日本の法制度に学び、自国ラオスの法分野の発展へ:JICA留学生インタビュー

2023.04.07

JICAは、途上国の各分野で将来のリーダーとなる人材を育成すべく、日本の大学と連携し、「JICA開発大学院連携プログラム」を実施しています。このプログラムでは、途上国からの留学生を毎年1,000名ほど日本の大学院に受け入れる取り組みを進めており、人材育成や送り出し国との友好関係の基盤の拡大と強化にも貢献しています。留学生たちは帰国後、将来の指導者や国の発展に寄与する中核人材として活躍することが期待されており、実際に母国のさまざまな分野での活躍が多く見られます。

この記事では特にラオスの法分野におけるJICA留学生にスポットを当て、JICAの留学生受け入れ協力が、どのような効果をもたらしているのかに迫ります。現在母国ラオスで活躍中の帰国留学生と、現在も日本で学ぶ現役留学生の双方に話を聞きました。

帰国留学生のブンター・ソンユータオ司法省副大臣(写真左)と現役留学生のソンブーン・ホサクンさん、アリサマン・ポムマチャンさん(写真右。左から)に話を聞いた

「行くべき国を見つけた」 ラオスに適していた日本の法制度

「海外で修士号を取得したいと思っていたときに、日本の法制度がとてもラオスに適しているということを知りました。ついに行くべき国を見つけたと思い、JICAの留学プログラムに応募したのです」。そう話すのは、ラオス司法省のブンター・ソンユータオ副大臣です。

ブンター副大臣がJICAの留学生として来日したのは、2001年のこと。当時プログラムの一環として実施されていた半年間の日本語学習ののち、名古屋大学大学院法学研究科に入学し、2004年に修士号を取得。帰国後は、日本で学んだ法制化プロセスの知識を活かし、司法省刑事局の主任として法案の検討、制定に携わりました。その後も内閣副長官、人事局の局長などを歴任し、2021年に司法省副大臣に。主に法の普及や司法分野の人材育成などを担っています。

オンラインで取材に応じるラオス司法省のブンター・ソンユータオ副大臣。人材育成奨学計画(JDS)2期生として日本留学し、名古屋大大学院で学んだ

「日本の教授や友人たちは、私の勉強や日常生活を助けるために、いつも手を差し伸べてくれました。大学院の修了式にサプライズで花束をくれて、胴上げしてくれたことは一生忘れません。いまだに当時の仲間と連絡を取り合っていますよ」と当時を懐かしく振り返ります。

ブンター副大臣のようにJICAの留学プログラムを利用して日本の大学院を修了し、ラオスの司法省で活躍する元留学生は、10人以上にのぼるといいます。「彼らは皆熱心に働き、日本の法制度も参考に法整備を行いました。特に、民法や民事訴訟法に大きな影響を与えています。ラオスは法律分野ではまだ後進国。今後も留学生が学びを得て帰ってきてくれることは、ラオスの法分野の発展のためにも非常に良いことだと思います」。ブンター副大臣は現在、そして未来の留学生にも期待を寄せます。

日本留学時代のブンター・ソンユータオ副大臣。北海道での研修では、うどん打ちも体験した

それぞれの道を目指す若手弁護士2人、JICAでインターンも経験

アリサマン・ポムマチャンさんとソンブーン・ホサクンさんは、慶應義塾大学大学院法務研究科で学ぶ現役留学生です。いずれもラオスで弁護士として活動後、2021年からJICAの留学プログラムを利用して日本で学んでいます。

「弁護士としてラオスで働く中で、日本のクライアントに法サービスを提供し、日本の弁護士と一緒に仕事をすることがあります。日本の法律や法務を学ぶことはスキルの向上に役立つと考えました」(アリサマンさん)
「日本に留学経験のあるラオスの先輩弁護士たちが皆、尊敬できる人たちばかりでした。彼らのようになりたいと思い、留学を望み、夢が叶いました。JICAのプログラムのおかげです」(ソンブーンさん)

(左から)アリサマン・ポムマチャンさんとソンブーン・ホサクンさん

アリサマンさんは、NGOとしての弁護士会の独立に関心を持ち、大学院でその活動や存在意義、司法省との関係について研究しています。「ラオスの法の規定により、弁護士が政府当局の介入を受けることはありませんが、ラオス弁護士会(LBA)は日本弁護士連合会(日弁連)のように弁護士会が司法省から独立していません。日本での学びを生かして、帰国後はLBAの発展に貢献したい」。

ソンブーンさんは、ラオスの法律に基づく土地紛争の解決方法について研究を進めています。博士課程まで勉強を続け、将来は法学部で教鞭を取りたいと話します。「日本は法執行が厳格に行われているけれど、ラオスはまだゆるい。市民の生命や財産を脅かす道路交通法違反や、騒音問題、脱税行為など法律を無視した行為もまだ行われています。貧しい人を助けるための法制度を作るのが最終的な目標です」。

2人は今年9月に大学院を修了予定ですが、それに先立ち、この2月に、JICAの法・司法チームのインターンシップに参加。そのプログラムの一環で、日弁連と法務省国際協力部(ICD)へのインターンシップも実現しました。JICAとICDの途上国への法整備支援をはじめとする幅広い活動について知り、日弁連では裁判の傍聴や所属弁護士との意見交換を行いました。今後もJICAやICD、日弁連のメンバーと交流を深めることを楽しみにしていると言います。

JICAでのインターン最終日、2人はそれぞれインターンの成果をプレゼンした

留学プログラムを活用した、人材育成への地道な協力が重要

ラオスでは、2018年に同国史上初の体系的な民法典が成立、2020年から施行されています。JICAは1998年から20年以上、ラオスの法整備に対する協力を続けており、2012年からこの民法典の起草の支援も行ってきました。

アリサマンさんとソンブーンさんの指導教授である、慶應義塾大学大学院法務研究科の松尾弘教授は、2002年からJICAのラオスの法整備支援プロジェクトに携わってきました。
「ラオスの基本法の整備は一段落しましたが、これから消費者法など必要な特別法の制定や、基本法の改正を通じて、法解釈論および立法論が発達し、ラオスの法律学が育っていくことが、ラオスの法制度が発展していくための鍵を握るものだと思っています。そのためには、JICAの留学プログラムを活用して、法分野の人材育成に地道に協力していくことが、ますます重要になってくると思います」(松尾教授)

  • JICAの留学プログラムには、人材育成奨学計画(JDS)や研修員受入事業(長期)などがあります。

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