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地下空間を利用して都市の洪水被害を食い止める(秩父ケミカル株式会社)

2022年4月8日

気候変動の影響により世界各国で想定外の豪雨が増えています。特に排水機能が脆弱な都市部では、集中的な豪雨で都市機能が麻痺しやすいことから、日本では地下空間を利用した洪水対策の技術が進んでいます。なかでも途上国での導入がしやすい安価で簡便なプラスチック製の雨水貯留構造体(PRSS)を通じて、洪水対策への貢献を目指している、秩父ケミカル株式会社の取り組みを紹介します。

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約10×50メートルのスペースに約4,000個のプラスチック製雨水貯留構造体を埋設した。

東南アジアで深刻な都市洪水被害

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2019年6月頃のバンコク市内道路の様子。この年も大雨で一部道路が冠水状態となりました。

約800万人が暮らすタイの首都バンコクでは、経済発展とともに今も都市化が進んでいます。他方で、近年の気候変動や地下水位の高さ、不十分な排水設備などの影響により、大雨による冠水・浸水が頻発し市民の生活を脅かしています。2011年の大洪水では首都バンコクで1ヵ月以上に渡って都市機能が麻痺し、日系企業も含む多くの企業の経済活動に支障が出るなど甚大な被害を受けました。その後も毎年のように大雨で道路が冠水するなどの被害が発生しています。

大規模な治水工事に比べて安価で設置が容易なプラスチック製貯水タンク

秩父ケミカル社が開発したPRSS「ニュープラくん」は、一辺約700mmのプラスチックのブロックを多数組み合わせ、シートで包むことで雨水の貯水タンクを地下に設置するものです。施設の高さは0.35mから最大3.35mまで選択でき、敷地面積に合わせて小規模から大規模まで様々な大きさへ対応可能です。貯水タンクの体積に対して95%の水を溜めることができます。また、シートの種類を変えることで、雨水をタンク内に保持し少しずつ排水・あるいは雨水利用に使える”貯留型”と、雨水を少しずつ地中へ浸透させることで地下水の涵養効果も見込める”浸透型”を使い分けます。

都市部に土地の余裕が少ない日本では、すでに多くの駐車場や学校のグラウンドなどに埋設されています。局所的な浸水被害を軽減するとともに、一時的に雨水を溜めることで、下水道や河川に水が一気に流れ込むことによる洪水を防ぐ役割も果たしています。

プラスチック資材自体が軽量のため、女性の作業員でも簡単に運搬や組み立てができ、コンクリートの貯水槽よりも低コスト・短期間で施工できることが特徴です。

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(左):技術の普及を図るため、施工は現地建設会社が実施。
    タイでは女性の作業員も多いが、プラスチック資材自体が軽量なので運搬や組み立ても大きな力を必要としない。
(右):大型の重機を使うことなく、短期間で工事が可能なこともタイでは評価されている。

まずはインドネシアへ導入

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秩父ケミカル株式会社 吉田寿人社長

2015年に同社は初めてJICA民間連携事業(注1)を利用しました。

「弊社としても韓国と台湾で実証試験を始めていた時期で、アジアの他地域でも事業を拡大しようと思い、まずはインドネシアを対象にJICA事業に応募しました」と秩父ケミカルの吉田社長は説明します。

インドネシア公共事業・国民住宅省とともに事業場所の調査を行い、公共施設内の駐車場2か所に浸透型のPRSSを試験的に設置しました。

現地カウンターパートの担当者からは「雨が降るたびに水浸しになっていた駐車場に、今年は雨水が溜まらなくなった。短い工期でこれだけの効果が現れるとは驚いた」と絶賛されたといいます。
 

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(左):現地でのセミナーの様子
(右):試験設置場所で現地政府機関の方々に説明

これによって浸水被害が軽減され、海外市場開拓につながるかと思われましたが、当時のインドネシアは限られた政府予算を雨水対策に配分できず、残念ながら普及には至りませんでした。

その後タイに進出。一時的に雨水をためるモンキーチーク

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技術の普及を図るため、施工は現地建設会社の作業員によって行われました

そこで新たな進出先としてタイに注目し、2017年にふたたび民間連携事業を活用して調査を開始したところ、新たな手ごたえを感じることができました。
秩父ケミカルの元社員で現在も本事業に関わっている尾崎昂嗣さん(アールアンドユー・レゾリューションズ代表)は、「タイにはもともとモンキーチークと言って猿が頬に食べ物をためるように、雨水を一時的にためる調整池などを整備する考え方があります。これは前国王ラーマ9世の助言によるもので、タイの治水関係者の間で基本的な洪水対策の考え方として定着しています。この考え方があったので私たちのプラスチック貯留槽もそのひとつであると受け入れてもらえました」と語ります。
そして2019年12月、タイ工業団地公社の敷地内で「ニュープラくん」を設置し、同国初となるPRSSが完成しました。施工完了式典には多くの現地メディアが取材に集まり、高い注目を集めました。

その後、新型コロナウイルスの影響により日本からの渡航が出来なくなり、貯水量や降雨量の計測など効果検証のための作業はストップしてしまいました。しかし、同社はオンラインで現地業者や政府機関とのやり取りを根気強く続け、バンコク都からの受注に漕ぎつけました。2021年6月に工事が完成し、バンコク都内の公園の地下に「ニュープラくん」が設置されました。

現地とともに発展していく技術

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尾崎昂嗣さん(アールアンドユー・レゾリューションズ代表)

尾崎さんはこう続けます。「"住み続けられるまちづくり"を担っていると考えると、いっそうやりがいを感じます。SDGsに関心の高いタイの方々に対して、様々な観点から水環境の改善を提案できるこの製品は、将来性があると実感しています。」

現地ではプラスチック製品の利用に対して環境面を懸念する声を聞くこともありますが、それに対しては、PRSSはリサイクルしたプラスチックを使っていること、日本の技術指針に準拠し、化学的な耐久性を満たしていることなども丁寧に説明しています。

「PRSSは日本でも実用化から30年ぐらいとまだ歴史が浅く、これから発展していく技術です。タイに合ったものを開発し、コストを下げるために現地生産もしていきたいです。私はこの活動で、技術が確かだとわかればタイの人は認めてくれると肌で学びました。『一緒にいろんな研究をしよう』とおたがいに前を向いています。」

現在も様々な機関からの問い合わせが寄せられるなど、都市洪水対策の新しい技術としてタイ国内での関心はさらに高まっているそうです。日本の優れた製品・技術を活かした同社の取り組みが、これからも広がっていくことを期待しています。

案件の詳細は以下リンクよりご覧いただけます。

2021年12月16日にBSテレ東にて特別番組が放送され、その中で秩父ケミカル社の取り組みが紹介されました。

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