「立ち上がれ、縫製業の次となる産業!」 バングラデシュの産業多角化に向けたJICAの挑戦

2023.04.24

 「日本バングラデシュ友好樹立50周年となる2022年、この国の産業構造を変える工業団地が開業します」と語るのは、Bangladesh SEZ Ltd(BSEZ社)の河内太郎社長。バングラデシュ経済特区( Bangladesh Special Economic Zone: BSEZ )は、2022年12 月 6 日、華々しく開業式典を行いました。

 バングラデシュ初となる国際水準の経済特区 (工業団地)であり、日バ友好の象徴として日本支援による準備が長年進められていたBSEZ。この開発をJICAが後押ししてきた背景には、「バングラデシュが「縫製業一本足打法」から卒業するための大きなマイルストーンになる」という想いがあります。BSEZに対して、JICAがどのような包括的な協力を行ってきたかを紹介します。

BSEZ開業式(前方左がBSEZ社河内社長)

最重要課題である産業多角化に向けたJICAの取組

バングラデシュはコロナ禍においても安定した高い経済成長を続けています。人口1億7千万人という世界第8位の人口大国であり、平均年齢が27.6歳で若年層が多いことから、成長著しいアジアの中でも、豊富な労働力と消費市場としてのポテンシャルが大きな注目を集めています。一方、バングラデシュの産業セクターは、その約4割、さらに同国の輸出の8割以上を縫製業が占めています。安い人件費を売りに縫製業は他国との競争性を維持していますが、急速な経済成長を見せているバングラデシュにおいて人件費の高騰は近い将来に迫っており、今後の産業転換が求められています。

 JICAバングラデシュ事務所市口所長は、「FDI(外国からの直接投資)の促進等を通じた産業多角化・高付加価値化は今後のバングラデシュへの支援の中でも最も重要なテーマ」と語ります。中でも最も注力してきたのがバングラデシュ初の国際水準の工業団地となるBSEZです。様々な不確実性(リスク)が存在するバングラデシュにおいて、民間企業が製造業に安心して投資を行えるビジネス環境を整備することが、FDI誘致において最も重要だからです。

 BSEZの開発に際して、JICAは前例の無い包括的な協力によって、BSEZへの投資の魅力を引き立てています。

JICA史上前例のない唯一無二の包括的協力

 BSEZの大きな魅力はBSEZのインフラ整備体制です。 アジアの工業団地整備では、運営会社がインフラ整備を一括で実施するのが一般的ですが、洪水が多く、土地造成だけでも多額の初期投資が必要なバングラデシュのBSEZでは、公共資金を活用し、民間企業の初期投資を減らしました。100年間で最大規模とされる洪水にも耐えられるバングラデシュ初の国際水準の高規格工業団地として整備しています。
 バングラデシュ政府がBSEZ周辺インフラ(工業団地までのアクセス道路等)と下物のインフラ(工業団地の土地造成等)を政府資金で整備し、BSEZ社はBSEZ内のインフラ(工業団地内のアクセス道路等)を整備しています。JICAは、バングラデシュ政府のインフラ整備資金を円借款により支援しており、日本の官民一体で整備するBSEZへの日本企業からの信頼は大きいです。河内社長は、「日本企業を中心に40社程度の引き合いがあり、開業後の販売経過としては好調」と語ります。

BSEZ整備体制

 次に、BSEZ社の出資構成も特徴的です。JICAはBSEZ社の出資資金を、①円借款事業を通じたバングラデシュ政府出資分へのファイナンス(Equity Back Finance)、②海外投融資によるBSEZ社への直接出資、によって支援しており、BSEZ社の運営も日バ両政府からの後ろ盾があります。

BSEZ社 出資構成

 また、BSEZ入居企業への進出促進に向け、経済特区における煩雑な投資許認可行政手続きを簡素化するためのワンストップサービス(OSS)の制度構築、さらにBSEZにおけるOSS事務所の設立も技術協力で支援しています。市口所長は、「半年から1年かかっていた工事開始前の経済特区での投資許認可が、OSSの整備により早まり、3か月程で工事を始められるようになってきた」と着実な投資環境の改善を実感しています。また、JICAはBSEZ入居企業へのタカ(注)建ての低金利融資も円借款によって支援しており、日本企業への進出促進も行っています。開発から運営まで、これだけ多角的かつ包括的な支援を行っているのは、数あるJICAの取り組みの中でも本事業のみです。
注:バングラデシュ通貨

BSEZ入居企業へのJICA支援

広がる産業バリューチェーン!産業多角化への今後のJICA協力

 国内に約100カ所の経済特区を整備するという野心的なバングラデシュ政府の工業団地整備計画の中で、国際水準の工業団地が特に期待されるのは、BSEZ、チッタゴン北部のミルショライ地域、バングラデシュ南部のマタバリ・モヘシュカリ地域の3エリアです。臨海部であるミルショライ地域、マタバリ地域は縫製業に代わる産業となる重工業等の誘致が期待されており、2014年日バ首脳会談で言及されたベンガル湾成長地帯(BIG-B)構想の重点地域・分野に位置づけられています。

 市口所長は「バングラデシュ唯一の大水深港の地理的優位性を生かし、20年後のマタバリ地域には産業バリューチェーンの上流企業の進出を期待しています」と語ります。マタバリ地域では、今後1兆円規模の投資を呼び込むべく、円借款事業「マタバリ港開発事業」等を実施しており、総合開発計画の策定から、電力・エネルギー、港湾・道路等の各セクターでのインフラ整備協力まで、更なる包括的な協力を実施していく方針です。

BSEZ開発地

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