第22報:誘拐婚から考える日本のジェンダー問題(キルギス)

市立札幌清田高等学校 立田 和久先生

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今回、私が教師海外研修に参加したきっかけは、日本の生徒たちに世界的視野を持って物事を考え、生の国際貢献の実態を伝えられる教員でありたいと考えたからです。私はこれまでの教員生活の中で、諸外国に比べて日本の高校生の内向き姿勢にたびたび困惑する場面に遭遇しました。私は学生時代に中国へ留学し、中国の高校生や大学生が、積極的に海外に目を向け進んで他国の文化を受け入れる姿を目の当たりし、日本と中国の子どもたちとの大きな差に強い衝撃を受けました。その経験もあり、この度の海外研修を通して得たものを日々の授業のなかで積極的に還元し、生徒が世界に目を向けるきっかけづくりをしたいと考えて研修に参加しました。

キルギス研修から生まれた授業-人権擁護と文化尊重のジレンマ-

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キルギスには数千年と連綿と続いてきた遊牧の伝統、ソ連時代へのノスタルジー、JICAによる一村一品活動を通した経済発展への奮闘など、至る所に教材としての示唆にあふれていました。その中で特にキルギス(中央アジア)の「風習」とされている誘拐婚に対しては、当初は人道面からクリティカル(批判的)な眼差しで、後に現地の人に取材を進めていく中では複眼的な見地で関心を持ちました。そして、「キルギス社会の実情」や「伝統・文化の在り方」、さらには「ジェンダー問題の克服」までを含めて広い視野で生徒に思考力を身につけられると思い、誘拐婚を事例にこのテーマで1年生グローバルコースで授業をしようと決心しました。

誘拐婚を事例に、「人権擁護」と「伝統・文化」のジレンマを考える

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誘拐婚は様々な社会的・文化的・経済的要因から今日まで続くキルギス(中央アジア)の婚姻形態で、その複雑さを生徒にいかに実感させるかに苦慮しました。

しかし、生徒はロールプレイ等を通じて、キルギス内外の様々な人たちの立場に立って、誘拐婚にまつわる問題には「人権擁護」と「伝統・文化」の考えが衝突してその解決は一筋縄ではいかないことに気づきます。そして、多様な価値観を共有し、「伝統・文化」の名のもとに苦しむ人達の思いにも耳を傾け、より良い社会の在り方について懸命に考えていました。

日本のジェンダー問題は?-ジェンダー問題の克服へ-

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世界経済フォーラムが毎年公表する2020年のジェンダー・ギャップ指数において153か国中キルギスが72位、日本が121位(過去最低)でした。生徒はロールプレイ後の授業で、誘拐婚の風習のあるキルギルよりも先進国である日本の方が、男女格差が大きいことを知り、衝撃を受けます。そして、新たな疑問に直面します。「なぜ、当たり前のように生活している日本でこれほど男女格差が深刻なのか?」「どうすれば男女格差をなくしていくことができるのか?」など。キルギスから視点を日本に移すことで、生徒は「我がこと」として一層課題意識を持ち、ジェンダー問題の克服について思考を巡らせました。

本校グローバルコースの生徒は二年次においてより複雑な国際問題について考察する「国際協力」の授業を受けることになります。今回のキルギスに関わる授業が、複雑な国際的諸問題を理解した前提で取り組む「国際協力」の導入を担うものになりえたと考えます。