JICA沖縄【大学生×草の根】シリーズ第7弾 -名桜大学生が「南東スラウェシ州ワカトビ県における地域に根差した環境保全型観光開発の推進」を取材-

2020年1月17日

【大学生×草の根】シリーズ(沖縄県内の大学生が、草の根技術協力事業の現場で活躍する方をインタビューする企画)第7弾。今回は、「南東スラウェシ州ワカトビ県における地域に根差した環境保全型観光開発の推進」のプロジェクトマネージャーである立田 亜由美さんに、名桜大学の学生がインタビューしました。
インタビュアーは、今回も名桜大学の国際ボランティア研究会のメンバーが行いました。

プロジェクト概要

本事業はNPO法人 おきなわ環境クラブが実施団体となり、2017年3月からパートナー型の草の根技術協力事業として実施されています。インドネシア 南東スラウェシ州ワカトビ県にての開発地域の環境保全型観光を推進することを目的として、持続可能な観光推進組織を設立し、ツアー商品の開発を行っています。詳細については下記リンクをご参照ください。

人物紹介

【画像】
【取材対象者】
  • NPO法人おきなわ環境クラブ 立田 亜由美さん
【インタビュアー】
  • 名桜大学国際学群3年 国際文化専攻 堀之内 裕一さん
  • 名桜大学国際学群1年 飛田 ほのかさん
  • 名桜大学国際学群3年 国際文化専攻 森田 望雅(みのり)さん
  • 名桜大学国際学群1年 鎌田 美里(みさと)さん

インタビュー

インタビュアー
このプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。
立田
ワカトビ県でたしか2007年までJICAで行っていたプロジェクトがあって、それは地域のニーズに沿った地方開発をファシリテートする人材育成を行うパイロット事業だったんです。ワカトビ県というのはサンゴ礁をはじめとした海の生物多様性が豊かで、その環境を活かした観光を振興していくことがワカトビ県としての政策の重要な柱となっています。プロジェクトでつながりのあったJICAに現地政府からエコツーリズム開発への支援の要請があり、現地と同じようにサンゴ礁があり、海に囲まれ、マングローブがある、というようなところで活動をしている団体と事業を行えないかとJICAにマッチングしてもらうことでおきなわ環境クラブが事業を行うことになりました。
インタビュアー
どんな形でプロジェクトを進められているのですか?
立田
対象地域の7つの村(集落)は全く観光開発されていないところで、そこからどのように観光を行っていこうというところから話をし、村から1人ずつ人選し、推進グループ(Wakapala)を形成していきました。アイデアが何もない状態なので沖縄に呼び、体験してもらい、現地で何ができるのかを一人一人に考えてもらい、ツアーを作っていきました。家でいつも作っているようなものを資源にしたり、人によっては探し回って洞窟を見つけてツアーを作ったりなど、その人の特色が生かされるツアーを作成しました。
インタビュアー
実際に作られた観光開発商品というのは例えばどんなものがありますか?
立田
アドベンチャー系と文化系の2つに分かれます。
  • アドベンチャー系…ケービング、シュノーケリング
  • 文化系…伝統的食づくり、アダンの葉で作ったランチョンマットづくり、プラスチックストローを使ったカラフルなポーチづくり
商品を売る、というのではなく、現地での体験を売っています。文化系のものでは、消えていきつつある伝統技術を次の世代に伝えていくコンセプトを取り入れています。伝統文化も残していきたいという思いがありますので。
インタビュアー
プラスチックのストローでポーチを作るというのは環境問題を訴えるという点でもいいですね。
立田
環境問題はすごく身近にありますからね。つい最近も島に打ち上げられたクジラのお腹の中からプラスチックカップが大量に出てきたという問題がニュースになっていましたが、あれはワカトビ県のニュースなんですよ。
インタビュアー
え、そうなんですね。現地の人も環境問題についてものすごく身近に感じているんですね。
プロジェクトを行っていて、課題というか、困ったことなどあれば教えてください。
立田
現地独特のコミュニケーションの取り方があるんですが、ワカトビでは、大勢の人がいる中で厳しい話をすることができないんですね。人が沢山いるときにはほめることしかしない。だから、話し方、伝え方については慣れるしかないと思いました。
それから、現地の人が自主的に活動するかで事業がうまくいくと思うんです。待ちの姿勢では難しいですから。その点を現地の駐在員はとても苦労してきたと思います。
インタビュアー
なるほど、人と人とがどう付き合っていくか、という、信頼関係も重要になってきますね。
立田
そうですね。プロジェクトは今年3月に終了するのですが、プロジェクトが終わるということはJICAの予算が終わるというだけの話。大事なのは、そのあと現地の人たちがどのように続けていくかです。今はインターネットが普及しているから、現地に行かなくても連絡を取りながら進めていけますからね。今までもたとえば、目にした土産品でよさそうなものを写真に撮って送ると、現地の人が触発されて新たなデザインの土産物商品をつくったりするんです。インターネットのおかげで、互いに距離をそれほど感じることなく繋がりをもつことができますし、「日本にいてもWalapala(観光推進グループ)のこと考えてくれているんだ」という思いをもってくれたりする。
インタビュアー
開発の形は時代によって変化してくるんですね。
立田
そうですね。変化してきていると思いますが、やはり最終的に信頼関係の構築は、ネットだけでなくきちんと実際の関りの中で作っていく必要はあると思います
インタビュアー
国際協力に進みたいと思う学生たちにアドバイスをおねがいします。
立田
うーん、国際協力って何だと思います?それぞれみなさんが目指す「国際協力」によって、やるべきことは変わってくると思うんですよね。専門性を学ぶために博士課程まで行って勉強する人もいるだろうし、現地できらきらした目をする子供たちと触れ合うことが好きな人は現地の団体にアクセスして一緒に活動するなど、その人が何をやりたいのかによって違うので、一概にアドバイスっていうのは難しいですが‥‥まずは現地に行って体験してみたほうがいいかなとは思います。
インタビュアー
立田さん自身が、国際協力に興味をもち始めたのはいつごろからですか?
立田
19歳の時、1990年代にシエラレオネに行ったとき、自分の常識が全く通じないことに衝撃を受けたんです。「人のものを欲しがっちゃいけない」「人が困っていたら助けてあげる」という教えを受けて育ったけれど、現地の人たちは私のものをどんどん欲しがったんですよ。当時の私にはショックなことでした。ものがほしいって言われることで、「ものがないところ」の問題が「ものであふれているところ」に住んでいる私にも関係ある問題なんじゃないかと思いました。同じ世界の中で、与えることができる側が与えるばかりではなく、この先どのような関係を続けていけばいいのかを考えていきたいと思ったんです。
あるところからないところに物を流していくことを続けていったって何も解決しない。また新たな違う不均衡が生まれてきますからね。そこから国際協力に興味をもつようになりました。
インタビュアー
いつも実施団体の方にインタビューを行う際、皆さんが国際協力に関心をもったきっかけをお聞きしているのですが、今回の立田さんの話もとっても興味深くて、「ものがある側が与えるばかりでは解決しない」という言葉がとっても印象に残りました。
今日は長時間にわたり、インタビューさせていただき、ありがとうございました。とても勉強になりました。
立田
こちらこそ、ありがとうございました。

インタビューを行った感想

堀之内裕一さん
おきなわ環境クラブさんの草の根技術協力事業に至るまでのプロセスは、草の根技術協力事業への参画の多様性を感じました。いろんな団体や学生が多くのケースを知ること、学ぶことによって、自らの技術協力の道をどう形作るかを思案する手掛かりになると感じました。
飛田ほのかさん
実際にプロジェクトの中でワカトビ県の方がストローを使って作ったポーチ等を見せていただき、現地の方が活動されているイメージがわきました。SNSの普及により国際協力の在り方も時代とともに変化しつつあるというお話が印象に残っています。物理的な距離があっても、いつでも互いに様々なことを報告し合うことができるのは、より現地の人々に寄り添った支援が可能になるということだと感じました。実際にプロジェクトを行っている方にお話を聞く機会を通して、自分の物事の捉え方や考え方が変化するのを感じることができ、大変嬉しく思います。
森田望雅さん
今回、事業を担当することになった経緯や現地の一日のスケジュールなどを知ることができ、国際協力をどのように行い、どのように人が動いているのかを学ぶことができました。特に、駐在する人がいることを知って、国際協力を行う上で重要な「信頼」を築くこと、現地の「個人」を見つめ、知ることを大切に取り組んできたのだと思いました。
鎌田美里さん
プロジェクトをはじめたきっかけを聞いた際に、団体ごとに国際貢献へのプロセスは違うのだと感じました。インタビューの間、おきなわ環境クラブさんは、現場にいる「人」と事業に対する「気持ち」を大切になさっていることを何度も感じました。それらが、プロジェクトを円滑に進めていく重要な要素だと思いました。インタビューを受けてくださった立田さんの経験談も大変興味深い内容で、刺激ある有意義な時間を過ごすことができました。