「農」を核とした途上国の人材育成:「筑波×農×人づくり」の40年(後編)

2021年2月17日

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2021年1月20日にJICA筑波(つくば市高野台)で行われた座談会の様子

長年、JICA筑波で研修員受入事業に携わってこられた専門家の皆さんによる座談会。前編に続き、農業・農村開発分野の人材育成拠点としてのJICA筑波の魅力と、その魅力や機能をさらに伸ばしていくためのアイデアなどについて、活発な意見が交わされました。

(注)ご参加いただいた方の略歴などは前編でご紹介しています。

JICA筑波はまるで農業分野研修の「百科事典」!

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JICA筑波の研修の魅力・強みを語る浦山さん(右)。奥はJICA筑波渋澤職員。

浦山:
JICA筑波の魅力の一つは、農業に関する技術が体系化されているところだと思います。例えば、私は天水稲作分野の中で品種改良や種まき、田を耕す機械は櫻井さん、水管理についてはそれぞれ専門の講師が指導を行うことができます。研修員から様々な疑問・質問が出てきても、それに応えられる人材や資料が手に届く範囲に揃っている。JICA筑波はまるで、農業分野の研修の「百科事典」のようなところです。この「強み」を活かし、分野横断的な要素により重きを置いた新しい研修を企画してはどうか、と思います。

技術の伝達だけでない、農に対する「姿勢」を引き継ぐ場所として

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Attitude(態度・行動特性)に重きを置くJICA筑波の研修の強みを語る小山さん

小山:
もしかすると、技術や知識以外の部分がJICA筑波の「強み」となるのではないでしょうか。人のAbility(能力)の向上には、Knowledge(知識)、Skill(技術・技能)、Attitude(態度・行動特性)の3つ視点が必要である、という説を聞いたことがあります。JICA筑波の研修では、農家との付き合い方や、技術を学び、これを普及するにあたってはどのような姿勢で臨むべきか、といったAttitudeに重きを置きますよね。これは明らかに他国の研修機関にはないところで、研修員はこの部分に強いインパクトを受けているようです。ただ、私が30年近くJICA筑波にかかわる中では、このような強みやノウハウがなかなかうまく蓄積されていないように思われます。
狩野:
元JICA筑波所長を務めた私としては耳が痛いお話です。センターが創設された1980年代頃は、研修の運営と指導をJICA職員が直接担っていたのですが、2004年頃からは外部に委託する方針に代わりました。その結果、「一丸となってこの研修をよりよくしていこう」というJICA筑波全体の雰囲気が生み出されにくくなってしまったことは、とても残念なことです。

帰国した研修員の活躍の実態を把握し、日々高度化する途上国のニーズにも応えられる研修を

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帰国した研修員の活躍をJICA自身がもっと把握すべきと語る櫻井さん

櫻井:
実施体制の見直しは重要だと私も思います。JICAの長期専門家としてブータンに赴任していた間、日本の研修から帰ってきたブータン人材が、それぞれの地域で活躍している姿を多くみてきました。しかし残念なことに、JICA自体にその事実があまり知られていないように思います。帰国した研修員の活躍の実際の姿を把握するために、色々な工夫ができるのではないでしょうか。
浦山:
帰国した研修員といえば、私も「日本で学んだ成果を論文に書いたので読んでほしい」という相談を受けるようになりました。高度な専門性を持つ途上国の研究者が研修に参加するケースが多くなっており、自国で試験栽培などの研究に従事する彼らは、日本で学んだことをすぐに実践できます。彼らはJICA筑波を単に「知識を得る場」としてだけでなく、「知識の実践が出来る共同研究の場」と捉えているようです。研修員のニーズは確実に変化していますし、それに応えていきたいと思うばかりです。

「農」を通じた人づくりを、そして「JICA筑波」型を途上国にも

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第2・第3のJICA筑波を途上国で展開するアイデアを語る狩野さん

渋澤:
途上国の優秀な人材と日本の専門家や企業などを繋げる、という目的で、2020年度からJICA筑波は「農業共創ハブ」というネットワーク型のプロジェクトを始めました(注:末尾リンク参照)。このプロジェクトは、日本国内の農業人材の育成に貢献する、という目的も持っています。このような機能は、JICA筑波の存在意義のひとつですし、今後強化していくポイントだと考えています。
狩野:
2014年頃、インドネシアとエジプトの農業省から「周辺国を研修するためのセンターを作るので、筑波センターの取り組みを教えてほしい」と相談を受けました。この頃から、途上国にJICA筑波のような研修施設を作り、日本人専門家を派遣し、運営管理やカリキュラム作りを指導できないか、と考えるようになりました。日本の研修では一度に受入可能な人数の制限がありますが、途上国内の機関であれば、また彼ら自身の言葉で研修を実施すれば、研修の効率・効果は数倍高くなるのではないでしょうか。その過程で、JICA筑波の精神を伝えることも可能ですし、我々が彼らから新しい情報を得て、日本の研修に活かしていくこともできますよね。

できることは今すぐ実践、JICA筑波の次のステップは?

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専門家の皆さんのご意見に大いに刺激を受けたJICA筑波渡邉所長

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現在のJICA筑波センター外観

浦山:
私も取り組んでみたいことが二つあります。一つは、女性の農業指導員が参加しやすい研修を企画し、次世代の育成をはかること。もう一つは、帰国した研修員に、栽培論、統計、実験の説明など何でも良いので、オンラインで講義をしてもらうことです。講義してもらえるだけの実力のある、優秀な研修員が増えてきた、ということです。
渡邉:
2020年度、JICA筑波はコロナ禍により、積極的にオンライン研修を導入しました。オンライン研修活をさらに活用することにより、参加者の多様化や、高名で多忙な海外の有識者による講義などが実現する可能性がありますね。JICAとしても、ICTなどを一層活用し、研修員や留学生、過去にJICA事業に参加してくださった人々を繋げられる仕組みを作れたら、と考えており、少なくとも農業分野においては、JICA筑波がそのような「ハブ」機能を担いたい、と強く感じます。
本日はJICA筑波の40年を振り返るなかで、たくさんのアイデアやご意見をいただきました。これからもよりよい研修、よりよいJICA筑波のため、ご助言・ご支援いただければありがたいです。