沖縄からコロンビアに繋ぐ平和教育 <1月24日は教育の国際デー>

2021年1月21日

 
 1月24日は「教育の国際デー」として、平和と発展に欠かせない公正で良質な教育を誰もが受けられるように取り組むべく国連が定めた日です。


 太平洋戦争で過酷な地上戦が行われた沖縄には、「命(ぬち)どぅ宝(たから)」(=命こそ宝)という言葉があり、平和な世界を実現するための平和教育が盛んです。日本国内においても、修学旅行で他県から多くの生徒が沖縄県平和祈念資料館、平和の礎(いしじ)、ひめゆり平和祈念資料館などを訪れます。
 2016年に内戦からの和平合意が締結されたコロンビアでは、学校における「平和教育」が必須教科になりましたが、授業の実践・指導の経験やノウハウが不足しています。そこで、2019年度から3年間を予定として、年に10~15人の教育関係者を受け入れ、沖縄の知見をコロンビアで活かしてもらうことになりました。

南風原(はえばる)町立南風原小学校での1シーン。児童が平和への祈りを込めた折り鶴を研修員に渡し、平和な社会の実現に向けて世界に思いを広げています。

 
 2019年の研修は11月下旬から3週間、コロンビア教育省、モデル対象3県の県教育委員会、現職教員など10名が参加しました。
 最初に、沖縄県の学習指導要領、平和教育指導の手引きを学び、その実践として小学校、中学校を視察し、授業の進め方や留意点などの理解を深めました。
 また、教室の掃除は児童・生徒が行っていることなど「日本式教育」が平等や協働といった意識の醸成に寄与していることを実感しました。

 「武器が生み出した過去の痛み、今、希望が生まれる。コロンビアは花の香り、私たちが夢見る祖国...」

 
 また、アートやスポーツを取り入れることが、平和、共存、共生などを感じるために有効であることも、沖縄研修での重要な気づきでした。
 シンガーソングライター 荒木メリッサさんの協力で完成した「コロンビアの平和を祈る歌」づくりやバルーンアートなど、学校での授業に取り入れて皆で一緒に楽しむことで、平和への意識が共有されることを感じました。

スポーツは「出会いの機会」だから、平和な社会をつくることに貢献できる。

最初はパスの練習から(この後の試合では完全本気モードでした。)。

  
 研修員が一番盛り上がった企画は、FC琉球にご協力を頂いて実施したワークショップ「スポーツを通じて学ぶ平和」でした。
 前半のディスカッションでは、「なぜスポーツは平和な社会をつくることに貢献できるのか。」について考えて、コロンビア側、日本側に分かれて発表しました。改めて「なぜ」の部分を議論することにより、その意義をより深く理解することができました。





 そして、お待ちかねのフットサルでは、研修員はこの日のために母国から持参した黄色のコロンビア代表ユニフォームに身を包み、FC琉球選手との対戦を楽しみました。
 白熱した、そして和気あいあいのゲームに改めてスポーツの持つ意義を大いに感じたようです。

 
 研修中に表敬した謝花喜一郎沖縄県副知事からは、『平和の大切さを継続的に語り合うことが重要。』とのお言葉を頂きました。
 研修に参加したコロンビア教育省のカロ・ダサ・ファン・カミロさんは、『平和祈念資料館、平和の礎、読谷村のチビチリガマなど、戦争の記憶を繋ぎ、そのうえで、敵味方関係なく平和を尊ぶことの大切さを知ることができた。』と話しています。

コロナ禍のなか、久しぶりの再会。

 
 2020年度は新型コロナウィルスの世界的流行により、来日しての研修は中止になりました。しかし、研修員は帰国後、沖縄での研修成果を自身の業務に活かしています。
 2020年10月に帰国研修員10名とコロンビア教育省、JICAコロンビア事務所、JICA沖縄センターを繋ぎ、「帰国後の活動報告会」を開催しました。トリマ県教育庁のアルシエガス・ガルソン・オスカルさんは、7月に「ステイホーム学校」というラジオ番組を企画し、コロナ禍で学校が閉鎖され、生活が制限されているなかで、家庭や地域でいろいろと工夫して過ごしていくことを語りかけました。そのなかで、前述の荒木メリッサさんに遠隔でゲスト出演して頂き、「希望」というメッセージソングを歌って頂きました。
 そのほかの研修員も、平和教育普及に係る制度整備や地方への各種提言、指導要領の改訂やカリキュラム、指導方法の工夫、それぞれの県、市での内戦の歴史的記憶の保存と平和に対する市民の意識の醸成など、コロナ禍のなか精力的な活動をしています。

 
 本研修コースリーダーの上原 敏彦さん(特定非営利活動法人レキオウィングス、元沖縄県教育庁)は、『沖縄県では、<平和を希求するおきなわの心>を次世代に繋いでいくために平和教育を進めてきており、本研修では、沖縄の経験をコロンビアの教育者に心で伝えることに取り組みました。研修員は、お互いをサポートし、知識を共有しながら温かい雰囲気のもと受講し、コロンビアの平和教育に向けた真摯な姿勢と情熱を感じることができました。その結果、研修員から、「沖縄は、平和な社会の実現に向け、困難な作業も達成できるという希望を私たちに与えてくれた。」という感想がありました。この言葉を糧に、これからも沖縄の平和教育の経験をコロンビアで活かしていきたいです。』と話しています。

「平和」を習字で書きました。

 
 コロナ収束後は、研修員受け入れがあと2回予定されており、コロンビアでの対象地域を広げ、新しい研修員が来日します。
 沖縄とコロンビアの交流が続くとともに、コロンビア全国に子どもたちの笑顔が広がることを期待しています。