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【外国人材受入・多文化共生事業】震災復興から見る、さまざまな国際協力の形/国際協力セミナー「ネパールと宮城の絆~国際協力と共生をともに考えよう~」

2022年4月26日

実は身近なところにもある、多様な“国際協力”

日・ネパール留学生交流120周年記念ロゴ

 2022年2月26日、国際協力への理解・関心の向上を目指しJICA東北と公益財団法人宮城県国際化協会(MIA)が共催する『国際協力セミナー』が、コロナ禍を経て2年ぶりに開催されました。今回のテーマは「ネパールと宮城の絆」です。

 2022年は日・ネパール留学生交流120周年。本セミナーも外務省『2022年日本・南西アジア交流年周年事業』の認定を受けて実施しました。認定後、セミナーのご案内、資料、報告に公式ロゴを使用しました。

講師のアルンさんとハリさん。二人とも日本で暮らして10年以上になります。

講師の塚原専門家はネパールから参加

 ヒマラヤ山脈を生んだ大陸プレートの上に位置するネパールは、日本と同じ地震国。2015年にはマグニチュード7.6のネパール地震が発生し、甚大な被害をもたらしました。日本は東日本大震災をはじめとする災害の経験をもとに、ネパールの復興を支援しています。さらに宮城県では近年、留学生の受け入れ増加などから、県内に暮らすネパール人が急増しています。その数は2021年時点で約1,600人、2013年と比べると約8倍にもなります。MIAはセミナーの背景について「このようにネパールと宮城県の関係が深まっているものの、市民の間での身近なネパール人に対する理解が十分ではない印象がありました。そこで今回はネパールを題材に開催できないかと企画を立ち上げました」と説明。JICA東北の増田徹職員も「今回は従来の『海外での支援』に加えて、国際協力のもう一つの形である『身近な外国人との相互理解や多様な住民の共生』にも焦点を当て、二つの切り口でのプログラム作りを進めました」とテーマの意図を語ります。
 オンラインでの開催となった今回、講師を務めたのは、日本とネパールで異なる立場から国際協力を実践する3名です。参加者も宮城県内だけでなくネパールや国内外の各地から申し込みがあり、45名が画面を通して講師の話に耳を傾けました。

震災を通して実感した、国籍を超える人と人とのつながり

東日本大震災で被災住宅の片付けを手伝うアルンさん

 一人目の講師、ドゥワディ・アルンさんは、子どもの病気の治療のため2007年に家族で仙台へやってきました。言葉の壁による苦労、みやぎ外国人相談センターの相談員や外国人支援通訳サポーターを務めた経験、ネパール地震の際に行った募金活動など、さまざまな体験談の中で、特に印象的だったのが東日本大震災でのエピソードです。「子どもを病気から救ってくれたことに何か恩返しをしたい」との思いもあり、災害ボランティアとして活動したアルンさんですが、被災者の中には外国人のボランティアを見慣れない存在と感じる人も。ある高齢の女性被災者宅を訪ねたときには「なぜこんな時に外国人が?」という戸惑いが見えたといいます。しかし二度、三度と交流を重ねるうちに関係は変化。女性とも徐々に打ち解けることができ、「頂いた手作りのたくあんがとてもおいしかった」と思い出を語ってくれました。これから来日する外国人へ向けた「地域社会になじむためには、日頃から顔を合わせることが一番大切」という言葉は、人と人とのつながりの本質を表しているように感じられます。

「コロナ禍の医療現場を助けたい」ネパール人の思いから実現した献血活動

ハリさん自身も献血に協力

 続いての講師は、海外在住ネパール協会(NRNA)日本支部(仙台)で理事長を務めるシュレスタ・ハリ・ゴパルさんです。NRNAは海外に住むネパール人を支援するネパール政府公認団体で、特に昨今のコロナ禍では「PCR検査はどこで受けられるのか」「コロナ関連の情報が日本語ばかりでわからない」など数多くの相談があったといいます。

 そうした相談とともに寄せられたのが「献血をしたいがどうしたらよいか」という問い合わせです。交通事故が多いネパールでは、日本に比べて献血が一般的なのだそう。コロナ禍による血液不足を報道で知ったネパールの人たちが、「協力したい」と声をあげてくれたのです。これを受け、ハリさんは2021年8月に献血活動を実施。仙台の街中に用意した献血車を訪れた参加者は60名にもなりました。「心と心をつなげる活動がしたい」と語るハリさん。コロナ禍の近況を通し、「助けられるだけでなく、困っている人の役に立つ存在でありたい」と積極的に行動するネパールの人たちの姿を伝えてくれました。

元に戻すのではなく、新たなビジョンを。ネパール地震の復興を支える東松島市の貢献

2019年に東松島副市長らがネパールで行ったセミナーの様子。相互の情報共有は現在も続いています

 最後に登壇したJICAネパール事務所の塚原奈々子専門家は、JICAが取り組むネパール地震の復興について語りました。復興支援の柱となるのが『より良い復興(Build Back Better/BBB)』の理念です。“災害前よりも災害に強い状態に再建する”という考えで、2015年に採択された『仙台防災枠組』の指針に基づいています。

 現在、建物の再建などハード面の復興がほぼ完了したネパールでは、生計回復や共助の仕組みの構築などが大きな課題となっています。そうしたソフト面の復興のために宮城県東松島市は、地方自治体として東日本大震災からの復興を担ってきた経験を生かし、さまざまな知見やノウハウをネパールの自治体へ共有してきました。2019年に東松島副市長と宮城県議員が現地を訪問した際、キーメッセージとして伝えられたのは「失ったものを元通りに戻すのではなく、新しいビジョンを住民参加型で議論し、新しい街づくりを実践していく」ということ。塚原専門家は、日本の災害復興から学べるメッセージとして「復興は災害に強い社会を作るための中長期的なプロセス」を挙げ、これからも教訓を生かしてネパールの復興を支援していきたいと語りました。

セミナーから生まれる新しい交流の芽

2016年の国際協力セミナー。今後はオフライン開催の再開も期待されます

 3名が示した多様な国際協力に対する参加者の関心は高く、質疑応答では多くの質問が寄せられました。開催後のアンケートでは「宮城に住むネパールの方が身近に感じられた」といった感想も。国際協力への参加方法についての問い合わせもあり、新たな交流も生まれそうです。

 JICA東北の佐藤智子国際協力推進員は「申し込み時からネパールや宮城への思いを綴ってくださる参加者が多く、うれしく思っています。開催後には次回に向けた要望もいただきました」とセミナーの熱量の高さを振り返ります。JICA東北ではこうした声を反映し、国際協力を幅広い視点で考える機会を今後も提供していく予定です。
 宮城県内でネパール人を含む外国人住民との交流や外国人住民へのサポートに関わりたい!と思われた方は下記のリンク等をご参照ください。
その他、ネパール料理店、ネパールのお茶やコーヒー、食品や雑貨を取り扱うお店が宮城にもたくさんあります。検索サイトなどからお近くのネパールスポットを探し、足を運んでみてはいかがでしょうか。