医療サービスの質向上に関するウェブフォーラムを実施!

日本の質管理手法の知恵が開発途上国の医療現場でも活かされ、働きやすい職場環境づくりによる患者への医療サービスの質向上に役立っています。

2021年9月14日

世界の医療現場に発信される日本の知恵

遠隔で行われた2021年度の研修の様子

 医療現場では、患者の健康や安全を守るために物品の適切な維持管理や作業の効率化が不可欠です。日本が発信する、安全性の確保と業務の効率を高めるための取り組みである5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)、カイゼン(KAIZEN)、TQM(Total Quality Management)は、このサービスの質向上を達成するための有効な手段の一つです。これらの質管理活動は、元々は日本の製造業で発展した品質管理手法であるため、生産現場で行われることが多いですが、医療現場でも事故防止や医療の質向上、医療従事者や患者の満足度向上に役立てられています。

 JICA東京センターが実施する研修「カイゼンを通じた保健医療サービスの質向上」では、日本のカイゼンに関する実践事例を紹介し、カイゼンを用いた医療サービスの質改善にあたり必要となる知識や課題分析能力、リーダーシップの強化を行っています。医療サービスの改善に従事する病院関係者や行政官を対象とした本研修には2010年からこれまでに、アジア、大洋州、アフリカ等様々な国と地域から合計287名が参加しています。

フォーラムにて世界中の100名の参加者と学びあい

ウェブフォーラムのチラシ

 本研修における初めての試みとして、8月30日に帰国研修員と本年度の研修員を対象としたウェブフォーラムを開催しました。新型コロナ対応等で忙しい中、世界中から約100名の参加がありました。フォーラムでは、帰国研修員からの自国での活動発表とパネルディスカッションが行われ、これまでの各国における取り組みから得た成果や教訓を学びあう場となりました。

 帰国後の活動発表では、研修での学びを持ち帰り実践した際の活動内容や課題が共有されました。質向上についての活動計画を病院に共有し活動予算を得た参加者や、質管理活動の導入により、期限切れ物品や消耗品の過剰在庫などを整理し、職場環境を改善した参加者がいました。

 中には、質管理を監督するユニットを設立し、病院スタッフへのトレーニングを行った研修員もいました。また、ウガンダの病院では部門間で活動の好事例を共有するための定期的な会議を導入したそうです。質管理活動により病院サービスが向上され、予定通りに退院する術後患者率がなんと80%以上改善されたというタンザニア参加者からの驚くべき報告もありました!

 活動の課題としては、環境の変化や事故報告への抵抗感、看護師と比較し医師の参加が少ないことが挙げられ、パネルディスカッションではカイゼン手法の実践における促進・阻害要因について話し合われました。チャットや質問欄には様々な質問や意見が飛び交い、活動への関心の高さが伺えました。

来年度以降の本研修に託す想い

 JICAと共に研修と本ウェブフォーラムの運営に携わった実施者からのメッセージを紹介します。

 2016年度から2020年度までの帰国研修員にフォローアップの機会を、本年度の研修員に今後の活動イメージや指針を提供できる機会を積極的に創出したいと考え企画しました。フォーラム中、参加者から寄せられた多くの質問やコメントから、病院管理、質・安全や医療従事者の行動変容、5S-KAIZEN-TQM手法に関する高い関心を確認できました。また、活発なパネルディスカッションを通して5S-KAIZEN-TQM手法実践における促進・阻害因子を明らかにすることができました。実施後のアンケート結果からは、エジプト、ガーナ、ウガンダ、タンザニアの4カ国の帰国研修員による活動発表に対して、「知識のアップデートに大変有用」、「自施設でもがんばろうと思う」などの声が寄せられ、大変好評でした。同様のフォーラムを定期的に継続してほしいという多くの声が寄せられ、今回の実施からの経験を活かして、帰国研修員にさらに裨益できる知見共有の場を将来企画したいと考えています。(株式会社フジタプランニング 宮本 勝行様)

 研修を通じて得られた学びが研修員の努力によって各地で活かされ、良い効果を着実に生み出していることを確認でき、とても嬉しく思います。研修員同士の相互の学びがこれからも持続することを願いながら、JICAは今後も経験豊富な協力機関と共に実践的な研修を創り上げていきます。


報告者:人間開発・計画調整課 坂本 玲