会社。1946年の創業以来、日本の建設コンサルティングのリーディングカンパニーとして社会基盤の整備を事業として社会課題解決に携わり、国内および160以上の国・地域において国づくり・人づくりの根幹に関わるサステナブルなビジネスを展開している。

PARTNER 国際キャリア総合情報サイト (jica.go.jp)
多様な国際協力アクターの求人、イベント情報を掲載しています。

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