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【ODA70年・4】多様なパートナーとの「共創」で切り拓く、国際協力の未来

2024.07.02

多様なパートナーとの「共創」こそ、これからの国際協力の鍵になる——。ODA70周年を機に開催された「国際協力ミライ会議」*1では、参加者の誰もがそんな思いを抱きました。パネルディスカッションでモデレーターを務めたJICA竹田幸子広報部長に、この会議を通じて感じた未来の国際協力の可能性、そしてJICAが果たす役割について聞きました。

*1 国際協力ミライ会議(2024年5月15日開催、JICA・外務省主催)
国際協力70周年「国際協力ミライ会議」 | ニュース・メディア - JICA

JICA竹田幸子部長

JICA広報部長の竹田幸子さん(所属は取材当時)

未来を担う人材と「ミライ」の国際協力を考える

――今回の会議名にある「ミライ」という言葉には、どのような思いが込められているのでしょうか。

竹田 さまざまな分野で国際協力に携わる人々が、これからの国際協力がどうあるべきか、率直に議論して、共通の目線を持てる機会になればと、この会議の準備を進めました。その過程で「未来の国際協力の主人公は誰なのか」と考えた時、やはり次世代を担う若い人たちにも参加してもらおうとなったのです。そこで会議名にも「ミライ」という言葉を入れました。

JICAが実施している国際協力中学生・高校生エッセイコンテストの受賞者や、JICA職員やOB・OGが講座などを担当している大学の学生さんに声を掛けると、高校生も含めて約60名の学生さんたちが参加してくれました。これは参加者の4割近くに上ります。

ディスカッション後のレセプションでは、学生さんたちが国際協力への携わり方について、会議に参加した国会議員、外務省やJICA職員、そしてJICA理事長に直接質問する姿も見られ、より関心を深めてもらう機会になったのではないかと思います。国際協力に興味を持ち、携わっていきたいと考える、まさしく未来を担う人材と共に「ミライ」の国際協力を考える場になりました。

ミライ会議の会場風景

2024年5月に東京で開催された「国際協力ミライ会議」。学生のほか、国際協力の実務者、パートナー国の駐日大使、政界、経済界、学術界などから総勢160名ほどが参加

小渕優子議員

JICA議員連盟会長を務める小渕優子衆議院議員からのご挨拶。他にも参加された多くの国会議員より激励を受けた

持続的な共創に向け、双方向にベネフィシャルな関係が必要

――「共創を通じたこれからの開発協力」をテーマとするパネルディスカッションには、地方自治体、海外協力隊出身者、NPO代表、そして駐日大使などさまざまな形で国際協力に携わる方々が参加しました。ご自身にとってはどのような気付きがあったでしょうか。

竹田 参加者の皆さんが共通して語っていたのが、国際協力は「持続的でかつ、レジリエントである(困難な状況を乗り越えられる耐性を有する)べき」ということです。そのためには、パネルディスカッションに参加したリーナ・アンナーブ駐日ヨルダン大使がおっしゃっていたように、共創する国際協力の担い手と受け手の「双方にとってベネフィシャル(有益)な関係」を構築すること。そうでなければ、持続的なパートナーシップを築くことができません。

JICAはこれまでも活動の持続性を確保するため、協力に携わる人材の育成に注力してきました。これからは民間セクターを含め、多様なパートナーとのさらなる共創を目指し、参画を促していく中で、どんなベネフィットがあるか、互いにきちんと考え、説明していく必要があると、あらためて認識しました。

今回のディスカッションのように、「共創」をテーマに多様な立場の方と一堂に会して話す機会はこれまであまりなかったと思います。その点で、さまざまな発言から新たな示唆を得ることができました。

JICA竹田広報部長

――ディスカッションの中で、とりわけ印象に残った発言について教えて下さい。

竹田 途上国において社会的投資を行うNPO代表の功能聡子さんは、社会課題をビジネスで解決していこうとする起業家の挑戦に、投資という形で参加することで、新たな社会を共につくっていくという関係性が生まれるという考え方を示し、それは「新しい文化と言えるのではないか」と語りました。これには相当なマインドシフトが必要だと思いますが、そのような文化の創造に向けた機運を起こしていく必要があると感じました。

また、日本発祥の「置き薬」の制度をアフリカで展開する事業を起業した町井恵理さんは、JICA海外協力隊員としてニジェールで活動した経験から、病人に薬代を渡すという一過性の支援ではなく、「継続的に回せるシステムが必要」という発想で、この事業を始めたと言います。まさしく「持続性」という観点に着目しているのです。協力隊経験者の中には町井さんのように、途上国での知見を生かし、国内外での社会課題の解決に向け、起業する動きが生まれています。これに対し、JICAも新たな支援制度「JICA BLUE」を立ち上げて応援しています。*2

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは、各登壇者がさまざまな共創のあり方や可能性を提起

――多様なパートナーとの共創を通じた開発協力をさらに進めていく上で、現在どのような課題があるとお考えですか。

竹田 やはり、いかに資金動員するかです。ODA予算が限られている中、より幅広い民間企業が国際協力に参画できる制度設計を進めていく必要があります。今回の会議に向けた打合せで、アンナーブ駐日ヨルダン大使は実業家としての経験も踏まえ、「初期段階から積極的に民間セクターを巻き込んで進めるべき」と指摘しました。そしてそのためには、対話を通じて企業に、新たな市場の獲得、ブランドイメージの向上、技術革新、持続可能な成長といった国際協力への参画の有益性を伝え、インセンティブを提供する仕組みづくりが必要との見方を示しました。また、世界の開発協力機関が民間セクターの持つ資源、専門知識、ネットワークと適切に連携することで、プロジェクトはより大きなインパクトや拡張性、持続可能性の向上につながることも強調されました。JICAが民間企業向けに提供しているSDGsビジネス支援調査*3もその一つですが、さまざまな資金が国際協力に集まるような仕組みを作ることで、さらに多様なパートナーが共創に参加できるようになり、革新的な事業の推進に貢献できると思います。

*3 途上国の課題解決に貢献し得る技術・製品・ノウハウなどを活用したビジネスアイデアやODA事業でのこれらの活用可能性を検討し、ビジネスモデルを策定するために行う途上国での調査

さまざまな共創への参画を促すJICAの役割

――共創を通じた国際協力をさらに強化するため、JICA自身の役割については、どのように考えていますか。

竹田 国際協力に向けた社会的な関心は、以前より高まりつつあると思いますが、それを実行に移す仕組みが十分ではありません。そのためには、やはり国際協力に関心を持つさまざまな立場の人たちが対話し、参画の仕方を互いに提案し合ったり、意見交換できる場が大事です。JICAが「触媒」となり、コミュニケーションを取り持つ役割を果たすことが、これまで以上に求められていると考えます。

ディスカッションで岩手県遠野市の多田一彦市長は、JICAとの出会いから、産業の国際化推進や多文化共生といった新しい取り組みやアイデアが生まれ、Win-Winの関係ができたことこそ、共創そのものだと述べました。「アジアに遠野市の窓やドアを作ろうと考えています」と、途上国と地域をつなぐ取り組みに挑む中、国内外のネットワークを持つJICAの触媒としての役割に大きな期待を示しました。

遠野市では、東日本大震災以降、多くの元海外協力隊が地域づくりに参加しています。最近では、派遣前の協力隊員が遠野市で研修を受ける「グローカルプログラム」も始まっています。また、これまで200名以上の途上国からのJICA研修員を受け入れるなど、地域活性化に向けた一つの施策として国際社会への貢献を掲げています。

遠野市でのグローカルプログラムの様子

遠野市などの自治体とJICAの連携による海外協力隊員向け「グローカルプログラム」。地方創生の取り組みを途上国での活動に生かせるだけでなく、帰国後の社会還元をイメージする機会となっている

――多様なパートナーとの共創は、民間や組織だけではなく、一人一人の個人にも言えることです。しかし、ハードルが高いと思う人もいるかもしれません。これからの国際協力を担うすべての人々に向け、どのようなメッセージを送りたいですか。

竹田 気候変動や紛争など、世界がこれだけ大きな危機を抱えている中、地球に住む人たち全員が協力し合わないといけません。国際協力はもはや「当たり前」なのです。

「国際協力に携わりたいけれど、何をしたらいいか分からない」という人もいるかもしれません。国際協力には多様な関わり方がありますから、どんな形でも自分ができる範囲でいいのです。自分の生活と世界の課題がどうつながっているのか、自分ができることは何かを考えてみてもらえればと思います。一人一人が力を持ち寄り、それが束になれば、大きなインパクトを生み出すことができます。自分の行動が実はこんな協力に結び付くんだという発見もあるかもしれません。そんな気付きを得られるコミュニケーションの機会を、JICAもどんどん作っていければと考えています。

JICA竹田広報部長

パネル登壇者の集合写真

パネル登壇者(左からJICA竹田さん、アンナーブ駐日ヨルダン大使、遠野市の多田市長、ARUNの功能さん、AfriMedicoの町井さん、外務省の石月国際協力局長)

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