海外移住資料館ロゴ(トップページに戻ります)

Japanese Overseas Migration Museum
Museu da Migração Japonesa ao Exterior
Museo de la Migración Japonesa al Exterior

JICA独立行政法人国際協力機構ロゴ

このページのコンテンツに移動

現在の場所は

JICA横浜 海外移住資料館の裏側を潜入調査!!

2021年3月25日

現在、JICA横浜 海外移住資料館では中南米で発行された海外邦字紙(=邦字新聞)の収集・保存活動に力を入れています。

邦字新聞とは、海外に移住した日本人や日系人間での情報伝達を主目的として現地で発行されている日本語で書かれた新聞の総称です。過去に発行された邦字紙は、移住した日本人やその子孫達の当時の歴史を語る貴重な一次資料となっています。各地で発見された貴重な邦字紙の中には汚損による劣化が著しく、歴史資料として今後長く保存するために修復が必要なものがあります。

今回は、当館にて、50年以上前にブラジルで発行された貴重な邦字紙(学校法人日本力行会所蔵)の修復作業に取り組まれている、熟練の技術をお持ちの紙資料保存修復士、NPO地域文化計画の一宮佳世子さんにJICA横浜インターン生の土井がお話を伺いました。

私自身、将来は文化遺産の中でも特に無形文化遺産の保護に取り組みたいと考えているということもあり、実際にそのような文化の担い手の一人である一宮さんにインタビューをしてみました。
 

(Q:土井、A:一宮さん)
Q1) 邦字新聞の修復は、どの様に行うのですか?
A) 具体的な作業としては、薄い和紙で邦字新聞をラミネートして修復します。
単純な作業のように聞こえますが、修復前に資料の状態を読み解いていく過程が一番大変です。資料を観察して、いつ、何の素材で、どの様な作り方で出来ているのかを見ます。また、資料の損傷状態からは、なぜこうなったか、今後この資料をどう活用したいのか、修復を最小限の介入に抑えるにはどの様な方法があるか、水や溶剤を使っても影響はないか、材料は何を使うか、手間と材料費は予算に合うか…全部挙げたらキリがないほど実のところ結構考えているのです。
修復を依頼された資料というのは、先人たちが大事に受け継いできたものです。修復士である自分のせいでおかしなことになったら取り返しがつかないので、オリジナル資料に手を入れるということは、毎回それはそれは恐ろしい行為と思って作業をしています。

Q2) なぜ修復士を目指そうと思われたのですか?
A) 実家が和紙の輸出問屋であったことがきっかけです。
身の回りで消えゆく手すき和紙の技術だけでなく、それらを支える技術が消えゆく姿を見てどうにかしたいと考え目指したのが紙の資料の修復士でした。
また、伝統的な原料と製法で作られた品質の和紙は、文化財の保存修復をする際に使われており、そのマーケットは世界規模となっています。
保存修復用の和紙は柔軟性があり、どんな素材にも馴染みやすく、適度に強度があるといったような利点があります。それだけでなく、使用した際、1000年後どうなるか、人体や文化財への安全性や品質の長期安定性などについてすでに歴史で証明されています。

Q3) 和紙の利用が減っているとおっしゃっていましたが、逆に修復のような特別な用途での需要が増えていると思いますか?
A) 残念ながら、今のところはそのような現象は起こっていません。
文化財の保存修復といった文化芸術というマーケットは本当に小さく、なかなか需要は伸びていません。
また、日本人の生活様式の変化なども需要に歯止めをかけている一つの原因となっています。
しかし、一方では和紙の用途などに対する先入観が少ない海外の方が、和紙に新たな用途を見出しています。例えば、和紙を使った芸術作品や、ロンドンのおしゃれなカフェの壁紙への使用、高級化粧品や高級菓子などの包装にも使用されています。

Q4) 紙漉き等の技術を残すことや、後継者を育成するために必要なことはなんだと思いますか?
A) 和紙に対する需要も大切ですが、伝統的な和紙を知っていただくための教育普及がとても大切であると考えます。
例えば、最近では和紙のマスクなどが登場していますが、そのほとんどは外国産パルプ100%で作られています。本来の和紙は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などを原料としています。こういった正しい知識を広めることが、和紙に対する理解につながると考えています。
その他にも、気候変動や人手不足の問題から和紙を作る原料が手に入りにくくなっているため、昔は分業制で行っていた原料の収穫と和紙の生産という作業を、今日では両方とも行わなければいけないのです。
和紙を作る技術を残すためには、原料を生産・収穫する知識、さらには和紙を作る際に使用する道具作りから残していかなければならないのです。

Q5) 日本にはたくさんの種類の和紙があり、それぞれ異なる用途があると思います。種類が多いからこそ存続が難しいといった面はありますか?
A) 和紙を製造している地域ごとに、それぞれ得意な和紙の性質があります。
たとえば、UNESCOの無形文化遺産に登録されている石州和紙・美濃和紙・細川和紙は楮(こうぞ)という原料を使って生産していて、産地名でどのような紙かがわかります。
それと異なるのが、私が現在在住している高知県の土佐和紙や越前和紙です。これらの地域での和紙作りは産地名だけで紙を限定できないほどバラエティー豊かで、時代や用途に応じて変化し続けています。原料も楮(こうぞ)だけでなく、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)なども使って生産しています。
 

最後に

今回お話を伺って、消えゆく無形文化遺産の問題の根深さということを再び突き付けられた気がしました。
この記事が、JICAが取り組む邦字新聞プロジェクトや、日本の素晴らしい技術が直面している課題を知っていただく端緒となればと思います。(JICA横浜インターン生 土井 貴美子)