【課題別研修】スポーツを通じた障害者の社会参加の促進(A)/フォローアップ研修をタイで開催

2022年12月26日

障害者の社会参加ツールとして、スポーツが果たす役割

過去の課題別研修の様子

「インクルーシブスポーツ」をご存じでしょうか。障害の有無や年齢、性別などを問わず誰でも楽しめるスポーツを指し、ボッチャ、フライングディスク、体を使った簡単なアクティビティと多岐にわたる運動種目が考えられます。JICA東北では、インクルーシブスポーツを含めたスポーツを活用した障害者の社会参加促進を目指し、アジアやアフリカ、大洋州などの幅広い地域から研修員を日本に招いて『課題別研修 スポーツを通じた障害者の社会参加の促進』を実施してきました。

参加国では、障害者がスポーツに参加できる施設や用具、環境が十分でなく、改善資金も不足しているケースが多く見られます。障害者の社会参加の重要性に対する認識も低く、障害のある子どものサポートや教育に保護者が協力的でない、ということも珍しくありません。
研修ではこうした課題を踏まえ、障害の社会モデルの理解から、インクルーシブスポーツのルールや指導法、啓発のあり方まで幅広い知識や技術を学びます。研修員たちはそれをもとにアクションプランを作成し、自国での実践を目指します。

帰国研修員を主な対象とした、タイでのフォローアップ研修

セミナーの様子。風船を使ってインクルーシブなアクティビティを学ぶ

フォローアップ研修は、課題別研修を終え自国で活動する帰国研修員のアクションプランの進捗確認や目標達成のサポート、課題別研修の改善点の検討を目的に行われるものです。2022年度は10月11日から22日にかけてタイ・バンコクにて開催され、課題別研修を受託し、自らも講師を務めた一般社団法人コ・イノベーション研究所の橋本大佑代表理事とJICA東北職員が現地に向かいました。さらに今回は、コロナ禍で遠隔開催となった2020・2021年度の課題別研修の実技指導を補足するため、タイ、マレーシア、ラオス、ウズベキスタンで活動する5名の帰国研修員も参加しました。

研修では6日間にわたり『指導者・コーディネーター育成セミナー』を開催。バンコクを拠点に活動する『アジア太平洋障害者センター(APCD)』の全面協力で実施されたこのセミナーには、帰国研修員に加えAPCD職員や自閉症児支援を行うAPCD関連団体の職員も参加し、計14名が講義やディスカッション、実習を通して、インクルーシブスポーツの実技や指導法、事業計画の策定、障害者に関する認識改革のための教育・広報戦略などについて学びました。

サイドイベントの様子。インクルーシブスポーツの重要性を世界に伝えた

10月20日には、セミナーでの学びを世界に発信する貴重な機会も。この時開催されていた『国連アジア太平洋障害者の十年』に関する政府間ミーティングのサイドイベントで、インクルーシブスポーツについて、世界に向けて発表を行ったのです。オンラインで登壇した研修員たちは、競技の紹介やデモンストレーションのほか、課題別研修後の自国での事例も発表し、インクルーシブスポーツの理解促進に貢献しました。

皆で楽しめるスポーツイベントを開催! マレーシアの活動事例

白熱の車いすレースなどで盛り上がったスポーツカーニバル

帰国研修員の自国での事例として紹介したいのが、マレーシア政府の女性・家族・コミュニティ開発省、社会福祉部・障害者部で部長補佐を務めるノラズミイ・ビン・アデナンさんの活動です。2021年度の課題別研修に参加後、自身の子どもが自閉症であるとわかったノラズミイさんは、「娘が楽しめるスポーツ大会を開催したい」との思いから、研修で得た知識を生かしてイベントを企画。2022年10月8日に『スポーツカーニバル』を開催しました。障害の有無に関わらず、皆で参加できる競技やルール、環境を整備したカーニバルには200人もの参加者が集まり、車いすレースやeスポーツ、ゲーム感覚で行うフィットネス種目など、多彩な競技を楽しんだそうです。

研修の閉講式で修了証書を手にする研修員たち

この直後に参加したフォローアップ研修は、ノラズミイさんのさらなるステップアップにつながりました。実技を習得したことで目標が明確になり、見直したアクションプランにはインクルーシブスポーツの具体的な活用を盛り込みました。「研修を通して、ネットワーキングやコラボレーションによってアイデアを実現していくことの重要性を学んだ」とも語り、長期的には大学や関連省庁、日本の卓球バレー連盟など、目的に応じたあらゆるリソースとの協力で活動の可能性を広げていくことも計画しています。

開催地タイの現状から見えた、今後の取り組みへのヒント

センターの子どもたちと卓球バレーで交流。1チーム6人で球を転がし、3打以内で相手コートへ返す

セミナーでは、タイにおける好事例として『ノンタブリ県自閉症啓発・開発センター』の視察も行いました。
訪れたセンターでは、過去にJICA研修で日本の専門家から卓球バレーを学んだ職員が施設のカリキュラムに卓球バレーを導入していました。

障害者もいきいきと働くカフェ。山崎製パン㈱が導入を支援したパン製造器具も使用されている

交通渋滞が深刻な課題となっているバンコク中心部

そこには、卓球バレーの習得を通してルールを学び、できることを増やし、それを自信に変えていく子どもたちの姿がありました。自らの能力に自信を持つことは、障害者が自立を目指すうえで非常に重要です。職員たちも、個々の認知や習得状況等のレベルに合わせてインクルーシブスポーツならではの要素をうまく活用しており、学びの多い視察となりました。

一方、タイの現状に目を向けると、障害者も働く洗練されたカフェなど先進的な取り組みが一部には見られるものの、都市部と地方で受けられるサービスに差があったり、交通インフラが全ての人にとって使いやすいものではなかったりと、障害者の社会参加には課題も残されているようでした。こうした現地のありのままの姿も、課題別研修をより実践的な内容に発展させるヒントになります。

寄贈された用具も早速活用インクルーシブ社会の実現に向けて取り組みは続く

マレーシアで、地域の先生たちを対象に指導者研修を開催するノラズミイさん

フォローアップ研修を通し、帰国研修員たちはより発展的な活動を行っていくための知識やスキルを身に付けました。その実現を後押しするのが、JICA東北からの用具の寄贈です。学びを自国ですぐに実践できるようにとの思いで行ったもので、研修後には「早速活動に役立てている」とのうれしい報告もありました。

研修に同行した井澤仁美職員は「アジア地域で同じ目標に向けて取り組む仲間ができたこと、自国での取り組みのための具体的なツールや手段を手に入れたこと、目指す目標が明確になったことは大きな成果」と話します。誰もが取り残されないインクルーシブ社会の実現に向け、JICA東北としてもますます取り組みを充実させていく意気込みです。