【草の根技術協力事業】実施団体の紹介&インタビュー「NPO法人アプカス編」

2021年6月25日

視覚障がいのある専門家が同じ障がいを持つ生徒に指圧の仕方を指導

 草の根技術協力事業とは、日本のNGOや地方自治体、大学、民間企業等の団体が、これまでの活動を通じて得た知見や経験に基づいて国際協力活動を提案し、JICAと協力して実施する共同事業です。今回は、スリランカで草の根事業を実施しているNPO法人アプカス(所在地:北海道函館市)について紹介します。

視覚障がい者に雇用の場を

アプカス日本事務所 事務局長 伊藤 俊介氏(2008年アプカスの立ち上げ時から現職/函館市在住)

 NPO法人アプカスは、元々、2004年12月にインド洋で起きた大津波の際、スリランカの被災者を支援するために設立された団体で、2008年にNPO法人となりました。英語表記APCASは「Action for Peace, Capability And Sustainability」の頭文字を取ったものであると同時に、アイヌ語で「歩く」を意味しています。
 草の根技術協力事業「あんまマッサージ指圧訓練コースの設立・運営による視覚障害者の雇用促進」でアプカスが取り組んでいるのは、スリランカの視覚障がい者に指圧の技術と知識を伝え、視覚障がい者の雇用を促進すること。障がい者への理解がないこともあり、働く場の無かった視覚障がい者に、指圧マッサージの技術や医療知識を伝え、指圧師として経済的に自立できるよう支援しています。2020年2月にスタートした本事業も、1年を過ぎ、2年目の活動がスタートしています。
 アプカス事務局長の伊藤俊介さんにお話を伺いました。
 

草の根技術協力事業をどのようにして知りましたか。なぜ応募しようと思いましたか。

指圧マッサージには、骨格や体の構造に関するの医学知識も重要。模型を使って指導。

 国際協力の分野では、草の根技術協力事業は知名度がありますので、交流のあるJICA・NGO関係者からもよく話を聞いて、団体の発足時から知っていました。団体の力がある程度ついてから、いつかは挑戦したいと思っていました。 
 実際の応募については、JICA北海道の担当者の方から、私たちの団体の活動を評価していただいた上で草の根事業にぜひチャレンジして欲しいと何度も口説かれたこと(笑)、また、2011年から年2回ほど指圧の専門家が技術指導のため自費で渡航しており、視覚障がい者への指圧技術移転ニーズがあることが判明していたので、応募を決めました。 

草の根事業を実施してみて良かったことは何ですか。

オフィスで出張指圧マッサージ

 草の根事業では、事業を計画する段階、実施する段階、評価する各段階において、両国でより細やかな情報の整理と共有を行います。実施側にとっては、頭の中で漠然としている事業のイメージをきちんと外部化するというプロセスがあり、たしかに手間はかかりますが、「プロジェクトマネジメント」や「リスク管理」の能力向上に確実に繋がっていると思います。また複数年で事業展開ができるのも、団体運営や活動の安定性に繋がっています。

草の根事業を実施する上で難しいことはありますか。また、昨年から新型コロナウイルスの影響が出ていると思いますが、どのように事業を進めていますか。

オンライン会議システムを使った講義の様子

コロナ感染防止のため、マスクを着用して施術する訓練生たち

 私たちは2007年から本格的に国際協力・地域開発事業をスリランカで実施していますが、基本は開発途上国や被災地での活動になるので、当初の想定通りに事が進まないというはある意味当たり前で、どの事業もその点では難しいです(笑)。
 それでも草の根事業に関しては、よりよい活動を目指すという観点から、きちんと説明のできるものであれば、計画の変更に柔軟に対応してもらえます。そういった点では、安心して相談できる関係は重要です。

 新型コロナウイルス感染拡大については、スリランカでも2020年の3月に外出禁止令が発令されて以降、感染状況は一進一退を繰り返し、2021年5月から6月にかけても再度外出禁止令が出されています。そのため、日本人の渡航はもちろん、スリランカ国内での移動も制限されてきたため、事業には大きな影響が出ています。幸い私たちの団体は、プロジェクトマネージャーが現地駐在していますので、活動国での状況の把握や計画変更については、うまく対応できたと思います。
 一方で、接触を減らすという点が感染対策で重要となりますが、「指圧技術」を「視覚障がい者」にレクチャーするという事業なので、ことさら接触を減らすというのが難しいです。当然、感染防止に努めながら事業を行っていますが、指圧技術の講義や指導の際にも、リモート技術(オンライン会議システムを使った講義、テキストの音声テキスト化等)を積極的に取り入れています。こういったIT技術の垣根が下がっているので、今後もうまく活用したいと思っています。

草の根事業に関心がある方へのメッセージ

指圧サロン2号店オープン時(2020年3月/左からプロジェクトマネージャー石川氏、生徒2名、専門家笹田氏、生徒2名、専門家橋本氏)
※2号店は現在休業中です

 私たちも多くの外部資金(活動助成や委託)を活用しながら、国際協力活動を進めてきました。草の根技術協力事業は、書類作成や報告業務など細かな作業も確かに多いですが、団体のマネジメント能力向上や中長期でのステップアップには、これらは必要になるプロセスなので、「これだ!」という団体の中核事業を発展させたい思いのある団体には、有意義な外部資金だと思います。
 特に北海道については、市民団体・NGOセクターの方々の草の根事業へのチャレンジがもっと盛んになればと願っていますので、その点でも私たちの経験からお手伝いできることがあればしたいと思っています。