【12月12日ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デー】すべての人に健康を!(No.1)

12月12日はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デーです。UHCとは、すべての人が経済的な困難を伴うことなく、十分な質の保健医療サービスを受けることのできる状態を指します。JICA東京では、研修という国を超えた学びの場を通し、UHCの実現を目指しています。

2021年12月10日

UHCとは

 2012年12月12日、国連総会において、UHCが国際社会の共通目標とし採択され、2017年の国連総会で12月12日を「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デー」とすることが定められました。また、2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、ゴール3の「すべての人に健康と福祉を」に向けたターゲットの一つとしてUHCが盛り込まれています。
 世界では人口の半分(35億人)が健康を守るための質の高い基礎的サービスにアクセスできていないとされています。物理的に医療従事者がいない・医薬品がない、経済的に保健医療サービスを利用できない、社会慣習的に保健医療サービスへのアクセスが遅れてしまう人びとが多くいます。
 JICAは長年にわたり、保健分野の協力を続けてきました。近年では、UHC実現に向け、医療保障制度の整備にも力を入れています。

UHCの実現を目指して:JICA東京で実施している保健分野の研修のご紹介

大阪健康安全基盤研究所で「次世代シークエンサー」について説明を受ける研修員(2019年度「UHC時代の結核制圧と薬剤耐性」研修)

 UHC の実現を目指すにあたり、基本的な保健医療サービスへのアクセスの確保に加え、保健医療システムの強化がかかせません。保健医療システムとは、保健医療に携わる人材育成、医薬品や医療機器の適切な取り扱い、保健医療サービスの提供、ガバナンスや政策にかかわるリーダーシップ醸成等、多岐にわたります。
 JICA東京の研修員受入事業では、保健分野の研修を通し、各国がUHCを実現するための協力をしています。「UHC時代の結核制圧と薬剤耐性-検査リーダーのための実施訓練を通じた知識と技術の向上-」研修では、結核撲滅を目指す研修が行われています。これまでに92ヶ国から1,793人を受け入れており、来年で60周年を迎えます!各国の結核対策のリーダーたちが参加し、経験や知識を共有し一丸となって課題解決のための学びあいをしています。
 「ユニバーサルヘルスカバレッジ達成のための医療保障制度強化」研修と「保健衛生管理—リーダーシップ及びガバナンス」研修のある講義では、コロナに罹った場合の日本の保健所の役割、感染者の把握方法、病院にかかった場合の医療費について、ケーススタディーを通して、研修員が自国の状況と比較して様々なことを学びました。 リベリア研修員からは「濃厚接触者に連絡を取ってもなかなか電話に出てもらえない」という声が、ウガンダ研修員からは「そもそも公的保健のシステムがない」との声が聞かれました。また、フィリピン研修員からは、「保険はあるが、政府による財政支援が限界に達したために、コロナに感染した人たちが医療費を心配して病院へ行かないことが課題」との意見があがりました。
 「UHCに向けた保健政策の策定及び実践」研修では、各国の保健衛生政策の策定において中核的立場にある行政官8名が積極的に参加し、スピード感のある議論が繰り広げられました。日本、各国のCOVID-19対応の紹介に加え、 建物などの物理的な感染対策、ウィズ/ポストコロナにおける医師や看護師などの人材育成、社会的弱者のセーフティネットなど、保健政策を考える上で重要な複数のテーマが取り上げられ、COVID-19の流行で様々な制約がある中でも、UHCの推進がより一層重要である点を改めて認識しました。
 この他にも、「アフリカ仏語圏地域 女性と子どもの健康改善-妊産婦と新生児のケアを中心に-(行政官対象)」研修と「母子継続ケアとUHC」研修、「妊産婦の健康改善」研修を通して、母子保健を通じたサービス提供体制の強化を、「臨床検査技術ー新興・再興感染症にも対応できる臨床微生物学ー」研修では臨床検査技師の技術向上に取り組む等、さまざまなアプローチでUHCの実現を目指しています。

UHC達成に向けて~国際協力専門員が研修事業に託す思い

遠隔でタジキスタン研修員のアクションプラン作成を指導(右上が尾崎専門員)(2021年度「妊産婦の健康改善」研修)

 JICAには、特定分野に関する高度な専門性や実務経験等を基に、JICAの協力事業にエキスパートとして携わる「国際協力専門員」(以下、専門員)がいます。尾崎敬子専門員は保健医療分野、とりわけ、母子保健分野において、UHC実現に向けた取り組みを続けています。
 尾崎専門員は、長年にわたり、インドネシアにおいて、「母子手帳による母子保健サービス向上プロジェクト」や「地方分権下における母子健康手帳を活用した母子保健プログラムの質の向上プロジェクト」等に携わり、世界のUHC実現に向けて活躍してきました。2020年度から実施している遠隔研修においても、研修員の学びを深めるよう尽力しています。本記事では、公益財団法人ジョイセフのご協力の下に実施している「妊産婦の健康改善」研修について、尾崎専門員の研修現場での苦労を交えたメッセージをご紹介します!

「母子保健はUHCで補償すべき主要なサービスです。日本には、戦後、(当時その言葉はありませんでしたが)UHCを実現するために、母子保健と結核などの感染症対策を軸にヘルスシステム強化を進めてきたという歴史があります。日本の経験と、各国の保健行政官の現場の知を融合して、国際的アジェンダに取り組む、その一つの形が国際的な学び合いの場である本研修です。
 2020年からの研修は、コロナ禍での完全オンライン実施という新たな次元で実施されました。途上国の保健行政官は、コロナ対策に奔走する一方で、必要な母子保健サービスを現場で届け続けるために困難に直面する毎日です。そのような中で、必要とされる研修を提供できるか、主催者側の手探りが続きました。
 ライブセッションでは、途切れがちな回線、BGMに飛び込むにわとりの鳴き声、リアルにヤシの木が画面に映り込む中、講師や他の参加者から一つでも、自らの課題の解決のヒントを得ようとして、あるいは自身の好事例を共有しようとして、来日研修での対面実施に劣らぬ活発な議論が行われました。過去の研修員が参加した時間帯は、オンライン同窓会となり、同じ国にいる仲間とのつながりも確認しました。2週間後、1か月後、3か月後に設定された中間、最終発表の場では、動画交じりの報告があり、さらにあゆみを進めることを誓い合いました。
 途上国の行政官には、「『すべての母子の健康のために』という同じ目標を持つ仲間と、国を超えてつながっていたい」という想いがあり、「つながることで強くなる」場を、JICAは研修を通じて提供できる、そのことを確信した2年です。来年以降、対面を含め、さらにパワーアップした研修の実施に期待していただきたいと思います。」

 JICA東京では、今後も保健医療システムを強化してUHCの実現に貢献できるよう、研修員受入事業を実施していきます。