世界の労働者を守るために!~研修事業を通じて、私たちは何ができるか~

今日、労働災害の被災者は世界で年間3億人以上といわれています。課題別研修「労働安全衛生—制度構築から具体的対策まで—」では、労働安全衛生政策の企画・立案や企業に対する指導・支援を行う行政官を対象に、日本の労働安全衛生の経験をもとに行政制度や企業支援の方法、取組事例についての遠隔研修(オンデマンド研修とオンライン研修)を実施しました。

2022年3月22日

世界の労働者の安全と健康を守るために!

 「労働安全衛生」という言葉からみなさんどのようなことをイメージされますか?
労働安全衛生は、労働環境における安全・健康を守ることを目的としたものです。日本では、1972年に「労働安全衛生法」が定められ、労働災害防止計画・措置や管理体制、危険物から職場環境、メンタルヘルスまで広範囲にわたって労働者の安全と健康が法律により守られています。

 1980年以降の工業化の急速な進展に伴い、開発途上国では、急速な経済発展によって労働災害が増加しました。今日、労働災害の被災者は世界で年間3億人以上といわれています。1日あたり86万件の労働災害が発生し、年間約200万人が、業務関連の事故や疾病で命を落としており、そのため多くの国々で急速な労働安全衛生政策の立案および実施が求められています。

遠隔研修の様子(開講式)

遠隔研修に参加する研修員(ヨルダン)

 課題別研修「労働安全衛生—制度構築から具体的対策まで—」では、労働安全衛生政策の企画・立案や企業に対する指導・支援を行う行政官4名(カンボジア1名、ヨルダン3名)を対象に中央労働災害防止協会(JISHA)のご協力を得て2021年11月25日から2022年2月17日まで遠隔研修(オンデマンド研修+オンライン研修)を実施しました。
 本研修は、「労働安全衛生セミナー」として1974年より開始して以来、47年間実施されており、アジア、中東、大洋州などから約600人の研修員を受け入れ、日本の労働安全衛生に関する行政制度や企業支援の方法あるいは企業の取組事例等、これまでに培ってきた日本の労働安全衛生分野の経験やノウハウを、講義だけでなく実習を通じて幅広く学びます。
 今年度は、昨年に続きコロナ感染拡大により来日研修の実施が難しいため、遠隔研修で実施しました。

充実したライブ講義と工夫された参加型プログラム

 本研修は、遠隔研修としてオンデマンド教材とオンライン(ZOOM使用)を活用して実施しました。研修員は、オンライン講義の前にテキストや動画を使用して事前学習を行いました。主には、日本の労働安全衛生に関する施策や体制および企業で実践されている労働安全衛生対策、日本の労働安全マネジメントシステムの有用性について学びました。また、学習だけではなく、実際に講義で解説するストレスチェックや安全行動調査といった実際に日本の法律や企業で採用されている安全衛生管理の方法を実際に体験する演習も課題として組み込みました。

保護具の講義

「心と体の健康づくり」の講義

発表する研修員
(左:ヨルダン 右:カンボジア)

 オンライン研修では、オンデマンド教材で学習したことについて更に詳細な内容の講義を行いました。講義では講師からの一方的な講義にならないように、途中、質問や演習の時間を組み込み工夫しました。中でも参加型のプログラムとして「心と体の健康づくり」の講義では、仕事の合間にオフィスでできる簡単エクササイズや、腰痛防止のストレッチ、シナプソロジー(左右で違う動きをする動作)を取り入れたアクティビティ等を実施しました。研修員も終始和やかな雰囲気の中、実際にエクササイズを試すことができ、リラックスしながら「心と体の健康」について学べたようでした。
 保護具の講義では、講師に実技の時間を用意いただき、マスクのフィット具合を図る機械(MNFT: Mask Inner-Pressure Fitting Tester)を使った実習を行いました。この機械によっていかにマスクから漏れがあるかモニター画面で共有して確認を行いました。昨今のコロナ感染の影響により研修員もマスクについてとても興味を持っており、多くの質問が飛び交いました。
 オンライン研修では、研修員の発表の場もいくつか設けました。その一つとしてカントリーレポート発表では、自国の労働安全の状況を発表しました。2つ目にアクションプラン発表として、本研修で学んだことを活かし、職場での活動目標について発表しました。ヨルダンの研修員からは、「職場におけるゼロ災害にむけてのリスク認識」、「火災防止および火災発生の際の安全システムの強化」、「児童労働におけるリスクアシスメントの啓発」をテーマに、カンボジア研修員からは、「労働者の事故や危険に対しての意識強化や、より良い職場環境のためのトレーニング」について発表しました。また、発表は、公益財団法人大原記念労働科学研究所の小木和孝先生と佐野友美先生から助言をいただきながら進めました。

誰もが安心・安全な職場環境で過ごせる未来に向かって 

アクションプラン進捗レポート(カンボジア)

職業訓練所の様子(ヨルダン)

 アクションプランの発表から約2か月後の2022年2月17日にアクションプランの進捗成果状況について発表しました。研修員は遠隔研修終了後に職場に戻り、自身の計画したアクションプランの実行に向けて活動を開始しました。
 ヨルダンのナジールさんは、職業訓練所のトレーニングオフィサーであり、「職場におけるゼロ災害にむけてのリスク認識」をテーマに職場において安全委員会を形成し、コロナ禍における職場の衛生環境改善のために啓発ポスターを作成しました。今後、職業訓練所にて安全訓練を実施する予定です。
 カンボジアのソティリさんは、「労働者の事故や危険に対しての意識強化やより良い職場環境のためのトレーニング」をテーマに州の労働安全衛生スタッフに対して2回のTOT(Training of Trainers)を計90名に対して実施しました。今後も毎月ToTを実施していく予定です。

 昨今のCOVID-19の影響により職場におけるCOVID-19対策が各国で課題となっています。また、在宅勤務が増えたことによる労働者のメンタルヘルスケアの重要性も注目を浴びています。研修員は今まで以上に様々な課題に立ち向かっていくこととなります。
 JICAは世界の労働者が安心・安全な職場環境で過ごせるよう、技術協力を継続していきます。