共に創る

【写真】鼻﨑 吉則(愛媛県)平成25年度1次隊/ニカラグア/小学校教諭
鼻﨑 吉則(愛媛県)

 知れば知るほど世界は広がる。学生時代から海外に興味のあった私にとって、青年海外協力隊の活動はとても魅力的でした。実は教員になる前に協力隊の募集に応募し、派遣が決定していました。しかし、現職教員特別参加制度があることを知り、日本の学校現場で経験を積んでからの方がより意義深いものになるだろうと考え、実務経験を経て参加するに至りました。

「交流」が変化を生んだ

先生たちと指導法を協議

公開授業

配属校の先生たち

教員養成校での授業

 ニカラグアでは、首都の小学校に在籍して算数教育に携わりました。活動当初は問題点ばかりが目につき、研修会や授業を行ってもなかなか変化しない状況に焦りを感じていました。しかし、共に過ごす時間が長くなるにつれ、私の考え方は「自分がなんとかしなければ」から、「前向きに算数の学習や指導に取り組みたいと思えるようにするためには、どんな支援ができるか」へと変わっていきました。知識や指導法を紹介するだけの研修をやめ、学年ごとに決めた重点単元の指導案作りを一緒に行うようにしました。教師同士が意見を交わす中で、指導のねらいや留意点が明らかになっていき、回数を重ねるたびに的確で建設的な意見も増えてきました。私がどんなに力説するよりも、教師自身が考え気付いたことがずっと残り続けていくのだと思います。「人に授業を見られるなんて絶対に嫌!」と言っていた先生方でしたが、私が任期を終える頃には全学年で公開授業を含めた授業研究までできるようになりました。「あなたへのお礼のつもりで授業をするわ」と言ってもらえたことは、何よりも嬉しかったです。その国にはその国の歴史や文化があり、同様に、人にもそれぞれの文脈があります。自分が正しいと信じていることを主張し合うだけでは、なかなか前に進めません。相手の在り方そのものを互いに尊重し合えたとき、新しい何かが生み出される。そんな大切な学びを得ることができました。
 現地の人との関係性を築きながら共に歩むことの大切さを実感する一方で、教員の根本的な知識不足に対しても、自分にできることはないかと模索しました。そこで始めたのが、所属先に隣接する教員養成校での補習授業です。ニカラグアでは、JICAが作成した算数の教科書が全国の小学校に配付され、指導力向上のための支援プロジェクトが行われていました。この教科書を基に、1~6年生の学力テストを同時期に活動していた隊員たちで作成していたので、まずはこのテストを学生に対して実施するよう養成校に提案しました。「学生の指導力が高まるなら、喜んで!」と歓迎され、養成校での活動もスタートしました。テスト結果からは、初等教育段階の知識が十分に身に付いていないことが明らかになりました。そこで、基礎から理解が図れるよう、小数や分数の考え方、面積や体積の求め方などの補習を週に1時間ずつ行いました。学生はとても前向きに授業に取り組んでくれ、学んだことをどんどん吸収していく姿に頼もしさを感じました。一通りの補習が終わった後に実施したテストでは、スコアの大幅な向上が見られ、さらなる成長の可能性が感じられました。
 ニカラグアは、かつて中米諸国の中でも特に発展した国だったそうです。しかし1972年に発生した大地震によって首都が大きな被害を受け、その後続いた内戦が国の発展を阻んだという歴史があります。現在学校で働いている先生の多くは、そんな時代の中で成長し、教師として歩んできました。配属先には、「私は13歳からこの仕事をしている。」と教えてくれた先生もいました。自身が十分に学ぶ機会を得られないまま、必要に迫られ教職に就いたのです。現地の先生方の知識不足も、こうした背景からの影響も大きいのではないでしょうか。非常に根深い課題に対して、私ができたことはごく僅かです。むしろ、協力隊の活動に参加して多くのことを学んだのは、私自身だったと感じています。「文化」という言葉の意味を辞書で調べると、「相互に交流し合うことで発展してきた」とありました。私が経験したことはまさにこれで、「交流し合う」ことに大きな意味があったのではないかと思います。何かを変えることを目的化するよりも、互いを尊重し合いながら新しい何かを生み出す。その起点となれるよう、これからも行動し続けたいと思っています。

続いているつながり、新たなつながり

アンケートで社会とのつながりを学ぶ

子どもたちがデザインしたパッケージ

 現地滞在中、そして帰国後も、日本の所属校と現地校との交流の橋渡しを行いました。互いの顔が見える交流は、子どもたちの心をぐっと海の向こうへ開いてくれます。そして、異文化と触れ合うことの喜びや楽しさを私自身の経験から子どもたちに語れることも、協力隊に参加して得られた大きな財産だと思っています。
 青年海外協力隊に参加したことがあると伝えると、学校では「国際理解教育が専門なんですね。」と言われることがあります。海外での生活や活動経験があるという面では間違いではないのでしょうが、私は少しの違和感を覚えます。ニカラグアで学んだのは、もっと普遍的なものだったと感じるからです。国や文化のレベルで語るだけでなく、一人一人の在り方・生き方こそ問われているのではないだろうか。誰もが当事者であり、起点になる可能性を秘めているはずだ。そんな思いから、帰国後はキャリアコンサルティングの勉強をしたり、2030SDGsカードゲームのファシリテーターとしての資格を得たりして、人や社会への関わり方の幅を広げられるよう努めています。もちろん、大いに楽しみながら。

 勤務する小学校では、5年生の総合的な学習の時間にSDGsに関する学習を行いました。1学期は外国の方々とのコミュニケーションを体験し、その楽しさや喜びを実感できるような活動をしました。2学期には、「世界がもし100人の村だったら」のワークショップを通して、世界的な課題に気付かせるところから始めました。そして、そんな課題を地球に住むみんなで解決するための目標としてSDGsがあることを伝え、SDGsを学習活動の中核に据えました。世界的課題をテーマにすると、日常生活とのつながりが実感しにくく、目的意識が抽象的になってしまうことがあります。SDGsと一人一人の在り方・生き方とつなげて考えられるようにするためには、どんな働きかけをすればいいだろうか。そう考えた末に、協力隊OV(ホンジュラス・25年度1次隊・小学校教諭)の今井さんの協力をいただくことにしました。
 今井さんは、愛媛県大洲市でホンジュラスのコーヒー豆のダイレクトトレードを行っています。テレビの特集映像やビデオメッセージを見て、どんな思いで生産者の顔が見える商品を扱っているかを知った子どもたち。コーヒーの試飲をしたときには、他の市販商品との香りの違いに驚いていました。そうしてダイレクトトレードのコーヒーが買われる理由を考えさせたところ、品質や安心・安全だけでなく、販売者や生産者の思いの重要さを感じたという意見がとても多く挙がりました。そこで、子どもたちが挙げた項目をまとめてアンケート用紙を作り、実際にお客さんがどのような理由で購入しているか、店頭で答えてもらえるように依頼してみました。1か月間店頭で実施したアンケートの結果を基に、売る責任・買う責任といった売買契約に関する内容や、商品を通じて自分が社会とどのように関わることができるのかを考えることができました。また、ドリップバッグを使う文化のないホンジュラスの人に向けて、今井さんがドリップバッグを届ける予定だと聞いたので、子どもたちがパッケージに絵やメッセージを描かせていただきました。一人一人が思いを込めて作った商品です。コロナ禍を乗り越え、いつか現地の人の手に届けられる日のことを、みんな楽しみにしています。こうした取組を通して、子どもたち自身が世界や社会とのつながりをより実感したり、一人の人間として自分にできることを模索したりするきっかけになることを願っています。