だれもがより過ごしやすくなるためには?「国際理解セミナー」実施報告

千葉県の小学校の先生が取り組む「人間の安心・安全保障」とは?

2022年12月27日

国際理解セミナー

12月4日(日)、(公財)ちば国際コンベンションビューローとJICA東京・千葉デスクの共催オンラインイベント「国際理解セミナー」が開催されました。
日本在住外国人の現状についての講演とJICA教員研修の報告を通して、講師・報告者・参加者含め約100名で「誰もがより豊かに生きられるようにするにはどうすればいいか」を考える、気づきや学びの多い時間になりました。

●イベント概要
「国際理解セミナー」
12月4日(日)
13:30~14:30 講演①「多文化共生社会の実現に求められることとは?」 
        講師:千葉大学社会科学研究院教授 小川玲子先生
14:30~15:20 講演②「『外国につながる子どもたち』は何を学んでいるのか」
        講師:千葉大学国際学術研究院准教授 小林聡子先生
15:30~16:30 教員のためのSDGs研修 報告会
        報告者:流山市立向小金小学校教諭 生方彩香先生
            千葉大学教育学部附属小学校教諭 土井真智子先生


それぞれのパートで話題に上がった部分をご紹介いたします。

「日本人」って?

小川玲子先生

   
●講演①「多文化共生社会の実現に求められることとは?」

あなたにとって「日本人」とは誰ですか?「外国人」とは?

千葉大学の小川玲子先生が参加者に問いかけました。
出生、言語、文化、国籍、民族、アイデンティティ...
「日本人」「外国人」の判断基準はどれでしょうか?
日本の中で、年々多様化が進んでいます。
全国的に在住外国人が増え、千葉県で暮らす外国籍の方は約16万人、全国6位の人口です。
千葉県では、アフガニスタン国籍、スリランカ国籍住民が急激に増加しています。
彼らを対象に行われた調査によると、在日年数が短く日本語レベルが高くはない方が多いそうですが、彼らの子どもたちは就学前や学齢期で、永住志向が強いそうです。
現時点では教育や医療福祉の分野での支援は必須ですが、彼らが地域の一員として暮らし続けることで、人口減少が進む地域における「地域の担い手」になることができます。
つまり、支えられる側が支える側にもなるということです。
課題は沢山ありますが、社会の担い手として承認し、行政と民間で連携し、人的資本への投資(支援)を行っていく必要があることを、小川先生は強調していらっしゃいました。

小林聡子先生


●講演②「『外国につながる子どもたち』は何を学んでいるのか」

小林聡子先生も、「日本人」という言葉の中身を考えるところから講演を始められました。
帰国性などの日本語指導が必要な日本国籍児童生徒や、両親のどちらかが外国籍の児童生徒も増えている中で、日本人と外国人の明確な境目が薄くなっています。
教育現場では、日本語指導が必要ということで特別支援学級に在籍している児童生徒もいるということでした。
ここで小林先生は実際に参加者に対して、アメリカで行われている英語での知能テストを2問出題されました。
日本語で問われたらすぐにわかる問題も、英語になると正答率が下がります。これと同じことを、日本語指導が必要な子どもたちに行っている現状があるのです。
現在の日本の知能テストは多様なバックグラウンドを持つ生徒たちに不適切なため、「発達障害」と診断される外国籍生徒が出てしまうそうです。
「知能」や「学力」の評価ツールと「日本語」の評価ツールを一緒に評価され、そして子ども自身の「問題化したくない」という思いと行動によって、日本語指導が必要な生徒の実際の能力を探ることは時に困難です。
そこで小林先生は、特定の関係性に閉じず、多様性を多様性のまま捉えられる社会づくりが必要であると締めくくられました。

誰もが安心して暮らせる社会とは

約50年続くJICAの教員研修。今年は「教員のためのSDGs研修」というタイトルで、「人間の安心・安全保障」に焦点を当てて国内数か所を回り、多文化共生や国際協力の現場お声を聞かせていただきました。
「国際理科セミナー」では、この研修に千葉県から参加した生方彩香先生と土井真智子先生が、研修で学んだことや、それを活かして教育現場で行った授業について発表しました。

右上から3番目:生方先生


●生方彩香先生
生方先生は流山市立向小金小学校の特別支援学級の担任をされています。研修で訪れた「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」で次の3点の大きな気付きがあったそうです。
・自分の学校の避難訓練は、訓練のための訓練になっていないだろうか。
・備蓄品(救急セット、生理用品、毛布など)の保管場所や中身をみんな知っているだろうか

・特別支援学級の児童たちが災害時に落ち着いて行動するためにできることを児童と共に考えたい。
生方先生は早速、災害について約10時間ほどの防災授業単元を計画、実施しました。
児童たちは、防災カルタで遊びながら災害について学び、本やタブレットを使って、お風呂やトイレに入っているとき、通学中、海の近くにいるとき、などそれぞれの場所で地震が起こったらどうするかや、どんなものを備蓄しておくべきかを調べ、「東日本大震災の時何をしていたか」「どんなことで困ったか」を家族にインタビューするなど、意欲的に学習を進めていきました。
今は、突然の災害時にも「ほっとした時の気持ち」を思い出し、緊急時にも役立つ「安心グッズ」を作っています。
グッズは、怪我をしたときに使え、マスクにもなり、持ち運びやすいということでバンダナを採用。不安な気持ちを落ち着かせるために遊べるバンダナにいようということで、スゴロクを描くことにしました。
生方先生は、「これは特別支援学級の児童だけでなく、普通学級の児童にとっても役立つものなので、学校に広めて、防災教育をもっと進めていきたい」とおっしゃっていました。

右上から2番目:土井先生


●土井真智子先生
土井先生はこれまでJICA海外協力隊に2度参加し、外国につながる子どもたちの担任をしたいという思いで外国籍の児童が多く在籍する学校で担任をしたり、海外の現地校もしくはインターナショナルスクールに2年以上在籍していた児童が在籍する「帰国児童学級」の担任をしたりしています。
教員のためのSDGs研修に参加して様々な現場を見たことで、土井先生自身も常に変化する「正しさ」を考え続け、自分をアップデートしていく必要性を感じたそうです。
そこで、宮城県丸森町での研修で目にしたメガソーラーの是非や、仙台市立荒浜小学校での研修で知った防潮堤の是非、そして知らない存在への恐怖(心の壁)を乗り越えるにはどうすればいいか、を授業で扱いました。
児童は二項対立の形で賛成・反対を選び、意見交換をしてお互いの考え方に影響を及ぼしあう経験をしました。
心の壁について考える中では、「知らないから怖い、偏見をなくし自分から積極的に調べたり話しかけることで怖くなくなる」という意見が出たそうです。
土井先生は最後に参加者にも問いかけました。
「普段心の壁を感じることはありますか?みんながより過ごしやすい社会にするには、どうすればいいでしょうか?」
大人も子どもも、考え続けていくことで現実が少しずつ動いていくのではないでしょうか。

約3時間のセミナーで、様々な視点から多文化共生や安心・安全ということについて考えることができました。
これからも、一つの型に捉われず、多様性に対応して変容する社会づくりを考えていきたいと思っています。

先生自身の多様な経験が教室を豊かにする 

新型コロナウイルスの影響で、2020年からのJICA教員研修は国内で開催してきました。
しかし少しずつ落ち着いてきたことで、来年度は海外研修を実施できる見通しです。

国内研修でもとても大きな学びを得ることができましたが、実際に海外に行って国際協力の現場に触れることで、異文化での生活を五感で体験し、移動中や何気ない風景からも思いがけない気づきや学びを得ることができます。
教室内も多様化している昨今、教員自身が多様な経験をされることで、教室も豊かになります。
JICA海外研修にご関心のある先生方は、ぜひ新たな情報をお待ちください!

JICA千葉デスク 木村