JICA留学生が「トキと共生する佐渡の里山と文化芸能」をテーマに新潟県佐渡市を訪問しました!

2023年5月26日(金)~5月28日(日)、JICA留学生が新潟県佐渡市を訪れ、佐渡独自の歴史(金銀鉱山発展と島人口の増加、棚田の開発、トキ保護の取組等)や文化・芸能などを含めて形成されている「トキと共生する佐渡の里山」を育む佐渡市の試みや課題を学びました。

2023年6月8日

佐渡の地域理解プログラムについて

本地域理解プログラムには、9カ国11名のJICA留学生が参加。日本産トキの絶滅をきっかけとする生物多様性保全型農業の推進を通じた環境保全と農業の両立への取り組み、ならびに島独自の文化を活かした地域創生などを中心に、近年の佐渡島の統合的な地域開発の歴史と現状について理解を深め、日本における農業を軸とする地域開発の具体的事例を知る機会となりました。

講義「トキとの共生」~佐渡市役所~

講義風景(両津港近くあいぽーと佐渡にて)

佐渡の歴史、文化(鬼太鼓、能が各村で育まれていること等)、画一的な作物生産から各地域に合ったレジリエントな農業を目指す「世界農業遺産」、トキを含めた生き物を育む農法等の説明があり、最後に、食べる人がいなければ環境にやさしい農業を継続することはできず地産地消の推進への訴えで締めくくられました。留学生からは「トキと人が共生できる理想的な個体数と人口比」「通常のコメ作りと比べ生産性が落ちるのか」等、活発な質問があがりました。

交流会

グループ毎に話し合った結果を発表。シェアリングタイムの様子

夕食後、参加者は3グループに分かれ、佐渡と自国の共通点(過疎化、雇用問題等)や自国の開発課題を共有しあい、本プログラム参加を通じてこうした課題の解決への手がかりを掴むことについて意識づけを図りました。また、「日本の生活で苦労したこと、どのように乗り越えたのか」をテーマに話し合うことで、大学・国を超えて日本に留学する者に共通する悩み(病院や買い物で感じた言語の問題、積極的な意見表明をしない日本人との壁、等)を吐露し、乗り越える工夫を話し合うことで親睦を深めました。

講義・視察「朱鷺と暮らす郷づくり」~齋藤農園、トキの森公園~ 

齋藤農園、齋藤氏の取り組みに感銘を受けた留学生が、一緒に写真撮影を! とリクエストする一コマもありました。
左、齋藤農園齋藤氏、右、SDGsグローバルリーダーコースで来日中の東京大学在学中スリランカ留学生 KARTHIGESU Jeyavananさん

苗を植えたばかりの田んぼアートを背景に記念撮影!

トキの森公園で望遠鏡を使ってトキの様子を観察する留学生

  
齋藤農園の齋藤真一郎氏の講義では、トキとの共生を目指した背景(トキは佐渡人の化身であること、農薬導入により重労働から解放された代わりに田んぼから生きものが消えてしまったこと)、トキが田んぼに再び現れるようになったことが農家の認識を変えていったこと、国の環境農業政策の制定の動き(佐渡の取組が認められた)、環境と経済との両立へのジレンマと佐渡を担う子供たちへの想い、について説明がありました。留学生からは「経済最優先ではなく生物多様性農業を実践することの重要性を理解した」「斎藤氏がいかに他農家を巻き込みながら取り組まれてきたかが参考になった」とのコメントがあり、ご自身の経験に基づく齋藤氏の言葉に感銘を受けていました。
 

後半は田んぼアートへ移動。青森県(田舎館村)の取組に感銘を受け開始したことが、齋藤氏より説明がありました。なお、齋藤氏によると、田んぼアートは佐渡市朱鷺と暮らす郷づくり推進協議会が主催し経費を負担、消費者、生産者の交流の場として活用され、イベントとして田植え、稲刈りが行われており多くの協力者がいるとのことです。水田には時折トキが飛ぶ姿が見られ、トキとの共生を肌で感じることができました。
 

その後、視察したトキの森公園は、自然に近い環境下で繁殖支援を行っており、マジックミラーによりトキの生態を間近(「トキまで2センチ」が合言葉)で観察できる公園です。訪問時、1羽が餌場に舞い降り至近距離で観察できた他、雌雄のトキの鳴き声を聞くことができました。また、トキは繁殖期に首回りから出る粉を嘴で塗り付けることで羽色が変化すること、外見から雄雌の見分けはほぼ不可能であること等、その不思議な生態について学びました。斎藤氏による説明を踏まえ、さらにトキの生態について理解を深める機会となりました。

地域開発の視点にて学校蔵の取り組み紹介~尾畑酒造学校蔵~

尾畑酒造 尾畑氏より酒造りの説明を受ける留学生たち

学校蔵内の角打ちバーにて。

尾畑酒造学校蔵5代目蔵元の尾畑留美子氏より、廃校となった小学校を酒蔵として再生した「学校蔵」について、資源循環型の運営方法を中心に説明がありました。また、課題先進地である佐渡から日本の未来を考えることに共感する有識者を招いての特別授業の実施(次回は藻谷浩介氏と養老孟司氏)、東京大学・芝浦工業大学や企業とのコラボについても紹介がありました。
留学生からは「廃屋活用を含め地域活性化への取組は有意義であった」「広い視野のもと、戦略を持って取り組まれており素晴らしい」等のコメントが寄せられると共に、日本酒への関心が深まり留学中に各地の醸造蔵を訪問したいとの声が聞かれました。

「小倉千枚田(棚田)」見学 

小倉千枚田にて

小倉千枚田は、金銀山発展に伴い新田開発されたものの、閉山により荒廃していた棚田をオーナー制度により復興したものです。
留学生からは「急こう配の山間にも棚田を作った日本人の努力を母国にも伝えたい」「都市部の住民との交流により保存を図っている点が興味深かった」との声がありました。

佐渡金山(道遊坑コース)・資料館及び北沢浮遊選鉱場跡見学

「道遊坑」での見学の様子

産業遺跡、北沢浮遊選鉱場跡にて

明治時代開削され、金山の近代化に大きく貢献した機械掘り坑道、国重要文化財・国史跡である「道遊坑」を視察後、「東洋一」の施設と言われた北沢浮遊選鉱場跡を視察しました。
「道遊坑」では、農業機械が専門の留学生が、自ら修理工場に展示された機械類について解説を加えてくれたことで、参加者の理解をさらに深めることに繋がりました。

伝統芸能祭「佐渡國鬼太鼓どっとこむ」

茶道体験を楽しむ留学生

会場内で鬼との記念撮影

偶然、伝統芸能祭「佐渡く國鬼太鼓どっとこむ」の日に重なったことから出港前に参加しました。地元の高校生や保存会の方々による様々な鬼太鼓の舞を間近に見ることができた他、地元の方との写真撮影、体験ブースでの茶道体験、佐渡の海産物を使用したお惣菜・お弁当の購入など、留学生は一様に日本の伝統文化を愉しみました。

地域の歴史、文化、特性を学び、共に考える

佐渡市が取り組む「トキとの共生」を主眼としたプログラムに、留学生からは、「直接目聞きすることで、ただのトキの島だと思っていた佐渡に、特別な価値を見出すことができた」「佐渡の持続可能で環境にやさしい農業の取組は自国に持ち帰りたい」等、多くのポジティブな感想が寄せられました。また、佐渡の活性化に向けて献身的に取り組む講師陣の姿勢に心打たれたと言う留学生が多く、留学生の記憶に残るリアルな体験をしてもらう機会となりました。今後、今回ご協力いただいた関係者に加え、朱鷺・自然再生学研究センターを有する新潟大学とも連携することを視野に、更に充実したプログラムとしていきたいと考えています。

報告者名 長期研修課 今沢 優子