「好き」が専門性をつくっていく。興味を掘り下げた先に見えてくるキャリアの本質【国際課題に挑むひと・特別編】

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs
#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2024.05.27

《JICAの国際協力活動には、JICA内外のさまざまな分野の専門家が、熱い想いを持って取り組んでいます。そんな人々のストーリーに着目し、これまでの歩みや未来に向けた想いについて掘り下げる「国際課題に挑むひと」。今回は特別編として、運輸交通と保健医療という異なる分野で活躍する2人に、キャリアの原点や岐路について聞きました》

「好き」が専門性をつくっていく。興味を掘り下げた先に見えてくるキャリアの本質

左から、お話を伺った庄子真由美さん(株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル 軌道交通事業部・課長)と、松尾英憲さん(JICA人間開発部・専門嘱託)。ファシリテーターのJICA人事部 開発協力人材室・宮川朋子副室長

趣味の「音楽」が世界への扉を開くきっかけに

JICA 人事部・宮川朋子副室長(以下、宮川) 庄子さんは民間コンサルタントの土木エンジニアとして運輸交通分野で、松尾さんはJICAの専門嘱託として保健医療分野で活躍されています。異なる分野、異なる立ち位置から国際協力に関わるお二人ですが、どのようなきっかけで国際協力業界に興味を持たれたのでしょうか?

庄子真由美さん(以下、庄子) 成人式の会場で配布されていたJICA海外協力隊のチラシを見たことがきっかけです。大学で学んでいた土木分野の募集は流石に無いだろうと思ったのですが、募集要項を確認したところ土木設計という職種を見つけて感動しました。ただ実務経験が必要だったので、経験を積むためにまずは建設コンサルタントに就職しました。当時軽音部に所属し洋楽に興味があったこともあり、漠然と海外に憧れがあり、将来海外で自分の専門性を活かして仕事ができないかと考えていた時でもありました。大学生時代にイギリスに短期留学して初めて日本を外から見る経験をし、価値観が広がったと同時に知識や語学力も含め自分の力不足にショックを受けたことも原点になっていると思います。

庄子 真由美(しょうじ・まゆみ)
大学(工学部土木工学科)卒業後、建設コンサルタント、JICA海外協力隊(ウガンダ・土木設計)、JICA国内協力員、アフリカ部(特別嘱託)、海外長期研修(イギリスで土木工学修士号取得)、復興庁、JICA企画調査員(ミャンマー)などを経て、2019年から開発コンサルタントの株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル。常駐の土木エンジニアとしてミャンマーやフィリピンの大型鉄道プロジェクト(有償資金協力)の施工監理を担う。現在はフィリピン・マニラに母子赴任し、南北通勤鉄道延伸事業の南工区施工管理に従事


松尾英憲さん(以下、松尾) 大学卒業後、病院で3年間作業療法士として勤務していました。高校生の時からウッドベースを弾いており、リハビリの一手段として音楽を活用できるのではと目指した仕事です。その後、キューバ音楽のバンド活動のためにキューバに行くときに、NPO法人「飛んでけ!車いす」の会の車いすを現地に運ぶ手伝いをし、「こんな道もあるのだな」と国際協力に興味を持ちました。マクロ的な視点で社会の健康を考えたいと思っていたこともあり、経験を積むために思い切ってJICA海外協力隊に応募しました。

松尾 英憲(まつお・ひでのり) 
大学卒業後、作業療法士として民間病院に勤務。その後JICA海外協力隊(ニジェール、マラウイ・公衆衛生)、フランス留学(公衆衛生学修士号取得)、開発コンサルタントを経て、2019年からJICA人間開発部保健グループ保健第三チームの専門嘱託。カンボジアにおける保健医療分野の技術協力プロジェクトの形成・実施管理、母子手帳の電子化などデジタルヘルス導入を通じた DX 推進などを進めている

絶対的味方になって信頼感を築く/自律性や主体性を引き出す

宮川 JICA海外協力隊経験に加え、「音楽が好き」という意外な共通点がありました。趣味への情熱もきっかけの一つになるのですね。国際協力の仕事のやりがいと特有の難しさはどんなところで感じましたか?

庄子 途上国での仕事は、「苦労もあるけれど、その分、やりがいもものすごく大きい」と感じています。日本の常識が当たり前でないなかで、苦労を乗り越えたときの達成感は先進国の業務では味わえないものです。インフラ整備の仕事では、本体工事に入る前に相手国政府負担で行う用地の取得を進めなくてはならないのですが、施主による用地買収、移転作業などの面で時間がかかることも多いです。相手国の文化や習慣を尊重しながら、円滑に実施できるように親身になり共に考え知恵を出して解決につなげ、信頼関係を築いていく。常に「相手国政府の絶対的味方であろう」ということを意識しています。

松尾 病気の予防などは成果が見えにくい分野ではありますが、携わったプロジェクトがきっかけとなり、国の保健のシステム自体を変えることや、医療へのアクセスが改善され、現地の生活を具体的に変えることになったのは非常に嬉しいことでした。作業療法士をはじめ、私がこれまで経験してきた仕事に通じているのは、自分自身が前に出るよりも、相手の自律性や主体性を引き出すことなんです。それは国際協力におけるアプローチでも一貫しています。

庄子 国際協力業界特有の難しさといえば、案件ごとに有期の契約をつないでいくのでキャリアの岐路が他業種に比べて多いことかもしれません。インターネットの普及前はFAX機能を活用したり、JICA広尾(当時)の帰国隊員支援の掲示板から求人情報を収集していましたが、PARTNER*の開設後は情報の取得が容易になり大変お世話になりました。PARTNER主催のキャリア相談会に参加したこともありました。

宮川 ご利用いただいていたのですね、ありがとうございます。国際協力業界でキャリアを築くうえで、自分自身の適性はどのように見極められてきましたか?

宮川 朋子(みやがわ・ともこ)
1992年にJICA入団(当時)。林業や省エネルギーの技術協力プロジェクト担当や評価部、国際協力人材部、マレーシア事務所などを経て、2020年から人事部開発協力人材室副室長。能力強化研修やJICAが運営する国際協力のキャリア情報サイト「PARTNER」の運営などを担う


庄子 現場型とマネジメント型で言いますと、私はちょうどキャリアの半分ずつで経験しています。マネジメントではJICA地域部の嘱託で案件形成、在外事務所で事業管理などをしていました。専門性に加えて分野横断的に調整することや、折衝やロジ作業などマルチタスクも楽しく仕事させていただき、自分に向いていると感じました。現在の現場型の仕事に落ち着いたのは、ライフイベントが大きく影響しています。出産後2歳までは子どもを日本に置いてアフリカに出張することもあり、心が折れそうになりました。3歳を前にミャンマーに子どもを連れて母子赴任をし、海外での子育てと仕事の両立が私たち親子には合っていると気付きました。それからは子どもと絶対離れないと決め、会社員としての定職を選択し、海外に在住する現場型へシフトしました。現在は1つのプロジェクトに長期的に集中し、より専門性が問われる現場型にやりがいを感じ、またまたそれが今の自分のライフスタイルに合うと思っています。

現職でフィリピンの鉄道の軌道工事に関して、フィリピン政府運輸省やフィリピン国鉄の担当者らと現場に立ち合い、計画の詳細を説明する庄子さん


松尾 私の場合、開発コンサルタント企業に勤務していたときは、1年に合計半年間、1回2、3か月単位での出張がありました。子どもが産まれ、そんな生活を見直したいと思い、現在のJICAのマネジメント(案件管理)のポストを選択しました。適性というより、自分自身のライフスタイルに合わせて選択してきたというのが正直なところです。私も現場型とマネジメント型の両方を経験していますので、現地での相手国政府とのやりとりや日本での契約管理の仕方など、どちらの立場もわかります。それが今の仕事にも生きている。決め打ちするのではなく、両方経験してみてから適性を判断していくほうがいいのではと思います。

「好きだからやる」に勝るものなし

宮川 「子どもの誕生」というライフイベントで、逆の選択になっているのが興味深いです。経験豊富なお二人ですが、これまでにやっておけばよかったと思うことはありますか?

庄子 子育てと仕事の両立に悩んでいた頃、PARTNERのキャリア相談に行ったときに、相談員の方から「子どもが小さいうちは日本をベースに仕事をしてみて、その間に技術士補の取得、余力があれば外国語をもう一つ増やしては」とアドバイスされました。日本ベースの仕事になることで今後のキャリアに対して不安な気持ちもありましたが、技術士補を無事取得し、子どもが2歳9か月の時にJICA企画調査員としてミャンマーへ赴任することにつながりました。その後技術士の資格も得ることができましたが、唯一心残りなのは言語を増やせなかったことです。

松尾 今もフランス語のレッスンを週1回受けていますが、英語に関してもまだ苦手意識があり、若いときからしっかり勉強しておけばよかったと思います。語学に限らず、挑戦して、たとえ失敗しても失うものはありませんから、チャレンジをし続けることが重要だと感じます。

宮川 若い人ほど、「専門性」を持たなければと焦っているように見受けられます。これから国際協力に携わりたいと思う人へアドバイスをお願いします。

庄子 大学(土木工学科)での道路の路線計画の演習で、等高線が書かれた図面に示されている始点と終点を直線と曲線の計算でつないでいくという実習がありました。計算のみできれいに線がつながり、二次元の図面を見ながら、三次元の道路構造を頭の中で再現できた時に、衝撃が走ったのです。これが私がやりたいことだと。このときの感動がここまで私を運んでくれていると言ってもいいかもしれません。専門というとちょっと緊張するけれど、興味があるものや面白そうと思うことから始めてみると、気持ちも楽だと思います。

松尾 社会課題解決をするために、何か専門性を持たないといけないと思ってしまうと辛いと思います。まずは自分の「好き」や「関心」を大事にすること。やらねばと思ってやっている人と好きだからやっている人がいますが、後者には絶対かなわないんです。私の場合、休みの日に書店へ行くと、リハビリや公衆衛生、DXなどの分野を必ずチェックしてしまいます。自分が無理せず自然体で関心を持ち続けられるものが、専門性につながるのではないでしょうか。

JICA海外協力隊時代の松尾さん。公衆衛生の分野でニジェール、そしてマラウイに派遣され「世界への道がひらけた」という

宮川 最後に、今後どのようなキャリアを目指していきたいかお聞かせください。

庄子 一緒に仕事をしているコンサルタントの方は60代、70代のベテランの方々も多いです。今は前線でさまざまな困難を乗り越えて経験を積み、私も彼らの年齢になったときにその経験をいかして説得力のあるエンジニアになっていたいと思います。

松尾 これまで日本が評価されてきた母子手帳の取り組みなどの強みを活かしながら、他の国と日本が共に支え合う取り組みを始めたり、その議論をリードできるような存在になっていきたいと思っています。

宮川 お二人とも自己研鑽を重ねながら、日々の業務に前向きに取り組まれていらっしゃいますね。国際協力にはいろいろな関わり方がありますが、自分の経験を活かし、その価値を存分に発揮できる場所を見つけることの大切さを、改めて感じました。

*PARTNER 国際キャリア総合情報サイト (jica.go.jp)
多様な国際協力アクターの求人、イベント情報を掲載しています。

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