【草の根技術協力事業】実施団体の紹介&インタビュー「滝川国際交流協会編」

2022年1月14日

草の根技術協力事業とは、日本のNGOや地方自治体、大学、民間企業等の団体が、これまでの活動を通じて得た知見や経験に基づいて国際協力活動を提案し、JICAと協力して実施する共同事業です。今回は、モンゴルで草の根技術協力事業を実施している一般社団法人滝川国際交流協会(所在地:北海道滝川市)についてご紹介します。

モンゴル産の安定した玉ねぎ生産を目指して

お話をうかがったガンチメグさん(左)とモンゴル国植物農業研究所の研究員(右)

国際田園都市を目指す滝川市は、国際協力・交流に力を入れ、途上国からの研修員の受入など、草の根技術協力事業の他にも多くの事業に取り組んでいます。2020年10月から現在の草の根事業を実施している(一社)滝川国際交流協会は、玉ねぎや種子を外国から輸入することが多いモンゴルにおいて、玉ねぎを品種改良して輸入することなく種子から生産できるよう取り組んでいます。今日は、滝川国際交流協会のナンザド・ガンチメグさんにお話をうかがいました。

草の根技術協力事業をどのようにして知りましたか。なぜ応募しようと思いましたか。

打合せをするプロジェクト専門家

滝川国際交流協会は1990年に設立されて以来、世界の各国と交流事業を実施してきました。そして、2000年にアフリカのマラウイ共和国から研修員を受け入れ、2002年にJICA専門家を派遣したことがきっかけとなり、国際協力事業に取り組み始めました。現在までアフリカ諸国から東南アジア、中央アジアまで多数の国々から研修員を受け入れる等、国際協力事業を実施しています。
 カンボジアで草の根技術協力事業を実施した経験もありますが、今回モンゴル国で事業をしようと応募したきっかけは、2011年からモンゴルと交流していたことが背景にあります。
 2011年からモンゴルへ稲作栽培の技術移転を始め、研修員を受け入れ、専門家を現地へ派遣していました。その中で、来日した研修員から、「モンゴルでは玉ねぎの2年栽培手法が主流で、北海道のように育苗移植法による1年栽培を是非普及させたい」との声を何度も聞いていたことから、2017年~2020年に草の根技術協力事業(地域活性化特別枠)を実施しました。この事業は成功し、モンゴルにおいて、玉ねぎの育苗移植法による1年栽培技術が、緩やかですが広がりつつあります。この事業を展開する中で、現地の玉ねぎ種子のほとんどが輸入品で、国内の種子供給が安定していないことに気付きました。農作物の品質と生産量は種子(=遺伝)に大きく左右されます。そこで今回、草の根技術協力事業に応募・採択され、2020年10月にモンゴル国内で種子の品種改良・種子生産を行う大事業がスタートしました。

草の根技術協力事業を実施して良かったことは何ですか。

モデル農園の管理を行う現地業務補助員による育苗管理の様子

今まで草の根技術協力事業を実施して来た中で、一番良かったと思う瞬間は、やはり現地の人々の喜びの声を聞く時です。「誰かのためになれた」という感動は次の行動に繋がる重要な要素です。現在、私たちが取り組んでいる「野菜の品種改良・種子生産」事業は高度な専門性が必要で、モンゴルの研究機関や民間企業、農業組織等が中々深く研究できていない分野です。しかし、国内生産を進めるには、種子の品種改良・種子生産が重要な役割を果たします。近年、モンゴルでは野菜の国内生産は増加の傾向にあるものの、種子は90%以上輸入に頼り、供給が不安定な状態が続いています。このような課題を解決するために取り組んでいる事業ですので、現地の人々の賛同を得られる言葉を聞くたびに「取り組んで良かった!」と思っています。
 実施団体としては、事業運営マネージメントの面でJICAのサポート(指導)を受けながらの共同実施となりますが、実施団体と現地での人材育成が進められることが大きなメリットと感じています。長いスパンで見ると、草の根技術協力事業を開始した2016年当時と現在とを比較すると、私たちの事業計画を作成する能力や事業を運営管理する能力は大きくスキルアップしたと言えます。

草の根技術協力事業を実施する上で難しいことはありますか。また、昨年から新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けていると思いますが、どのように事業を進めていますか。

モデル農園に牧柵を設置する様子(2021年3月)

玉ねぎ畑となったモデル農園(2021年8月)

新型コロナウイルス感染拡大の中で、一番難しいと感じたことは、頻繁な移動規制と物流が滞ることで活動が遅れることでした。特に、私たちは農業分野の事業を実施していますので、適期に作業をすることは必須です。今年(2021年)は、モデル農園を作り、何も整備されていなかったジャガイモ畑の真中で牧柵を設置することから作業を始め、ビニールハウスの組み立て、井戸の掘削、貯水タンクの設置を行い、その傍ら苗床を準備し、播種、育苗、移植、潅水・栽培管理を行いました。そして秋には玉ねぎの収穫、選別、乾燥、貯蔵作業をすると共に貯蔵庫・格納庫の建設、電気供給設備設置の手配を行い、同時進行で様々な活動を進めました。一つの業務が遅れると次の作業に影響が出て、最終的に今年の目標である「現地で母球生産を行うこと」ができなくなる恐れがありました。頻繁な移動規制で資機材の納品が予定より遅れることが多々あり、調整が非常に大変でした。

しかし、「JICA」という名称が世界中に認知され信頼されていることに助けられたことがたくさんありました。モンゴル国内でも、JICAの事業なので協力しますと歓迎され積極的な協力を得ることもできました。例えば物流麻痺で、農機具の納品が滞っていたときも、農機具業者は真っ先に私たちに届けてくれました。「モンゴルのためなら私たちもできることで応援します!」とのコメントは印象に残っています。
 私たちの次のステップは、カウンターパートとの連携による現地農家や協力農家の選出と指導となります。そのためには専門家の現地派遣を含めた、直接指導できる環境を整えることができる情勢になることを切に願っています。

草の根技術協力事業に関心がある方へのメッセージ

モデル農園で収穫した玉ねぎ

たくさん収穫できました

草の根事業は、日本の各団体が長年培ってきた経験や知見、技術を生かしてJICAと共同で途上国の課題解決に貢献できる活動を支援する事業です。一方、カウンターパートである現地には大きな変化と前進をもたらし、人々を明るい将来へ導くことができる、夢と希望を生み出せる力がある事業でもあります。本当に実施したい事業、その情熱があれば迷うことなく取り組んで頂きたい、是非応募して欲しいと思います。

実際に事業を運営する上で、工夫することによってクリアできる問題から非常に困難な問題まで、多数の問題が次々と発生します。しかし、事業に対する情熱と希望に満ちていれば、必ず解決策も考え出せます。
 世界はあなたの能力、日本の技術を必要としています。あなたの団体だからこそ現地の人たちと共により良い未来を構築できるはずです。草の根レベルでの技術協力活動に一歩踏み出しませんか。