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元サッカー日本代表、北澤豪さんらと語る「誰もがスポーツを楽しめる世界」

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs
#5 ジェンダー平等を実現しよう
SDGs

2026.06.16

国境や言語、障害の壁を超え、誰もがスポーツを楽しめる平和な世界。その実現を目指し、JICAはスポーツの普及に取り組んでいます。サッカーの世界的祭典「FIFAワールドカップ(W杯)2026」の開催を機に、元サッカー日本代表の北澤豪さん、元JICA海外協力隊スポーツ隊員の新井敦子さんに、スポーツを通じた国際協力の可能性について伺いました。(本記事の内容は動画でもお届けしています。記事の最後に動画リンクを掲載しておりますので、ぜひご視聴ください)

北澤豪(きたざわ・つよし)

東京都出身。読売クラブ(現東京ヴェルディ)に所属し、日本代表としても活躍。現役引退後の2004年にJICAオフィシャルサポーターに就任。アジアやアフリカ、中南米など国内外でサッカーの普及に取り組み、現在は日本障がい者サッカー連盟会長も務める

JICA青年海外協力隊事務局 小林龍太郎(以下、小林) 4年に1度のサッカーW杯が開幕しました。北澤さん、今大会はどんなところに注目されていますか。

元サッカー日本代表 北澤豪さん(以下、北澤) 参加国が増えて大会規模が大きくなったので、今まで以上に多くの国で盛り上がるのではないでしょうか。日本代表は優勝を狙える実力をつけたのでぜひ応援していただきたいですし、サッカーを入り口にして多くの人が国際社会への理解を深める機会にもなるといいですね。

ヨルダンで子どもたちにサッカーを指導する北澤豪さん(北澤さん提供)

ヨルダンで子どもたちにサッカーを指導する北澤豪さん(北澤さん提供)

小林 実は今回参加する48カ国・地域の中には、JICA海外協力隊のスポーツ隊員が派遣されている国があるんです。

北澤 そんなことを知って観戦するのも楽しいですよね。僕は過去のアジア予選でカンボジアにいたことがあります。現地でかつてJICAと一緒に子どもたちを指導したのですが、当時小学生だった子が代表選手になって、予選で日本と戦ったんですよ。ついカンボジアを応援したくなりましたね。

小林 アジアのサッカーはレベルが上がっているのですか?

北澤 はい。日本サッカー協会とJリーグは2002年日韓共催W杯の開催を機に、アジア全体を強くしていく活動を続けてきました。でも上から目線の指導では耳を傾けてもらえない。そこで各国のJICA事務所にアドバイスを受け、その国に合った指導をしています。アジアサッカーの成長の背景には、そんな活動もあります。実はW杯で優勝するような国って、他国への協力を当たり前にしているんです。だから日本のサッカー界も、さらに取り組んでほしいですね。

途上国の厳しいスポーツ環境

小林 ところでお二人は何歳からサッカーを始めたのですか?

元JICA海外協力隊スポーツ隊員 新井敦子さん(以下、新井) 私は小3の時に兄の影響で始めて、テレビで北澤さんの活躍を拝見していました。群馬県で隣町のチームに入って、普段は男子チームに交じって練習していました。

新井敦子(あらい・あつこ)

群馬県出身。小学校時代にサッカーを始め、早稲田大学女子サッカー部に所属。カンボジアの孤児院でサッカーを教えたことを機にJICA海外協力隊を志し、2019~20年、22~23年にウガンダでスポーツ隊員としてサッカーを教える。現在は群馬県内の小学校教員

北澤 僕は最初に野球を始め、小1でサッカーに転向しました。東京都町田市はスポーツが盛んで、サッカーも全国大会で優勝していたので、自然と日本一を目指そうという気持ちになりましたね。

新井 教員をしていると、日本の子どもには体育の授業や部活、習い事など、スポーツをする機会が多いことを実感します。協力隊でウガンダに派遣された時は、現地の環境の厳しさを思い知らされました。

小林 世界にはまだまだ、貧困などでスポーツができない子どもたちが数多くいます。一方で、日本には誰もが平和にスポーツを楽しんできた歴史があります。その強みを生かし、JICAは60年以上前からスポーツを通じた国際協力を続けています。

スポーツ隊員 90カ国に累計5000人以上

小林 協力隊は2025年で発足60周年を迎えましたが、スポーツ隊員は最も歴史が古い隊員の職種の一つで、これまでに累計5000人以上が90カ国で活躍してきました。

北澤 5000人も!

新井 協力隊には私の他にも野球や柔道、バスケなどを教えるスポーツ隊員がいて、種目が違っても共通の思いがありました。それは練習や試合の前のあいさつ、物を大切にする心、時間を守ること、練習に真面目に取り組む姿勢など、日本ならではの考えに基づく行動を教えたいということで、それが現地での日本への信頼にもつながっていきました。

北澤 でも皆さんが目指すところまでたどり着くのは、大変だったのでは?

新井 最初は本当に大変でした。練習するよと言っても誰も来ない。グラウンドはデコボコで牛のフンだらけ。支援でもらったボールもすぐにパンクしてしまうんです。

ウガンダで新井敦子さんが指導した女子サッカーチーム。グラウンドは荒れ、シューズがなく裸足の選手たちも(新井さん提供)

ウガンダで新井敦子さんが指導した女子サッカーチーム。グラウンドは荒れ、シューズがなく裸足の選手たちも(新井さん提供)

小林 サッカーはボール一つでできると言いますが、課題もあるんですね。

北澤 日本で集めたボールをパラグアイに届けた時、驚きました。100人ぐらいのチームにボールが1個しかなくて、みんなエアドリブルで練習していたんです。

ルールを学ぶ 社会に生かす

小林 私がJICAパラオ事務所に勤務していた時は、野球のスポーツ隊員がいました。現地の人に評価されていたのは、礼儀作法や試合に真摯(しんし)に向き合う姿勢を教えていたことです。それらは「野球道」として受け入れられていました。

小林龍太郎(こばやし・りゅうたろう)

2002年JICAに入構。森林・自然環境協力部、農村開発部、北陸支部、フィリピン事務所、外務省出向、東南アジア・大洋州部、ベトナム事務所、パラオ事務所を経て、青年海外協力隊事務局に勤務

北澤 野球? 「ベースボール」じゃないってことですか?

小林 はい。かつて日本の統治下にあったパラオには、今も「ヤキュウ」というパラオ語が残っているんです。

新井 ウガンダでは最初、相手を殴ってしまったり、ボールを手で持ってしまったりする子がいました。彼らが社会に出た後も、ルールを守ることが当然になることを願いながら指導していました。

北澤 スポーツを介すると、子どもの中にルールの大切さがすっと入っていくんですよね。でもそれを教えるには、本当に寄り添って信頼関係を築かないとなりません。

小林 北澤さんは2004年にJICAオフィシャルサポーターに就任し、協力隊の活動を視察して日本国内で伝える活動をされていましたね。

北澤 シリアでは隊員と一緒にパレスチナ難民の子どもを対象としたJICA CUPというサッカー大会を開催しました。子どもたちが試合の準備を始めると、大人たちが「会場までバスを出す」「ユニフォームを提供する」と協力を申し出て、一つのまちづくりのように盛り上がっていきました。試合で負けた子たちは、泣きましたね。初めて経験する悔しさですよ。そこに隊員が語りかけるんです。「努力したけれど負けてしまったね。次はもう少し頑張ってみよう」。こうした丁寧な関わり方が、子どもの成長にとって大きいんです。スポーツはお互いに楽しむもの。応援してくれる人のためにも頑張る。負けてもいい敗者にならなければならない。そんなことを学んでいくわけです。

パレスチナ自治区で子どもたちにサッカーを指導する北澤豪さん(北澤さん提供)

パレスチナ自治区で子どもたちにサッカーを指導する北澤豪さん(北澤さん提供)

小林 アフリカではHIV/エイズの検査を呼びかけるJICAの活動にも関わられましたね。

北澤 最初はいくら検査をしようと呼びかけても、人が集まらなかった。ところがサッカー教室を開いて「自分を守らないと、楽しいサッカーもできませんよ」と呼びかけたら、大変多くの人がサッカーをした後に検診を受けてくれたんです。スポーツは何かを達成するためにも力を発揮する。そんな可能性を感じました。

アフリカではJICAなどがサッカーに絡めてHIV検査を呼びかけた(北澤さん提供)

アフリカではJICAなどがサッカーに絡めてHIV検査を呼びかけた(北澤さん提供)

難民、少女 「あきらめず未来切り開きたい」

小林 新井さんが派遣されたウガンダでは「スポーツは男性がするもの」という意識が強いと聞いています。

新井 「女にサッカーができるのか」と驚かれたことがあります。女の子だからやりたいことをあきらめなければいけないのは、とても悲しいことです。最初に配属された学校では女子チームを作りました。初めは人数が少なくて男子と一緒に練習していたのですが、次第に「女の先生が教えてる!」と女子が集まり、11人そろって試合に出場できました。

小林 JICAが開催するTICAD CUPにも関わられたそうですね。

新井 はい。TICAD CUPは難民と地元住民が参加する女子サッカーの大会で、私がいた2022年に始まりました。ウガンダは決して裕福な国ではありませんが、難民にとても寛容で、周辺国から200万人近くを受け入れています。しかしホストコミュニティーとの間では生活環境の違いなどからトラブルも起きていました。そこで一緒にサッカーをすることでお互いを知り、課題解決につなげようという試みでした。

TICAD CUP試合前の練習風景。右端が協力隊として活動していた新井敦子さん(新井さん提供)

TICAD CUP試合前の練習風景。右端が協力隊として活動していた新井敦子さん(新井さん提供)

小林 TICAD CUPに参加する子どもたちはどんな環境で生活しているのですか?

新井 難民居住区で暮らす女の子のことが、強く印象に残っています。南スーダンで学校に通えず、ウガンダに来て15歳で小学校に通っていたのですが、家を訪れると、両親がいなくて幼いきょうだいの面倒を一人でみていたんです。家事を全部やって、学校に通って、空いた時間でサッカーの練習をして。一緒に楽しくサッカーをしていても、私たちが知らない過酷な環境に生きている子たちがたくさんいることに気付かされました。

北澤 過酷な環境だからこそ、みんなと一緒にスポーツをやりたいのかな。

新井 友達とつながることが楽しかったり、私たちと会うことで世界が広がっていく可能性を感じたり。そんなサッカーのプラスアルファの価値に気付いて、自分の未来を切り開きたいという思いで参加していたのだと思います。

難民居住区できょうだいの世話をしながら小学校に通い、サッカーを始めた難民の少女(右)(新井さん提供)

難民居住区できょうだいの世話をしながら小学校に通い、サッカーを始めた難民の少女(右)(新井さん提供)

小林 TICAD CUPでは日本女子プロサッカーリーグのWEリーグからユニフォームが提供されたそうですね。

新井 運動着も運動靴もなく、Tシャツやパンツ、裸足でプレーしている子も多かったので、アルビレックス新潟レディースから寄贈されたユニフォームを着て、みんなすごくうれしそうでした。試合に向かう彼女たちの後ろ姿がとてもりりしかった。ユニフォームって、選手の誇りなんですね。

北澤 ユニフォーム 1枚でモチベーションを作れるなんて、すてきじゃないですか。

「似合ってるね」。アルビレックス新潟レディースから提供されたユニフォームを着る難民の女子選手(左)に声を掛ける新井敦子さん(新井さん提供)

「似合ってるね」。アルビレックス新潟レディースから提供されたユニフォームを着る難民の女子選手(左)に声を掛ける新井敦子さん(新井さん提供)

障害の有無を超えて

小林 北澤さんは障害者スポーツの支援にも長く携わってらっしゃいますね。

北澤 僕はJICAが掲げる「誰もがスポーツを楽しめる」という目標にどう取り組めるかをずっと考えてきました。そして途上国での経験が、日本国内での障害者サッカーでの活動につながっていきました。きっかけは、ヨルダンで障害者スポーツを支援する隊員の活動を視察したことです。中東にはまだ障害者差別が根強くあったのですが、その地域には驚くほど障害の有無による差がなかったんです。日本の隊員が共生社会への理解を広げた成果で、これぞスポーツの公平性だと思いました。

小林 障害者がスポーツをする支援だけでなく、健常者と一緒にスポーツをする取り組みを広めている隊員もいますね。

北澤 僕が目指すのも、スポーツを通じた共生社会の実現です。2023年のデフフットサルW杯では女子が優勝しましたが、これはフットサルのFリーグが聴覚障害者を受け入れ、強化に取り組んできたからです。ブラインドサッカーのように、障害のある人とない人が一緒にプレーする競技もあります。こうした取り組みや競技から、共生社会へのヒントを得られると思って活動しています。

新井 スポーツにできることって、本当にたくさんあるんですね。

車いすの競泳選手に取材する北澤豪さん(左)(北澤さん提供)

車いすの競泳選手に取材する北澤豪さん(左)(北澤さん提供)

「日本だからできること」への信頼

北澤 いろんな国に行った時、日本への信頼を感じることってありますよね。

新井 ウガンダでも「どこから来たの?」と聞かれて「日本」と答えると、「オー、マイフレンド!」「日本は素晴らしい」「尊敬している」と言われて。これまでの活動で信頼を積み重ねてきた日本人のすごさを感じました。

小林 日本の文化や考え方を世界に広めることでそうした信頼を得ていくことも、スポーツによる国際協力の大きな成果ですね。

北澤 パレスチナで、現地の人がイスラエル人とサッカーをする機会がありました。激しく戦った後、みんな「楽しかった」と言ってお互いに握手したんです。それを見て、一緒にボールを追っていく先が平和につながるといいなと思いました。スポーツの普及により、人づくりがまちづくりになって、国づくりにも行き着く。長い目で見れば、スポーツは国の発展にも、平和にもつながっていくと信じています。

小林 そうしたつながりのために、JICAはスポーツの普及や、スポーツを通じた平和構築に取り組んでいます。これからも皆さんと力を合わせ、誰もがスポーツを楽しみ、理解し合える社会を目指していきたいと思います。今日はありがとうございました。

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