沖縄の母子手帳がアフリカで!(看護週間によせて):「お母さんと赤ちゃんの命を守りたい!」思いを強くしたJICA沖縄の研修

2022年5月11日

 皆さんは、「母子手帳」が日本で誕生したものであることをご存じでしょうか?今回は、沖縄で母子手帳を学んだアフリカの研修員が自国で開発した母子手帳が、2022年4月に国家的に承認された話を紹介します。

 「母子手帳」(「母子健康手帳」、近年は「親子手帳」とも言う)は、妊娠中から出産後の母子の状態や、出生後の赤ちゃんの成長・健康状態を1冊にまとめて記録することで、母親と医療従事者がより良く母子の健康を確認・管理できるものです。
JICAは、多くの開発途上国において母子手帳の導入や展開への協力を行っており、JICA沖縄でも1990年代から開発途上国の行政官等を沖縄に招へいして知見を伝えている「公衆衛生活動による母子保健強化」コースにおいて、母子手帳についての講義や視察を行っています。

【画像】 この研修に、アフリカ西部のシエラレオネ共和国からメアリー・アウグスタ・ママコ・フラーさんが参加したのは2016年5月でした。メアリーさんは、保健衛生省の副主席看護官(兼産科救急連携担当官)として、母子手帳の存在は知っていましたが、その内容や、どのように配布され、どのような効果が期待できるのかについては、この研修で初めて学び、「シエラレオネでも母子手帳を導入したい!」との強い思いを抱くようになりました。

 シエラレオネは、妊産婦死亡率、新生児死亡率、5歳未満児死亡率などの保健指標が世界の中でも厳しい国とされています。現地では、お母さん用の妊娠期健診カードと子ども用の5歳未満児カードを使って、検診結果や予防接種歴などを記録していますが、母子の記録が別々であるため片方を紛失しやすいことや、カードの内容が分かりにくいことなどから、家庭内で充分に活用されていない問題が指摘されていました。
沖縄から帰国後、メアリーさんは、強いリーダーシップを発揮して「シエラレオネ版母子手帳」を開発し、試験的導入を行うプロジェクトを実施しました。このプロジェクトには、メアリーさんに続いてJICAの研修に参加した保健衛生省のスタッフ、UNICEF、WHO、JICAのシエラレオネオフィスなどが協力しました。

【画像】 JICA沖縄の保健チームも、このプロジェクト期間中の2019年2月にシエラレオネのプロジェクト現場を訪問し、メアリーさんを始めとする帰国研修員が試験的導入対象保健センターの看護師、医師、地域の伝統的産婆とともに開催した母親学級に参加する機会を得ました。妊婦さんたちは、イラストを多用してわかりやすく編集された母子手帳を手に誇らしげに母親学級に参加し、妊娠中の過ごし方や出産準備などについて学んでいました。

【画像】 プロジェクト終了時には、無事に誕生し成長している子どもたちを連れたお父さんたちも集まり、父親が育児に関わるようになったという報告もありました。

【画像】 そして、プロジェクトを経て、このたび、この母子手帳(Maternal and Child Health Handbook)がシエラレオネにおいて国家文書として認められました。国家文書として認定されたことにより、今後、全国での導入へと進むことが期待されます。
 この事例は、JICA沖縄での研修に参加した1人の研修員の母子保健に対する熱く強い思いと、同じ組織から継続してスタッフが参加したことが相乗効果をもたらし、研修で学んだことが数年かけて実った事例だと感じています。
 シエラレオネの母子手帳も、女性たちの穏やかな妊娠期と安全な出産を、そして子どもたちの健やかに成長を見守るツールとなることを願っています。