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【課題別研修スポーツを通じた障害者の社会参加の促進】卓球バレーが運ぶ笑顔の絆/ウズベキスタン・ショフルク帰国研修員の活動

2023年3月10日

ウズベキスタンの療養所で「卓球バレー」が人気の理由

チナバット療養所で卓球バレーが楽しまれている様子

ウズベキスタンのチナバット療養所では、卓球バレーという日本発のインクルーシブスポーツが大人気です。内部疾患や脳卒中の患者、高齢者が療養するこの施設で、患者やその家族、また医療従事者が6対6に分かれ、白熱したゲームを繰り広げています。
1台の卓球台を囲むように配置した椅子に腰を下ろし、手にするのは長方形の木の板。これをラケットとして使い、ピンポン玉の中に鉛が入ったカラカラと音の鳴る球を打ち合います。チームで巧みにパスを回し、ネット下を通過させて相手コートに返球。夢中になって球を追いかけ、ラリーの度に歓声があがり、笑顔がこぼれます。

チナバット療養所内に新たに設置された卓球バレールーム

卓球バレーをこの療養所のアクティビティに取り入れたのは、JICA帰国研修員のエルキノフ・ショフルクさんです。ショフルクさんは、2017年に来日し「スポーツを通じた障害者の社会参加の促進」という課題別研修を受講しました。当時体育大学で教師をしながらチナバット療養所で長くボランティア活動を続けていたショフルクさんは、視覚障害のある知人のために複数人が乗れるタンデム自転車の活用法を知りたいと研修に参加しました。

日本の知見を自国へ持ち帰り、精力的に活動して得られた目覚ましい成果

ショフルクさんが参加した2017年の来日研修の様子。講師から指導を受けるショフルクさん(写真中央)

ショフルクさんが受講した2017年度の来日研修は約1ヶ月の日程で開催されました。
研修の目的は、スポーツを活用した障害者の社会参加促進のために、指導者の育成や自国で適用可能なインクルーシブスポーツ等の各種ルールに関する知識獲得などを目指すもの。
充実した座学はもちろんのこと、視察や見学も豊富で障害者スポーツの大会見学やボッチャ、フライングディスク、そして卓球バレーなど多くのインクルーシブスポーツが紹介されました。

「世界最高のプログラムを受講でき、とても良い経験ができました。障害者のリハビリや最新機器の使用法、社会参加を目的としたプログラムの作成方法を学ぶことができ嬉しく思います。日本が過去の経験から学んだ理論的、方法論的、実践的なスキルや貴重なノウハウをしっかり自分のものにしたい。教えてもらったスポーツの中で、特に卓球バレーとブラインドサッカーは私の国でもすぐに使えそうです」とショフルクさんはその高い満足度を当時のアンケートに記しています。

テレビで卓球バレーについて解説するショフルクさん(写真提供:UZREPORT TV)

積極的に卓球バレーの魅力をPRしています(写真提供:UZREPORT TV)

帰国後、さっそく卓球バレーの導入に取り組みました。小・中学校には必ず卓球台が備えられているほど、ウズベキスタンで卓球は身近なスポーツ。
「ジムで行うような機能回復運動は反復的で楽しみを見出すことが難しいですが、卓球バレーはチーム競技であり、コミュニケーションを生み、緊張感や高揚感、リラックス、達成感も感じられます。」と卓球バレーの魅力を語るショフルクさん。
チナバット療養所に卓球バレーを取り入れたところ、楽しいという意見はもとより、患者の思考力や分析力、記憶力が伸び、手指の神経的な運動能力が向上するという喜ばしい効果が観察されました。

その後もショフルクさんは、普及に向けた取り組みの中で新たな課題を日本の研修講師へメールで相談したり、帰国研修員のSNSグループへ進捗を報告したりと熱心に活動を進めました。さらに、全国放送のテレビ出演を通して卓球バレーの効果をPRしたり、障害者スポーツの普及に関わる活動経費を応募して獲得したりと学びを活かしたアピール力にも目を見張るものがあります。

ウズベキスタンにおける障害者の社会参加支援によって生まれた、日本との新たな絆

2019年のウズベキスタンでのフォローアップ研修で卓球バレーの審判を務めるショフルクさん

2019年のウズベキスタンでのフォローアップ研修の様子

ウズベキスタンでは、1991年の独立以降、民主化と経済発展が進む一方で社会サービスの低下や都市と地方の格差拡大が課題となっています。
特に不利な立場に置かれる社会的弱者層の自立支援を重点課題としており、障害者の社会参加促進に対する協力が求められています。障害者はいまだに家族による介助が一般的であり、自立に必要な公的交通機関へのアクセスは容易ではなく、根強い偏見や差別も存在しています。
政府は、障害者を含む多様な人々に対して質の高いサービス提供に向けた改革に取り組み、障害者の社会参加を推進しようと力を注いでいます。

ショフルクさんを含めた帰国研修員の精力的な活動を支援するため、2019年にJICA東北はウズベキスタンでのフォローアップ研修を開催しました。
2017年の研修でも講師を務めた一般社団法人コ・イノベーション研究所の橋本大佑代表理事、日本卓球バレー連盟の堀川裕二副会長、JICA東北の井澤仁美職員が現地に赴きました。
ショフルクさんをはじめとした帰国研修員や関係先へのインタビュー、現場視察を通じて、行動計画の実現に向けた改善策を提案し、また障害者スポーツにかかわるセミナーの開催を通じて、関係先への理解促進を支援しました。

「フォローアップ研修のおかげで新たな技術や知識が得られ、よりアクティブに活動できるようになりました。専門的な見識を有する日本に対しての大学側の反応も良く、注目も得られるように。また、新たにサムスペルという競技を教えてもらえたり、卓球バレーの用具を寄贈してもらったりして、普及を続けるモチベーションも向上しました」とショフルクさんは話します。

卓球バレーの研究と普及を続けることで、障害者の社会参加を促進したい

研究に勤しむラシッドさん

コロナ禍を経てもショフルクさんの活動は衰えません。
療養所での週に一度の卓球バレーは、患者や利用者だけなく、その家族や医療スタッフの楽しみとなっています。親子で参加しコミュニケーションを図ったり、緊張感の中で仕事をしているスタッフの癒しになったりする一方、脳卒中の患者の認知能力の向上や身体障害者の可動域増大などの効果も得られており、医師の協力のもとエビデンスを揃えています。

同じ帰国研修員でアスリートとパラアスリートの機能的診断における主席研究員であるラシッド・ブルナシェブさんと協働して行う、卓球バレーを活用する患者らの人体への効果の研究にも前向きです。身体文化スポーツ学術研究所所属のラシッドさんと協力することで、日本でもあまり進んでいない卓球バレーの学術的研究を推進し、卓球バレーの効果を客観的に証明しようとしています。彼らの研究により、ウズベキスタンでは、今後卓球バレーが医療や福祉の現場を含め、広く地域での導入が進むかもしれません。

さらにウズベキスタンに卓球バレー連盟を作ることも大きな目標の一つです。日々、インクルーシブスポーツの指導者育成や大会の開催、障害者団体との連携に向けて取り組んでいます。「ウズべキスタンでのインクルーシブスポーツの普及はまだまだ道半ば。障害者の社会参加のため、私が卓球バレーの第一人者となりさらに普及を進めていきます」と前向きに語ってくれました。JICAではショフルクさんを含め、帰国研修員の積極的な活動を今後も支援していきます。