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【外国人材受入・多文化共生事業】オンラインセミナー「外国人材受入と地域との共生: 壁を超える!ためのヒント」パネルディスカッションレポート

2022年10月31日

加速する外国人材受け入れの現状。共生に向けて早期の取り組みを

4団体とJICA東北をつないで実施したオンラインセミナー

 官民をあげて外国人材受け入れ環境の整備、多文化共生の推進に取り組む昨今、外国人材の待遇や言葉の壁、文化の違いなど多くの課題もまた浮き彫りになっています。東北6県の外国人労働者数(厚生労働省に報告された外国人雇用者数)は2021年時点で約4万人と首都圏、中部、関西地方などに比べて少なく人口比率も低い状況ですが、労働力需要は増加の一方で、2040年には15.8万人と現在の約4倍に達するとの予測もあります。深刻化してから課題に気付くのではなく、企業や団体と地域コミュニティが連携し、多様な人々が共生できる環境を今から作っていくことが重要です。しかし双方からは「これまで接点や交流がなかったため、どのように取り組みを始めたらよいかわからない」という声が多く聞かれます。

 2022年7月にJICA東北と『責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(以下JP-MIRAI)』が共催したオンラインセミナー「外国人材受入と地域との共生:壁を超える!ためのヒント」では、こうした状況を打開するための有益な情報をお伝えしました。今回は当日のパネルディスカッションからその一部をご紹介します。

<パネリスト>
仙台出入国在留管理局 審査部門 九島 亮胤 首席審査官
公益財団法人 宮城県国際化協会(MIA) 大泉 貴広 総括マネージャー
公益財団法人 仙台観光国際協会(SenTIA) 須藤 伸子 国際化事業部長
JICA国内事業部(JP-MIRAI事務局担当) 奥村 真紀子 外国人材受入支援室長
※肩書及び所属はセミナー開催当時のものとなります。

生活習慣、交通ルール、防災情報……自治体や企業で活用できる多言語資料

生活に役立つ多言語資料の紹介

 日本人と外国人が共に安心して暮らすためには、日本の生活習慣やルールなどの理解が欠かせません。このとき役立つのが、各機関が発行するさまざまな多言語資料です。すでにあるこうした資料を活用すれば、各自治体でガイドラインなどを一から作成する負担を軽減できることがあります。

 九島審査官は、行政手続きのほか教育や医療、交通ルールや生活に関するルールなども記載した『生活・就労ガイドブック』(出入国在留管理庁)について、「やさしい日本語版も含む17言語版があり、各自治体でローカル版を作成する際に利用することも可能。出典の記載や、出入国在留管理庁ホームページにある留意事項を守って、ぜひ活用してほしい」と助言しました。

 MIAの大泉マネージャーは6言語に対応した『防災ハンドブック』(宮城県)を紹介し、「塩釜市では、産業振興担当部署の職員が、外国人を雇用する企業に雇用状況を聞き取りに行く際に持参するなどしている」と活用例を示しました。須藤部長はSenTIAのホームページについて「生活に関する各種情報をテキスト資料と一部YouTubeの動画で公開している。動画についてはDVDの用意もある」と紹介しました。

「直接会ってイメージが変わった」交流事例から見える相互理解の要

MIAが紹介した多賀城市での市民と技能実習生交流の様子

 セミナー参加申込時のアンケートでは「最も興味があるテーマ」として、「日本人と外国人の相互理解、地域との交流の取り組み例やサポート」が挙げられました。九島審査官が紹介したのは、インドネシア人実習生を約120名受け入れていた、ある漁協組合の事例です。当時は外国人というだけで警戒心を持たれる状況だったため、組合は実習生に「10人以上で外を歩かない」「住民に挨拶をする」といったことを細やかに指導し、地域のスポーツイベントなどにも積極的に参加して交流を重ねたといいます。さらに、実習生たちはバンドを結成し、地元の福祉施設や学校、祭りなどを訪問するようになります。この演奏による地域貢献は新聞にも取り上げられ、住民の警戒はいつしか信頼へと変わったそうです。

 大泉マネージャーは、宮城県内での交流会の事例を数多く紹介し、「技能実習生はネガティブなイメージを持たれることもあるが、交流会に参加した日本人からは“直接会ってイメージが変わった”との声が多い」と、実際に顔を合わせ言葉を交わすことの価値を伝えました。

法人でなくても利用できる、イベント開催時の助成金

SenTIAもさまざまな活動で交流を支援

 こうした交流の機会づくりには、助成金を活用できることもあります。MIAでは多文化共生関連のイベントを実施する民間の団体に対し、資金面の援助を行う助成金事業を行っています。大泉マネージャーはベトナム人コミュニティが主催する日本語教室を支援した例を挙げ、「基本的に民間団体が条件だが、その事業のために立ち上げた実行委員会形式の取り組みも対象になる。イベントを考えているようなら、対象になるかぜひ相談を」と説明しました。同じく助成金制度を持つSenTIAの須藤部長は、過去に外国人と近隣住民の間でトラブルが起こった際、町内会や区役所などと協力して交流の場を設け、解決につなげた事例を紹介し「地域団体と外国人コミュニティの連携のお手伝いができれば」とメッセージを送りました。

国籍を越えた共生社会の実現を、各機関の窓口も力強くサポート

セミナーでは「壁を越える」をテーマに多岐にわたる情報を届けた

 パネルディスカッションの最後に奥村室長が「外国人は地域に活力を生み出す存在でもある。多様なバックグラウンドを持った人がいることが、地域の活性化に結び付く」と語った通り、日本人と外国人は共に社会の担い手です。JICA東北の小林雪治所長も「今回は各機関の支援、相談窓口について網羅的に紹介した。各窓口やJICA東北をぜひ活用してほしい」と呼びかけました。

 セミナー終了後に行ったアンケートでは、参加者からさまざまな感想が寄せられました。「支援のリソースを把握することができた」「自分が暮らす地域と状況が類似していた。今後の活動の参考にしたい」「社内での外国人労働者の責任者として制度の再確認のために参加したが、新しく理解できた部分もあった」など、それぞれに関連する情報を役立てていただけたようです。

最後に、今回登壇した4団体が運営する在留外国人関連の相談窓口やサポートについて、それぞれの特色をご紹介します。当記事末の「関連リンク」と合わせて、問い合わせの参考にしてください。

■出入国在留管理庁
『外国人在留支援センター(FRESC)』(東京)
4省庁8機関がワンフロアに入居し、在留資格、労働問題など複数分野にまたがる問題をワンストップで相談できる。

『外国人在留総合インフォメーションセンター』
入管に関する制度案内、提出書類、申請書の記載方法など、出入国手続き全般について多言語で対応。「相談先がわからない」といった場合も話を聞き、適切な相談先を案内する。全国どこからでも電話相談可。仙台出入国管理局内にも相談窓口があり、対面での相談対応を行っている。

『専門相談会』への相談員の派遣(定期:仙台、山形 不定期:青森、秋田)
地方入国管理局の職員を派遣し、出入国手続きや在留資格などに関する相談に対応する。青森では、入管以外にも労働局や弁護士会などの専門機関が集まり、各種相談対応を一元的に行うワンストップ型の相談会を実施している。

■宮城県国際化協会(MIA)
『みやぎ外国人相談センター』
宮城県内在住の外国人から寄せられる各種相談に対応。医療機関や公的機関からの要請に基づき、通訳サポーターの派遣も行う。例として、雇用主とのトラブルは労働基準監督署に連絡し、必要な場合は通訳サポーターを派遣。また、新型コロナウイルスのワクチンを接種したいときには保健所や医療機関と調整。

■仙台観光国際協会(SenTIA)
『仙台多文化共生センター』内の相談窓口
仙台市内在住の外国人から寄せられる各種相談に多言語で対応。外国人相談員も在籍。また、入管のほか、労働局、弁護士、行政書士、税理士などと協力した専門相談会を定期的に行っており、空きがあれば仙台市外からでも利用できる。

■責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(JP-MIRAI)
『JP-MIRAIアシスト』
外国人労働者を対象に、生活・教育・行政・心身の健康などさまざまな相談に対応。企業の人権の取り組みも支援する。
中立性・独立性の高い救済メカニズムを目指し、まずは2023年3月までのパイロット事業として2022年5月に始まったばかり。実例はまだ少ないが、日本での住居探し、在留資格、労働問題についての相談のほか、公的機関には相談が難しい状況にいる外国人からの問い合わせも寄せられている。